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宇宙戦争のあとで  ~現人神は人生を美味がる~  作者: 北見晶


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9/11

怒りに喰われても虚しいだけ。

 今回明確な人死にシーンがあります。主人公、サイコ入っているかもしれません。


-ー何がやりたかったんだ? この人は。


 倒れた翁に、成未は近づく。

 うつ伏せだった体躯を仰向けにした。

 その顔は苦悶に歪み、自らに起きた凶事を拒否している。

 脇に落ちているのは、スタンガン。

 明らかに違法としか解釈できない長さで、電撃が音を立てて流れている。

 そして問題は、着衣の一部が焦げていること。心臓の辺りが。

 どう見ても、息耐えていた。


 暴力と無縁とは断言できない生活を送っている成未だが、これだけは言える。

 ぶちのめすより前に、この老人はあの世に旅立っていた。


「一体何を考えているんだこの店は!」

 仕事終わりにスーパーに寄った成未の耳を、怒鳴り声が襲った。

 つい目を向ければ、老人が店員に詰め寄っている。

 前ニュースでやっていた、“傲慢シニア”なんて単語を思い出した。

 人間は老化すると前頭葉が萎縮して、感情のコントロールが難しくなるというが、ああなるとまるで猿だと成未はため息をつく。

 歯を剥き出し、顔は真っ赤。日本猿と入れ替わったんじゃないかと曲解したくなるほど。


-ー……ん?


 成未は眉を寄せた。あの老人、どこかで見たような……


 モンスターカスタマーはなおも気炎を吐いている。店員に同情してた傍観者は、あるものを捕らえた。

 幟。

 そこには“宇宙を感じる”とメタリックカラーで描かれている。

 人工隕石のネックレスだとか、宇宙食だとか、宇宙服型のペットボトルホルダーだとかが売られていた。


「まったく! 俺を誰だと思ってるんだ!!」


 その声で呼び起こされた記憶が、脊髄反射を促した。


「元『地球保護の会』会長、葉加瀬(はかせ)則純(のりすみ)さん、ですよね」

 

 歩み寄って口を開いた女を前に、男二人は硬直する。


「な、なんで俺の名前を……」

 成未を凝視する葉加瀬に、彼女は肩をすくめて、


「わたくしたちが戦争に備えて訓練していたときに、仲間を引き連れてデモ行為してましたよね? あれ、本気で迷惑でしたよ。爆音に驚いて失禁したのをこっちに責任転嫁するし、門の前で脱糞するし。大便を見た女医さん何て言っていたと思います? 『ジャンクフードかそれに類するものばかり食べているわね』。あと、『この排泄物を出した人間はキレやすくて相手の話を聞かない』。まさにあなたにぴったりですね」


……ちなみにウンコを片づけたのは成未である。自販機のキャラメルミルクで買収された。


 直後、辺りの通行人が足を止める。忍び笑いがそこかしこで聞こえ、地球携帯電話(アスホ)で写真を撮る音も混じっていた。


「このクソアマ! 見ず知らずの人間のクセに割り込んでくるんじゃねえ!」

 闖入者に攻撃対象を移行した葉加瀬に、成未は目を細める。

「お忘れになりましたか? あなたがデモ行為をしていた場所で訓練を受けていた者です。『歩く宇宙線が人間の形してるんじゃねぇ。とっとと地球から出てけ』って、言われた女ですが」


 記憶をそのまま唇に乗せれば、男は息を呑んだ。


「お前……そんなことこの場で言うことじゃないだろうが!」

「確かにそうかもしれませんが、あなたが言ったのは事実ですよ」

 

 突如始まった口喧嘩に、いつしか野次馬が集まっていた。

 見世物になる趣味はないが、原因の一端を担っている自覚はある。


 冷静に葉加瀬を観察すれば、体をうつ向けていた。その右手が右太腿、ポケットに伸びる。


 現出したのは黙視で30センチを誇る黒い棒。

 警棒の一種か-ーと判じている間に、男は武器を振りかぶって一歩足を踏み出し-ー

 

「……ぐっ……」


 得物を取り落として、胸を押さえた。

 直後、手の下から上がる煙。


 まさか……


「人工心臓の暴走……?」


 成未のつぶやきに、返ってくる答えはなかった。



-ー成未の予想通り、葉加瀬の死因は人工心臓の暴走であった。あまりにも興奮しすぎて、ショートしたのだとか。


 人工心臓。

『地球保護』がどのようなニュアンスか定かでないが、自らの臓器(自然)を抜き取って機械の臓器(人工)を組み込む手術に拒否反応はなかったのか。


 さらに調べによると、葉加瀬は成未の立ち寄ったスーパー以外でも、あちこちにイチャモンをつけて回り、近所では鼻つまみもの扱いされていたのだとか。


 手を下してはいないが、一人の人間を死なせてしまったことは認めるべきだ。成未は葉加瀬の身内に頭を下げに向かった。


 だが、現実は成未の予想とは違った形状で残酷さをあらわにした。


 葉加瀬には元妻と息子二人がいた。元妻は息子が成人してすぐ離婚し、息子も就職が決まったら家を離れ、今は新しい家庭を作っていた。


 成未が罵声を覚悟してそれぞれの家に訪れたら、冷ややかな目を向けられた。

 そして、決まってこう告げられた。


 あの人とはもう縁を切ったから、何があろうが関係ありません。帰ってください。


-ー家族と何があったかは不明だが、底知れぬものを感じた。


 もっとも、成未も数年は身内に会ってないが。


 家族と別れたから喚き立てるようになったか、喚き立てるから家族と別れたから、はたまたそのどちらでもないのか。


 しかし、さらに大きな謎が。


-ー何がやりたかったんだ? わたくし


 自宅で宇宙食を頬張っても、真相は闇の中だ。


 一口サイズのピザ味を呑み込み、成未は息をついた。


 人生は食べるだけではないが、怒りに喰われても虚しいだけ。


 

 

 


 


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