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7/10

ROUND7 オークキング

【ロクの格ゲーシステム】

①レバーとボタンによって、自分自身を操作できる

②ダメージを受けると体力ゲージが減る。痛くはない

③スタミナ無限

④格ゲーキャラの技を正確に再現できる

⑤ラウンド終了時体力全回復

⑥キャラクターを変更できる

⑦勝利時に固定演出が発生する

⑧ダウン中無敵

「ブオオオオオオオオオオッ!!」


 怒号が廃鉱山に響き渡る。それを皮切りに、一斉に15体のオークたちがロクへと襲いかかる。


 ——ここからが正念場だ。


 手前のオークから順番に投げ飛ばしていく。


 一体のオークが倒れれば、別のオークが襲いかかる。

 そのオークを投げ飛ばせば、さらに別のオークが突っ込んでくる。


「くっ……!」


 ロクは迫りくる巨体に向かって、ただひたすらに技をかけていく。


《天地返し》


 オークを掴む。放り投げる。


 ズドォン!!


 地面が揺れる。


 だが、オークも伊達ではない。


「ブオオッ!」


 投げ飛ばされたオークは、すぐさま立ち上がる。


 ロクは別のオークを捕らえる。


《雲つかみ投げ》


 空中から飛びかかってきたオークを掴み、そのまま地面へ。


 ズドン!


 倒れる——

 しかし、また立ち上がる。


 さすがは戦士。

 簡単には根を上げない。こいつらの闘気は本物だ。


《切り株返し》


 ズドォン!


《裏投げ》


 ズバァン!


 掴んでは投げる。その繰り返し。


 それでもオークたちの勢いは止まらない。


「こいつら……!」


 ロクは思わず笑った。


 普通なら、とっくに戦意を失っている。


 だが、こいつらは違う。


 どれだけ投げ飛ばされても、地面に叩きつけられても、再び立ち上がってくる。

 その目から、燃えるような闘志が消えることはない。


 ——戦士だ。


 本物の戦士たちだ。


 ロクは心の中でオークたちを称賛した。


 どの世界にもプロは存在する。


 競技にも、職業にも。


 ——ロクは思う。


 プロもアマも、長年何かに打ち込んできた者同士ならば、技能的にはそれほど大きな違いはないのかもしれない。

 では、両者を決定づけるものは何か。

 

 それは『気概』。

 折れない心、揺るぎない信念……恐らくそういった概念的なもの。

 だが、それを内に秘めているか否かで、雲泥の差が生まれる。


 戦士。それは戦いのプロフェッショナルだ。


 ロクは、一介のサラリーマン。プロゲーマーではない。

 だが、20年近く続けてきた。

 地道に、愚直に。丁寧な仕事を。

 それが評価されようが、されまいが。

 

 ロクが仕事を続けてきたのは、大金を得るためでも、目立つためでもない。

 特に深い理由はない。仕事があるから。責任を持って、黙ってそれを完遂させる。

 ただ、それだけだった。


 ロクはそういう静かな仕事ができる男——それをプロと言わずして、いったい何と言うのだろう。


 戦士とは性質を異にする。だが、ロクの『気概』もまた、本物だった。

 


 一体のオークが巨大な拳を振り下ろした。


 ロクはそれに合わせ、コマンドを滑り込ませる。


『↓↘→+D』


「《根っこ返し》!」


 ロクは防御姿勢を取った。


 パシン!


 オークの拳を受け止める。


 そして、そのまま相手の腕を取り——


「せぇいっ!」


 当て身の一本背負いが豪快に決まる。


「ブゴォッ!」


 ズドン!


 オークを地面にねじ伏せる。


「よし!」


 だが——

 別のオークの棍棒が、ロクの横腹へ叩き込まれた。


「ぐっ!」


 身体が吹き飛び、地面を転がった。


「ロク!」


 エレナが叫ぶ。


 ロクはすぐに立ち上がった。


「大丈夫!」


 体力ゲージを確認する。


 まだ余裕はある。


 だが——

 確実に減っている。


 オークたちの攻撃は一撃一撃が重い。


 その上、数が多い。いくら投げてもすぐに戦線に復帰する。

 


 投げ技は強力だ。

 だが、一度に掴めるのは一体に限られる。


 叩きつけるように投げ、周囲を巻き込めるのも、2体か、3体が限度。あまりに効率が悪い。


 相手は15体。


 数的不利。


「多勢に無勢って、こういうことか……!」


 オークの攻撃。


「くっ……!」


 肩に一撃。


 腹部に一撃。


 背中に一撃。


 避けきれない。


 それでもロクは投げ続けた。


 殴られても。


 蹴られても。


 吹き飛ばされても。


 立ち上がり、そして、また投げる。


 いつしか戦いは、剣も魔法もない。


 男と男の、真正面からの凄絶な肉弾戦、意地と意地のぶつかり合いになっていた。


「……ロク様!」


 後ろで見守るリディアが叫ぶ。


「無茶よ! 引いて!!」


 エレナも悲鳴のような声を上げる。


 彼女たちの声は、男の耳には届かない。男たちの戦いを止めることはできない。


「ブオオオオオ!」


「うおおおおお!」 

 

