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世界は大根に満ちている  作者: 紅月モネ


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2/7

聖女様、レベルが違いますわ

王城がピンク色になってから三日。

わたくしは、森でスローライフを始めていた。

小さな家。小さな畑。小さな池。

そして、なぜか毎朝、玄関前に並ぶ大量の貢ぎ物。

どんぐり。木の実。きれいな石。なぜか王家の金庫から消えた金貨。


「困りましたわね……」


わたくしは、金貨を箱に詰めた。


「これでは、泥棒をしたみたいですわ。」


翌朝。

金貨は二倍になっていた。


「……?」


その翌朝。

三倍になっていた。

さらに翌朝。

金貨の山の上にはさらに

金貨がぎっしり入った箱が積んである。

わたくしは箱を閉じた。

見なかったことにしよう。

そんなある日。

森に聖女がやってきた。


「悪役令嬢様!」


「まあ、聖女様。ごきげんよう」


「お願いです! 魔王を倒してください!」


「お断りいたしますわ」


即答だった。


「な、なぜですか!?」


「畑の大根が収穫時期ですので」


「世界が滅びるんです!」


「大根も滅びますわ」


「大根と世界、どちらが大事なんですか!?」


「大根ですわ」


聖女は膝から崩れ落ちた。

しかし、魔王軍は待ってくれなかった。

その日の夕方、森に魔王軍が到着した。

魔王。四天王。黒い鎧の騎士。

そして、なぜか全員、手にお弁当箱を持っていた。


「悪役令嬢よ! 世界征服のため、貴様を倒す!」


「お食事中ですので、少々お待ちくださいませ」


「貴様! 我を愚弄するか!」


「いえ、焼き芋が熱いので」


魔王は激怒した。

魔王軍が一斉に魔法を放つ。

炎。雷。氷。暗黒。時空断裂。

森が光に包まれた。

そして。

光が消えたあと。



魔王軍は全員、わたくしの畑で大根を抜いていた。




「……は?」


魔王が、自分の手を見つめた。


「我は……何を……」


「大根の収穫ですわ」


「なぜだ!?」


「世界を滅ぼすより、こちらのほうが有意義かと思いまして」


四天王のひとりが、大根を見つめながらつぶやいた。


「……立派な大根だ」

別の四天王がうなずいた。


「煮物にしたら、うまそうだな」


魔王は震えた。


「やめろ……! 我は魔王だぞ……!」


「魔王様、お味噌汁にします?」


「……する」


こうして魔王軍は、わたくしの畑で働くことになった。

労働時間は一日四時間。

昼休みは一時間。

残業は禁止。

魔王は、初めて定時に帰るという概念を知った。

そして翌月。

魔王軍の離職率はゼロになった。

魔王城には労働組合ができた。



世界は平和になった。



聖女だけが、頭を抱えていた。


「違う……。こんなの、わたくしの知っている異世界転生じゃない……」


わたくしは首をかしげた。


「そうですの?」


「だって、悪役令嬢なのに! チート能力で無双しているのに! なんで世界征服も魔王討伐も終わって、みんなで大根を育てているんですか!」


「大根は、裏切りませんわ」


「名言っぽく言わないでください!」


そのとき、空が割れた。

神々しい光。

巨大なステータス画面。

そして、天から響く声。



『異世界転生システムに重大なエラーが発生しました』



聖女が顔を上げた。


「ほら! やっぱり!」


『原因:悪役令嬢の能力が、世界の設定上限を突破』


『修正パッチを適用します』


わたくしは、畑の大根を見た。


「……あら」


『修正対象:世界再構築スキル』

『修正対象:魔王軍の労働環境』

『修正対象:王城のリボン』


『修正対象:大根』


わたくしは、静かに立ち上がった。


「……大根?」


空気が凍った。

魔王が叫んだ。


「やめろおおおおお! 大根だけはやめてくれええええ!」


わたくしは、右手を上げた。


「神様」


『な、なんでしょうか』


「わたくし、何かしてしまいましたか?」


『……』

『……』


『システム管理者権限を放棄します』


空が閉じた。



世界は救われた。



大根も無事だった。

その夜、魔王軍と聖女とわたくしは、みんなで大根の煮物を食べた。

おいしかった。

めでたし、めでたし。



……と思ったのだが。

翌朝、わたくしの畑に、見知らぬ看板が立っていた。


『魔王軍直営・大根直売所』


その隣には、さらに見知らぬ看板。


『王国公認・悪役令嬢の世界征服農園』


そして、少し離れたところに。


『神様公認・異世界転生システム修理受付』


わたくしは、深くため息をついた。


「……スローライフとは?」


魔王が、元気よく手を上げた。


「お嬢様! 本日の売上報告です!」


「聞きたくありませんわ」


「過去最高です!」


「聞きたくありませんわ!」


「神様から新規事業の相談が!」


「お帰りくださいませ!」


わたくしは、家の扉を閉めた。

今日こそは、静かに過ごすのだ。

そう決意して、椅子に座った。



三秒後。



扉がノックされた。


「お嬢様! 勇者が来ました!」


「お帰りいただいて」


「勇者が泣いています!」


「お帰りいただいて」


「勇者が大根を持ってきました!」


わたくしは、扉を開けた。


「……まあ、立派な大根」


その日も世界は平和だった。

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