18話 傷喰いの理
北東に進みながら避難場所を探した。
傷の痛みはまだ抜けない。あの白いフェレットの氷槍を直撃で受けた胸、肩、脚、横腹。また同じような戦闘になったらどうなるかわからない。
何時間歩いただろう。岩の壁に裂け目を見つけた。奥が浅いが洞窟になっている。風も雪も入ってこない。出入り口は木などを加工すれば塞げる狭さだった。
ケイトは奥に毛布を敷いて、小さく火を起こし、フェレットの肉を焼いて食べた。今回は苦しみがなかった。同じ獣の肉なら、二度目は体が受け入れるということか。
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火を眺めながら、これまでに自分に起きたことを思い返してみた。
体が頑丈になり、毒が効かなくなった。他人の剣技が自分のものになった。フェレットの氷槍を受けて水属性が使えるようになっている。
全部、受けたダメージが自分の中で何かに変わっている。
だがもう一つ、気になることがある。
あのフェレットを喰った後にもう一度氷を出してみると、戦闘中に撃った氷撃の塊ではなく、フェレットと同じ氷槍になっていた。
仮説を立てた。ダメージを「受けること」で得られる能力と、「喰うこと」で得られる能力は違う。
まだ検証は足りない。同じ結果が別の獣でも再現されるか試す価値はある。
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翌日、洞窟を出て探索をしていると、岩場の影から赤茶けた獣が出てきた。胴体の長い犬型。あのフェレットの倍はある。口元から熱気のような光が漏れている。
攻撃される前にケイトは盾を構えた。
炎の球が盾の表面で弾けた。
炎球。
盾で正面は防げたが火の粉が顔と腕に飛び散って革鎧の隙間を焦がした。氷の次は炎か。
反撃に氷槍を放った。掌から伸びた青白い槍が獣の脇腹に刺さる。獣は呻いて崩れたが、まだ息がある。ケイトは距離を詰めて剣で首を断った。
拠点へ戻ったあと、新しい能力が発現するか試した。
青白い氷とは別の光。赤い炎が小さく揺れた——火撃。火の粉を浴びたことで火属性が使えるようになっている。
ここまでは前回と同じだ。問題はここから。
肉を火で炙って噛みついた。
体の奥で、また何かが動いた。あのフェレットの時と同じだった。胃から胸へ、胸から指先へ。熱が自分のものになっていく感覚。
ケイトは咳き込んだ。胃の奥が熱い。それでも食べ続ける。
もう一度火を出してみた。
しばらくして掌の炎が形を変えた。赤い球が指の上で凝る。あの犬の炎球だった。
(再現した)
受けて火撃。喰って炎球。前回と同じだ。
ダメージを受けて基本属性が得られ、喰うと固有の能力まで手に入る。
屋敷の家庭教師が言っていた。スキルは生まれたときから固定で変わらないと。だが自分のスキルは違う。受けるたびに、喰うたびに変わり続けている。
鑑定で???と出たのは当たり前だ。既存の分類に収まらない。
(傷を喰って、能力に変える)
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数日後、ケイトは山岳低層を目指し奥へ進んだ。
次に出会ったのは大蛇だった。胴体の太さがケイトの腿ほどある。ヴァイパーの倍以上ある体格で口から岩の塊を吐いてくる。
岩弾。
ケイトは盾を構えたが岩弾の衝撃で体が後ろに吹き飛ばされた。地面に当たった岩弾で地盤が揺れる。
(もう一発はもたない)
炎球を撃った。掌から赤い光の塊が飛び大蛇の頭に当たる。鱗が焦げたが致命傷ではない。
ケイトは鎌首をもたげる大蛇に駆け寄り、剣を抜いて力いっぱい下から首を切り上げた。鱗が硬い。刃が途中で止まった。迷わず別の剣を抜き、二撃目で骨を断った。
掌を地面に向けてみた。足元の岩がわずかに震える。岩弾を受けた衝撃が、もう体の中にある。
倒した大蛇を喰うと感覚が変わった。胃から下半身へ、足の裏から地面に流れ込む。先ほどの震えとは別の何かが加わっている。
掌を地面に当て直すと、地面の下から岩の塊が盛り上がる——岩弾。
まだ他にできる気がして掌を地面に押し付け能力を発動した。
掌を中心に地面が線を引いて広がり、足場が思うままに変形する感覚——土陣。戦闘では見ていないが恐らくあの大蛇の能力だろう。
三例目。ダメージを「受けて」岩撃が入り、「喰って」岩弾と土陣が入った。同じ構造が三度続いた。
もう仮説ではなかった。
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ケイトは拠点に戻り、しばらくの間、属性魔法の練習に時間を割くことにした。
手に入れたのは火、水、土の三つ。それぞれ撃てるが、まだ自分の体の一部として使える感覚がない。
まず水。氷撃と氷槍の両方が使える。氷撃は塊で連発しやすく、氷槍は一撃が重いが消耗も大きい。岩壁に向かって何度も撃った。最初は氷槍の形が崩れて散ったが、繰り返すうちに槍の長さや太さを変えられるようになった。氷撃は一度に二発、三発と撃てる回数も増えている。
次に火。火撃は赤い炎の塊、炎球はそれより大きく勢いがある。だがどちらも軌道が散り風の影響を受けやすい。岩肌に向かって連発し狙いを定める練習をした。岩を炙ると表面が黒く焦げる。地面に向けて広く撒けば相手の足元を遮れることも分かった。
最後に土。岩撃で地面を震わせるのは安定してきた。足元の地面を急に崩すと相手の体勢を崩せる——土陣の応用。岩弾はまだ重くて撃てないが地面ごと相手を落とせる。
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練習で身につけた使い方を低層の魔物相手に試した。
鱗が硬くて剣が通りにくい大型のトカゲ。表面を炙って柔らかくしてから剣で切ると刃が入った。
雪混じりの岩場を駆ける狼の群れ。氷撃で足元を凍らせ滑らせてから一頭ずつ仕留める。
岩穴から出てきた中型の獣。土陣で足元を崩すと穴に落ちて動けなくなった。剣で仕留めた。
戦い方が変わった。物理だけでも魔法だけでもない。組み合わせて相手によって使い分ける。
狩った魔物に魔法を使うものはおらず、喰っても何も起きなかった。属性を持つ魔獣だけが自分の中に何かを残す。
数週間が経つ頃には、ケイトは体に入った属性を自分の一部として使いこなせるようになっていた。
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低層の魔物は、もう足を止める相手ではなくなっていた。
中層に進めば、もっと強い魔獣がいるはずだ。受けるダメージも喰う相手も桁が違ってくる。それだけ自分のものになる力も増える。
ケイトは拠点を畳んだ。
法則は掴んだ。あとはどこまで積み上げられるかだ。
奥へ。




