だとしても、豚足はうまいに越したことはない。
マンモス。
成未にとっては大昔生きていた巨大生物で、ゾウの祖先という知識しかない。さらに、とうの昔に絶滅したとも。
それが逃げた。
正確には遺伝子操作やら何やらで誕生したモドキ生物だが。
依頼内容は捕獲。
以外だったのは、対象がゾウぐらいの大きさだったことだ。ゾウも充分偉容を感じるサイズだが、成未としてはもっと迫力ある巨大さをイメージしていたので。
-ーいた、いた、見つけた。
お目当ての動物を目にした瞬間、超高速で血潮が体内を巡る。
マンモスは暢気に道端の雑草に鼻を伸ばし、食べていた。
逃走先に選んだのは、今は廃村となった場所。
朽ちてはいるが家屋が家屋として残存している一角、彼は体躯と怪力を生かして体当たりし、道を作っていた。
人間のために作られた道路を闊歩し、路肩に生える植物を食らっていくマンモス。
そこに成未は餌を放った。
睡眠薬を注入した、膝くらいの植物。
ハルジオン。
種類自体はどこにでも生えやすい雑草だ。
-ー実のところ、依頼主である博士から渡されたとき、聞きたくなった。
植物に注入したんじゃなくって、睡眠薬入りの水や肥料使って栽培したんじゃないですか? と。
昔、カーネーションに色水を吸わせてその色に染め上げた話が頭をよぎって。
もちろんマンモス捕獲に重要なのはそこではないので、黙っていたが。
不自然にならないよう置いてみたところ-ーまあ、置いた時点で不自然と言われたらそれまでだが-ーターゲットは新たなる食物に気づいた。
二、三歩歩いて近寄る。その足取りはやたら軽かった。空気の入ったビーチボールを連想させるぐらい。
つい、成未は目を丸くしていた。
特性フードに鼻を伸ばす毛むくじゃらのゾウモドキ。
-ーが、まるでボールのように放り投げてしまった。
やはり匂いでわかるのか。
そんなことを思いながら次の案を考えていたら、やたらでかいトラックとクレーン車がやって来た。
プロはすごかった。
地面に鎮座させた輸送箱にマンモスを誘導して入れたのだから。
クレーン車でトラックに乗せて博士のもとに返し、依頼は終了。
成未は何の役にも立たなかったが、そこそこの金をもらった。博士に言われた額の収入を。
ちなみに睡眠薬入りハルジオンも回収した。放置しておいたらいろいろヤバイので。
博士に持って帰ったらどうだと進められたが、断った。その雑草が食べられるのは知っているが、ゾウを眠らせるレベルの成分こみだと情報を得て、いただける程成未はチャレンジャーではない。
会社でもろもろの手続きを済ませた成未は、手づかみで料理を食べるのがウリのレストランに入った。
注文する品は決まっている。
豚足だ。
スパイスをまぶしたものと、レモン塩であえたものの二種類。
料理が来るのを待つ間、成未はマンモスに思いを馳せていた。
昔図鑑で見た巨体。吹雪の中でも平気そうな毛だらけの躰。何より-ー太くてたくましい足。
スキップを連想させる軽妙な歩き方はしなさそうな、四本の脚部。振り下ろす旅に丸い足跡がついて、雨が降ったら池になっても不思議ではなくて-ー
「お待ちしました」
氷河期に意識を飛ばしていたら、ユニフォームだろう、黒いキャップを被り、Tシャツにハーフパンツを着用した女性店員が目当ての品を運んできた。
二枚の大皿に、豚足が山と盛られている。
成未は一緒に盛ってこられたビニール手袋をはめた。まず手を伸ばしたのはレモン塩。コラーゲン塊のくどさを適度に中和していた。
続いてはスパイスの方。あいにくそっち側には詳しくはないが、和食とも洋食とも違う、オリエンタルな雰囲気である。豚足の脂っこさを食欲そそる旨味に昇華していた。
色気のないリップグロスで唇を光らせながら、次々と、交互に料理にかぶりついていく。始めは右手だけに持っていたが、いつしか左手にも掴んで子供みたいか食べ方になっていた。
豚の足を食らいながら、成未は思う。
マンモスやゾウは喰えるのか、そしてうまいのか。
神が人間の糧として創造したわけではなく、さまざまな命で世界を満たしたいと願って産み出したのだから、美味くても不味くても関係なかろうが。
-ーま、そうだよね。
成未は視線を下ろす。
彼女の脚は彼女のものだ。どう役立てるかは自分次第で、他人が決めるものじゃない。
だとしても、豚足はうまいに越したことはない。




