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第四話 復讐の始まり

 レインはガイルが生きていることを、合流を終え、食事をしているパーティーメンバーに告白した。


「ちょっと話がある。」


 その一言で、テーブルについていたメンバー全員の視線がレインに向いた。スパゲティを啜っていたセリナが何かを察したようにフォークを置く。


「何よ、そんな真剣な顔して。」


 セリナが言った。


「ガイルが…生きてた。」


 その言葉に、セレナは一瞬固まり、次の瞬間、啜っていたスパゲティを吹き出した。


「…はぁ!?生きてたってどういうこと!?」


 リーナも驚きのあまり目を見開き、手にしていたナイフとフォークを落とした。


「え、ちょっと待って、それ本当なの?」


 ミカも、普段の無関心を崩すことなく食事を続けていたが、今回は少しだけ眉をひそめて言った。


「生きてたんだ…」


 レインは頷くと、苦々しい表情で続けた。


「酒場で会った。間違いない。奴だった。しかも…以前のガイルじゃない。何か…得体の知れない力を持っている。」


 セリナが顔をしかめる。


「得体の知れないって、どういうこと?魔法か何か?」


「わからない。」


 レインは頭を振った。


「ただ、一瞬目が合ったとき…感じたんだ。殺気を。」


「殺気?」


 リーナが声を上げる。


「それってつまり…私たちを狙ってるってこと?」


「そりゃそうでしょ!」


 セリナが苛立ち気味に言い返す。


「あいつをあんな形で…追放…いや、見殺しにしたんだから。あいつが怒るのも無理ないわ。」


 ミカがスープを飲みながらぼそりと言った。


「でも…仕方なかった。あのまま連れて行っても、私たちが全員死んでた。」


 レインは拳を握り締め、視線をテーブルに落とした。


「俺たちの選択が正しかったかどうかなんて、もうわからない。ただ、今は…あいつが危険だ。それだけは確かだ。」


 セリナが肩をすくめて言う。


「危険だって、あいつはただの無能だったじゃない。力を手に入れたとしても、私たちが本気を出せば…」


「甘く見るな!」


 レインが声を荒げた。その声に全員が驚き、一瞬静まり返った。


「俺たちが知っているガイルじゃないんだ。」


 レインは苦しそうに言葉を続けた。


「あいつは変わった。何か…化け物みたいな存在に。」


 その後、メンバーはそれぞれの言葉でこの話題を片付けようとしたが、どこかで全員が感じていた。それは自己保身から来る安堵と、心の底でくすぶる不安の狭間で揺れる感情だった。


 その夜、レインは宿の部屋で一人考え込んでいた。暗い天井を見上げながら、心の中の葛藤が渦巻く。


 …あのとき、俺はどうかしていた。追放するだけで良かったのに、何故、あんな行動に出てしまったのか。ガイルが初めて反発してきたから…?それとも、俺自身が苛立っていたから?


