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第六話 どちらが正義か

 レインは剣を握りしめ、全身の力を込めてガイルに向かって突進した。だが、ガイルは冷笑を浮かべながら神器である盾を構え、その前に片手で掴んだ幼い少女の体を突き出した。


「ちっ…!」


 レインは剣を止めざるを得なかった。少女を傷つけるわけにはいかない。


「ははは!どうした?切れないのか?」


 ガイルは狂気じみた笑みを浮かべると、盾に魔力を通した。その瞬間、空間が震えるような感覚が広がり、再び見えない攻撃がレインたちに襲いかかった。


「くっ…!」


 圧倒的な力に押されながらも、レインは必死に剣を盾代わりにし、攻撃を耐えた。


「ははは!なにも出来ないだろう!当たり前だ!この盾は神器だ!伝説の武器!最強の道具だ!はははは!」


 ガイルの狂ったような笑い声が響く。その目は尋常ではない光を帯び、何かに取り憑かれているかのようだった。


「うっ…ぐおおおお!」


 レインは怒りと根性で見えない攻撃を押しのけ、一歩ずつガイルに近づいた。その姿に、ガイルの表情が歪む。


「なに…!?この攻撃を押し返すだと…?」


 動揺したガイルの隙を見逃さず、レインは一気に距離を詰めた。そして、少女の首を掴むガイルの腕を正確に切り落とした。


「ぎゅうぅううあああぁあ!!」


 ガイルの絶叫が森中に響き渡る。


 その間にレインはすばやく少女を抱き上げ、治癒魔法を施した。


「ん…」


 少女の目がゆっくりと開く。安堵の息を漏らすレインは、彼女をリーナに預けると再びガイルに向き直った。


 目の前のガイルは、苦しみと怒りに顔を歪めていた。その表情はやがて真っ赤に染まり、怒りが頂点に達しているのが明らかだった。


「許さない…許さない…許さない!!」


 その瞬間、レインは目を疑った。切り落としたはずのガイルの腕が、今まさに再生していくのだ。


「なんだ…これは…!?」


 驚愕に目を見開くレインに対し、ガイルは狂気じみた笑みを浮かべながら言い放った。


「ははは…これが神器の力さ!どんな傷もたちどころに癒える。俺は不死身だ!!」


 その言葉に、レインの背筋が冷たくなった。


 ミカが矢を構えながら低く呟く。


「掌の傷も…あのときすでに癒えていたのか…」


「クッソ…どうしろってんだ!」


 レインは剣を構えたまま、活路を見出せず立ち尽くしていた。


「これでも喰らえ!」


 レインの背後から飛んできた火の球が、一直線にガイルを捉えた。セリナだった。


 火の球はガイルに直撃し、その体を炎で包む。


「あ”あ”あ”あ”!!」


 ガイルは燃える痛みに苦しみの叫びを上げた。だが、次の瞬間、炎は消え去り、焼け跡も一瞬で癒えていく。


「な…なんてやつ…!」


 セリナが驚愕の声を上げる。


 ガイルはその視線をセリナに向けると、盾を構えて走り出した。


「セリナ、逃げろ!」


 レインが叫びながら前に出るが、神器の盾に触れた瞬間、強大な力で弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ぐっ…!」


 ガイルは勢いそのままにセリナへと迫る。そして右手に潜ませていた短剣を振り上げた。


「復讐かんりょおおおおおお!!!」


 短剣がセリナに到達する――その瞬間。


「セリナ!」


 レインの視界の中で、セリナの目の前に少女が立ちはだかった。


「な…!」


 ガイルの短剣が少女の腹部に深々と突き刺さる。


「かはっ…!」


 小さな体が崩れ落ちるのを見て、セリナの顔が凍り付く。


「どうして…どうしてこんなことを…!」


 涙を流しながら少女を抱きしめるセリナ。


 その光景を見つめるレインの胸中は怒りと無力感でいっぱいだった。ガイルを止めることができなかった自分が許せない。


 しかし、その刹那、少女の手が微かに動いた。


「…まだ生きている!」


 リーナが急いで彼女に駆け寄り、治癒魔法を施そうとした。しかし、ガイルの盾が再び振り下ろされ、彼女らの間に割り込んだ。


「ふざけるな!させねえよ!」


 ガイルの声は憎悪に満ちていた。


 ガイルは目の前で短剣を振るい、燃えるような憎悪をリーナに向けた。その目は完全に狂気に染まっている。


「次はお前だ、リーナ!」


 リーナは震えそうになる膝を必死で押さえ、目の前の敵を見据えた。だが、内心では自分の戦力では太刀打ちできないと悟っていた。目の端で、セリナが少女を抱きしめながら治癒魔法を試みているのが見える。


「リーナ、時間を稼いでくれ!セリナがあの子を助けるまで!」


 レインが叫ぶ。


 リーナは一瞬迷ったが、小さく頷き、ガイルに向けて杖を構えた。


「わかったわ!」


 リーナは素早く魔力を込め、ガイルの足元に向けて地の魔法を発動した。地面が激しく揺れ、ガイルの足元が崩れる。


「はっ、こんなもの!」


 ガイルは神器の盾を地面に叩きつけると、振動が消し飛び、地面が再び平らになる。その隙を突いてリーナは距離を取ろうとしたが、ガイルの目が鋭く光った。


「逃がすか!」


 瞬時に距離を詰めると、盾の端でリーナを弾き飛ばす。


「くっ…!」


 リーナは地面を転がりながらも立ち上がり、再び魔法を準備する。しかし、ガイルはすでに次の攻撃態勢に入っていた。


「待て!」


 レインがリーナとガイルの間に割り込んだ。剣を盾のように構え、ガイルの目を睨む。


「俺が相手だ、ガイル!」


「ははは、いいぞ。お前も同じように死ね!」


 ガイルは盾を振り上げ、強烈な攻撃を仕掛けてくる。レインは剣で受け止めるものの、神器の力に押され、後退を余儀なくされた。


 だが、この間にリーナは小さく呟いた。


「セリナ!私が治癒を!」


 セリナは頷き、少女を抱きかかえたまま必死で治癒魔法を続けている。

 リーナはセリナの下へ駆け出す。


「逃がすかぁ!」


 ガイルが振り向きリーナを追おうとするが、レインは剣を振り上げて攻撃し、足止めを試みる。


「お前の相手は俺だ!」


 激しい攻防が続く中、リーナは必死で走り、ついにセリナのもとに辿り着いた。


「リーナ、お願い!」


「分かった!」


「大丈夫よ…絶対に助けるからね…」


 少女に声を掛けるセリナの声には焦りが滲んでいたが、リーナはそっと少女の胸に手を置いた。


 一方でレインは、ガイルの神器の力に圧倒されながらも必死に持ちこたえていた。


「くそっ…!この盾、どうにかできないのか!?」


 神器の異常な回復能力と攻撃力に対抗する術を模索するレイン。しかし、これまでの攻撃は全て無力化されている。


「お前ら全員ぶっ殺してやる!」


 ガイルの狂気はさらに増し、攻撃は苛烈を極めていく。


 その時、セリナが小さな声で呟いた。


「…やった…この子の命は繋がったわ!」


 少女の体が微かに動き、リーナとセリナの表情に安堵が広がる。


「レイン!今よ!」


 セリナの叫びに、レインは剣を高く掲げた。


「終わらせる!」


 レインは、最後の一撃を放つ――。


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