この顔にそれ以外のクレーターができるにしても
かつては雑草生い茂る草原も、今は穴ポコが刻まれていた。
正確にはクレーター。校舎が一つ納まりそうなへこみ。その中央にある物体の回収が今回の依頼だ。
なんでも異星でロケットの打ち上げを試していたら距離を測るのに失敗し、地球の草原に誤射したのだという。
ロケット発射実験も失敗も珍しくはないが、成未の頭にはある話が漂っていた。
隕石がかつて高額で取引されていた頃、詐欺と呼ぶにはあまりにも無謀で馬鹿げた手口が生まれた。
宇宙空間や別の星から石を落とし、宇宙線を纏わせたものを地球で拾う。常識で考えてバクチより部が悪い賭けである。
しかし慌てて雑念を振り払う。決めつけるのは失礼だ。
ボウルを連想させる内部へと、成未は落ちる。滑り台で遊ぶ感じではなく、転がって。
“おむすびころりん”のおむすびはこんな心持ちだったろうか、などととりとめのないことを脳内でもてあそんでいたら、底に着いた。
発見したのは……もといできたのは無数の金属のかけら。高温で融解したのが丸わかりだ。
ケースに回収してから、協力者に下げてもらったロープをつたって登る。
指定された品を披露すると、依頼者はなんともいえない表情を示した。
「……信じてくれないかも知れませんけど、発射したロケットはこのクレーターからはみ出すぐらい大きかったんですよ。それがこんな小さなかけらになるなんて……」
それでもまだいい方だとは言えなかった。場合によってはすべてが蒸発するし、下手をすると……
「ちなみに生き物の類は入れてましたか? 入れてませんでしたか?」
「入れてませんが……」
「そうですか」
成未は勝手に安堵していた。動物愛護の精神ではない。ただのエゴである。
「……このクレーターも、いつかは真っ平らになるんでしょうね」
依頼者は肩を落としている。
「僕の実験が失敗したのも悲しいけど、失敗したことすらなかったことになるんでしょうか? どうせなら山のようにロケットを作成して、クレーターをたくさん作れば後々まで語られるでしょうか?」
「クレーターは作るものではありません」
成未は切り捨てていた。
「目先の欲に目を奪われて本来の目的を忘れるのは愚かしいことです。あなたにはやることが他にあるのでは」
陳腐な台詞だが、言わずには言えなかった。
お門違いにも程があるが、つい当たってしまった部分もある。
-ー戦争が終結してから、成未たちは戦友と共に敵味方問わず戦闘機の残骸や兵士の遺品を回収した経験もある。中には墜落時地面に大きなくぼみを作り、遺体すら消滅していたケースもあった。
虜囚の辱しめを受けるより潔い死を……と自爆や自決のあとも見てきたが、それでも生に執着して欲しかったと成未は胸を痛めた。
彼らに自らの持論を押しつけるのはおこがましいが。
スパイシーを求め、目に入った店で成未が注文したのはオリエンタルテイストを謳った麻婆豆腐丼。
麻婆。“麻”はあばた、“婆”はおばあさん。
あばた顔のおばあさんが作っていたから、麻婆豆腐と名前がついたのだとか。
“あばたもえくぼ”
どちらも顔にできるクレーター。
前者はまだ成未にはついていないし、後者はできることはない。
だがあばた顔でも笑えるし、えくぼができなくても笑える。
この顔にそれ以外のクレーターができるにしても、泣くだけで人生を終わらせたくない。
ふ、と口元を緩め、成未は頭を撫でた。
隕石が直撃した箇所は、すでにもとのまるみを取り戻し、へこみの“へ”どころか紙にボールペンの先すらつけていない。
何にしても麻婆豆腐丼がうまいから今はいいじゃないか。そう結論づけ、成未は飯を食べ進めた。




