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世界は大根に満ちている  作者: 紅月モネ


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5/7

桜島大根殿下の憂鬱

「悪役令嬢様! 大変です!」


聖女が飛び込んできた。


「今度は何ですの?」


「桜島大根様が、婚約破棄されたそうです!」


わたくしは、お茶を吹いた。


「……どなたに?」


「本物の王子殿下です!」


「農家に転職なさった、あの?」


「はい!」


わたくしは窓の外を見た。


畑では、元王子が大根を収穫していた。


「おーい! 今年の桜島大根は最高だぞー!」


その隣に、ひときわ巨大な大根が鎮座していた。


推定重量三十キログラム。


立派な葉。


堂々たる胴体。


そして、なぜか王冠。


「……あれが?」


「桜島大根様です」


「大きいですわね」


「王族ですから」


「関係ありますの?」


「わかりません!」


聖女は泣いていた。


そのとき、桜島大根が震えた。


『……王子殿下に、婚約を破棄された』


低く、威厳に満ちた声だった。


わたくしは驚かなかった。


この世界では、大根がしゃべる程度のことは日常茶飯事である。


『私は……ただ、彼と一緒に畑を耕したかっただけなのに……』


「まあ……」


『彼は言ったのだ。「君は大きすぎる。俺には荷が重い」と』


沈黙。


聖女が、そっと口を開いた。


「……物理的な意味でしょうか?」


『知らないわよ!』


桜島大根が叫んだ。


『私はただ、彼の隣にいたかっただけなのに!』


わたくしは深くうなずいた。


「お気持ち、お察しいたしますわ」


「悪役令嬢様!?」


「わたくしも婚約破棄を経験しておりますもの」


「あなたの場合、王子が七人くらいいませんでした!?」


「数えるのをやめましたわ」


桜島大根は、静かに葉を垂らした。


『……悪役令嬢様。お頼みしたいことが、、、』


「なんでしょう?」


『私を、小さくしてくださらない?』


わたくしは考えた。


そして、首を横に振った。


「それはできませんわ」


『なぜですの!』


「桜島大根様は、その大きさだからこそ桜島大根様なのです」


『……!』


「小さくなってしまったら、ただの大根ですわ」


長い沈黙が落ちた。


やがて桜島大根は、ゆっくりと顔を上げた。


『……そうね、、、』


聖女が目元をぬぐった。


「いいお話……」


『ならば、私はこの大きさを武器にするわ!』


「えっ」


『世界最大の大根農園を築き、王子を見返してやる!』


「ええっ!?」


『まずは土地を買う! 次に農業法人を設立する! そして最終的には――』


わたくしは、そっと聖女に耳打ちした。


「……これ、また世界征服が始まりますわね」


聖女は遠い目をした。


「もう嫌です、この世界……」


その日、桜島大根は起業した。


社名は『株式会社・大根魂』。


初年度売上、国家予算の四倍。


二年目には魔王軍を買収。


三年目には神界の農業部門を吸収合併。


そして四年目。


元王子が、桜島大根のもとを訪ねてきた。


「……やり直せないだろうか」


桜島大根は、静かに答えた。


『遅いわ』


「君を愛している!」


『私の企業価値が目当てなのね!』


「違う!」


『ならば、まずは有機肥料の調達コストを見直してくださいまし!!』


元王子は泣いた。


わたくしは、感心した。


「……立派になられましたわね」


聖女がうなずいた。


「ええ。あれはもう、根菜ではありません」


魔王が腕を組んだ。


「経営者だ」


そして桜島大根は、世界中に宣言した。


『婚約破棄は受け入れよう。だが、取引停止は別問題だ』


その日、世界の株価が暴落した。


大根関連銘柄だけを除いて。


めでたし、めでたし。

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