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世界は大根に満ちている  作者: 紅月モネ


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聖剣を抜いたら大根だった件

「悪役令嬢様! 大変です!」


朝食の大根の味噌汁を飲んでいたわたくしのもとへ、聖女が駆け込んできた。


「どうなさいましたの?」


「勇者が現れました!」


「まあ」


「しかも、伝説の聖剣を引き抜いたそうです!」


「まあまあ」


「その聖剣を持って、こちらに向かっているそうです!」


「それは大変ですわね」


わたくしは味噌汁を飲み干した。


「おかわりをいただけるかしら」


「今それどころじゃないんですけど!?」


三十分後。


勇者がやってきた。


黄金の鎧。

輝くマント。

そして、両手で大切そうに抱えた一本の大根。


「見よ! これが伝説の聖剣、エクスカリバーである!」


「……大根ですわね」


「違う! これは聖剣だ!」


「葉っぱがついておりますけれど」


「聖剣にも葉っぱくらいついている!」


「ついておりませんわ」


勇者の背後で、聖女が頭を抱えた。


「勇者様……それ、畑から抜いた大根ですよね?」


「違う! 神のお告げがあったのだ! この大地に突き刺さる聖剣を抜きし者、世界を救う英雄となる、と!」


「それ、うちの畑ですわ」


「なにっ!?」


「昨日、種をまきましたの」


勇者は大根を見つめた。


大根も勇者を見つめていた。


もちろん、見つめてはいない。


「……では、俺は勇者ではないのか?」


「大根を抜いた方ではありますわね」


勇者は膝をついた。


「俺は……」


「大根の収穫した方ですわ」


「やめてくれ!」


そのとき、大根が光り始めた。


『よくぞ、我を抜いた』


全員が凍りついた。


『我こそは、千年の時を生きし大根の王』


「「大根の王!?」」


聖女と勇者?が叫んだ。


『我を食す者に、無限の力を授けよう』


勇者は震える手で大根を掲げた。


「ついに……! 俺にもチート能力が!」


「煮物にいたしましょう」


わたくしが言った。


「待て!」


「おでんもよろしいですわね」


「待ってくれ! 神聖な存在なんだぞ!」


『我を……食すのか……?』


大根の王の声が震えた。


「ええ。せっかくですから、面取りも丁寧にいたしますわ」


『……面取り』


「きちんと米のとぎ汁で下茹もいたしますわ」


『……下茹』


「その後は昆布だしで」


『……昆布だし』


沈黙。


そして、大根の王は静かに告げた。


『……悪くない』




その日の夕食。




魔王と聖女と勇者?とわたくしは、食卓を囲んでいた。


中央には、立派なおでん鍋。


大根の王は、見事なまでに味が染みていた。


勇者?が涙を流しながら言った。


「俺は……世界を救うために聖剣を抜いたはずなのに……」


聖女が、ちくわを箸でつまんだ。


「でも、おいしいですよ?」


魔王もうなずいた。


「うむ。大根に味が染みている」


わたくしは満足した。


「よかったですわね。これで世界も安泰ですわ」


その夜。


天界では、神々が緊急会議を開いていた。


『大根の王が食された』


『なんだと!?』


『しかも、おでんにされたらしい』


『この世界はもう終わりだ……』


神々は震え上がった。


ただひとり、創造神だけが静かに口を開いた。


『明日の夕食ははしみしみ大根のおでんがよい。

厨房のものに今から取り掛かるように言っておけ!』




翌朝。



わたくしの畑に、神々から大量の大根の種が届いた。


わたくしは空を見上げた。


「……今年は豊作になりそうですわね」


聖女は、もう何も言わなかった。

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