 あの決定的な瞬間の俺は、冷静ではなかった。自分の感情に任せて、仲間を…いや、元仲間を殺すような行動に出てしまった。



 レインは目を閉じ、ため息をついた。しかし、ガイルが生きていたことは事実であり、これからあいつがどう動くかもわからない。だが一つだけ確信していたことがある。


「俺は負けない。」


 剣の訓練を続けてきた自負が、レインの心を支えていた。ガイルの動きや弱点を知り尽くしている自分なら、いざというときに必ず打ち負かせる。


 そう自分に言い聞かせながら、レインは静かに目を閉じた。しかし、心の底には消えない不安がまだ残っていた。




 ―――。




 翌朝、冷たい朝露が森の空気を湿らせていたが、レインの心は晴れることはなかった。

 昨夜、眠りに就こうとしても、ふと脳裏に浮かぶのはガイルの険しい表情と、あの強烈な殺気だった。


「いくら強くなっても、俺には勝てない…はずだ」


 と自分に言い聞かせながらも、その言葉がどこか空虚に響くのを感じていた。


 レインは仲間たちを見渡し、小さく息を吸った。「行くぞ。依頼を終わらせる」と短く告げる。

 その声には不安を隠しきれない僅かな揺らぎがあったが、誰もそれを口にしなかった。



 森の入り口から進むにつれ、周囲の空気が一変した。薄暗く、湿った空気が肺に重くのしかかる。セリナがふと後ろを振り返りながら口を開いた。


「ねえ、この森、なんか変じゃない?」


「…変って?」


 リーナが答える。


「空気が重いっていうか、静かすぎるのよ。普通なら鳥や小動物の気配があってもいいのに」


 ミカが矢を手に構えながら冷静に付け加える。


「確かに、何かがいる気配はする。でも、それが遠いんだか近いんだか分からない…」


 レインは黙ったまま、剣の柄を握りしめた。ガイルが生きていることを知って以来、無意識に手が汗ばんでいるのを感じる。


「気を抜くな。大型の魔獣が出てもおかしくない場所だ」


 途中、小型の魔獣が数匹現れたが、彼らにとっては問題ではなかった。ミカが次々と矢を放ち、敵を一掃する。


「…手応えがないわね」


 とセりナが杖を下ろす。


 森の奥に進むと、突然、視界が開けた場所に出た。そこには無数の魔獣の死骸が散乱していた。血が土を濡らし、骨と肉片が周囲に無造作に転がっている。リーナが思わず口元を押さえた。


「これ…酷い…」


 セリナが静かに周囲を見渡しながら呟く。


「これってまさか全部ガイルがやった…ってこと?」


 その言葉にレインは眉をひそめた。

 確かに、盾で魔獣を叩き潰す戦法はガイルが得意としていたものだが、彼の力ではせいぜい小型の魔獣を倒すのが限界だった。ガイルの仕業ではないはずだ。


「…」


 しかし胸の奥で疑念と恐怖が入り混じる。「そんなはずはない」と心の中で否定しようとしたが、視界に映る惨状がそれを許さなかった。



 調査を終え、森の出口へと向かう途中、突如として目の前の馬車が音もなく潰された。紙のようにぺったんこになった車体と馬の血しぶきが視界に広がる。リーナが悲鳴を上げ、セリナが杖を構える。


「何…今の!」


 周囲の木々が次々と押し潰され、見えない力によって地面が振動しているようだった。レインは冷や汗を浮かべながらも剣を構え、周囲に視線を走らせる。


「敵はどこだ…!」


「…見えない敵?」


 ミカが弓を引き絞るが、矢を放つべき標的はどこにもいない。


 やがて、周囲の木々がすべて潰され、視界が開けた。眩しいほどの太陽の光が降り注ぐ中、足音が響く。それは規則的な、だがどこか不気味さを感じさせる音だった。


 森の奥から現れたのは、ガイルとその仲間と思われる6人の女たちだった。それぞれが強大な武器を携え、鋭い目つきでレインたちを睨みつけている。


「ガイル…!」


 リーナが声を上げる。その声は驚きと悲しみが入り混じっていた。


 続いてセリナが冷笑を浮かべる。


「よくあそこから生きて出られたわね。無能なあんたが」


 ガイルの表情が険しく歪む。


「生き延びたさ…お前たちの裏切りを胸に抱えながらな!」


 彼の声には怒りと憎悪が滲んでいた。


「ようやくお前らに復讐ができる!俺に味わわせた苦痛を、今度はお前らに思い知らせてやる!」


 セリナは鼻で笑いながら剣を構える。


「ぷっ…無能のあんたが復讐?そんなお笑い劇場、私たちには似合わないんだけど」


 ガイルはその挑発に乗ることなく、ただ静かに手にした盾を掲げた。


「お前たちを許すつもりはない。今度こそ、お前らの全てを潰してやる」


 レインは一歩前に出て、剣を構え直した。


「ガイル…本当にそれでいいのか?こんなことをして、お前に何が残る?」


 ガイルの目が冷たく光る。


「お前らを地に伏せることでしか、俺の心は救われない。それだけのことだ」


 足元に流れる冷たい空気。次の瞬間、戦いが始まる――彼らの決着をつける戦いが。

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