 だが——

 そんな戦いも終焉を迎えようとしていた。


 ロクの体力ゲージが、減っていく。


 半分に。


 3分の1に。


 そして、点滅。


「……!」


 ロクは思わず息を呑んだ。


 体力ゲージが赤く点滅している。


 危険域。


 もう後がない。


「さすがに……死ぬかもな」


 ダメージを受けても痛くはない。


 だが、体力ゲージという明確な数字が、ロクに現実を突きつけてくる。


 この格ゲー仕様において、負けた場合にコンテニューがあるのだろうか。

 何クレジットあるのかもよくわからない。


 どうなるかはわからない。

 

 だが、最悪は——死。


「……まだ、負けるわけにはいかない」


 オークが突進してくる。


 コマンド入力。


 冷静に、正確に。


 しかし——

 次第に、敗色が濃厚になっていく。


 15体という数は、あまりにも多かった。


 ここまでか……そう思った。そのとき——


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ——空気が震えた。


 その恐ろしい威圧感に、全員の動きが止まる。


 一斉に、声のした方向を見る。


 廃鉱山、坑道の暗がりから一際大きなオークが姿を現した。


「……あれが」


 リディアが息を呑む。


「オークキング……」


 他のオークより、明らかに大きい。


 身長は3メートルを優に超えている。

 

 全身には数々の死線をくぐり抜けてきた証である凄惨な傷跡が刻まれている。 

 分厚い筋肉を覆っているのは、黒鉄の鎧。


 頭部には2本の巨大な角。


 その根元には、王の証である金属製の額飾り。


 背負っているのは、巨大な戦斧。


 柄だけでもロクの身長ほどありそうだ。


 しかし——


 一番恐ろしいのは、その武器でも体格でもない。


 立っているだけで、周囲の空気が重くなる。


 他のオークたちが、自然と道を開けている。


 誰も命令されていない。


 ただ、王が来た。


 それだけで、戦士たちは直立不動の姿勢で道を譲っている。


 それほどの貫禄だった。


 オークキングは、ゆっくりとロクを見据えた。


「…………」


 そして、重厚な声を響かせて、何かを話した。


「……?」


 ロクには意味が分からない。


 するとリディアが、ロクの横へ駆け寄ってきた。


「ロク様」


「何て?」


「部下の非礼を詫びる、と」


「……え?」


「大勢を相手に、一人で戦ったこと。見事な戦いぶりを見せたことを讃える、と言っています」


 オークキングは、さらに何かを語った。


 リディアが通訳する。


「『我と一対一で戦え』」


 オークキングが、一歩前へ出た。


 ズン。


 地面が震える。


 そしてロクの前まで歩いてくる。


 ロクを見下ろしながら、また何かを言った。


「——『全力で技を掛けてみろ』」


「……」


 オークキングの目は澄んでいた。

 そこには卑劣な欲望など微塵もない。そこにあるのは、目の前の強者に対する、圧倒的な敬意。


 ただ、まっすぐにロクを見ている。


 その目には——

 戦士としての誇りがあった。


(あんた……最高だな)


 ロクの胸が熱くなる。


「分かった。全身全霊……全力でいく!」


 ロクは至高の技で、その侠気に応える。


『A+B+C同時押し』


「おおおおおおおっ!!」


 パワーゲージを貯める。


 ほどなく、最大値へと至る。


《MAXIMUM》


「……準備は整った」


 体力ゲージは点滅状態。

 そして、パワーゲージは最大。


 この極限状態からしか繰り出すことが許されない、形勢逆転の最大火力——『MAX超必殺技』。


「いくぞ……!」


 オークキングへ接近する。


 ロクは叩きつけるように、最後のコマンドを入力した。


『→↘↓↙←→↘↓↙←+C』


「《地獄極楽落とし》」


 その瞬間——

 世界が暗転した。


 音が消え、ほんの一瞬、時間が止まる。


 そして、技の成立を告げる、乾いた発動音が鳴り響く。


 ロクの手が、オークキングの身体を掴んだ。


 オークキングが目を見開く。


 ロクは天高く左足を振り上げた。


 ——この技の構成は、凶悪そのものと言える。


 都合八回。

 相手を容赦なく、交互に地面に叩きつける。


 だが、これで終わりではない。

 

 九回目、相手は天高く放り投げられる。


 そして、最後には落下した相手への追撃。


 投げと打撃のフルコース。

 同シリーズ、最高峰のダメージ量を誇る技。


 

 オークキングは、直感的に理解した。

 この技の構成はわからない。だが、この男の足が振り下ろされると同時に、自分は地面に叩きつけられるであろうことを。

 そんな予感があった。


 オークキングは技を返そうと、両腕に力を込める。


「グ……オオオオオッ!」


 凄まじい力でロクの身体を強引に振りほどこうと暴れる。


 だが——ロクは動かない。


(な……なんだ……!?)


 オークキングは驚愕した。


 今度は全身の筋肉を爆発させ、さらに力を込める。


 それでも、ロクは微動だにしない。


「グ……オッ!?」


 おかしい。

 有り得ない。


 何十倍もの体格差。


 圧倒的な筋力差。


 それなのに——

 なぜ、この小さな男は動かない?


 オークキングの顔から、血の気が引いた。

 その表情に、初めて底知れない恐怖が浮かぶ。


 これまで、力で負けたことなど、ただの一度もなかった。


 どんな戦士も。


 どんな魔獣も。


 己の剛力で屈服させてきた。


 技など取るに足らない。力こそがすべて。


 力で制圧できないものなどなかった。

 

 だが——

 目の前の男は違う。


 まるで、自分の何十倍もある、古代のドラゴンに押さえつけられているような……


 いや、それ以上——

 生物には喩え難い。この男は、まるで大地そのもの。

 オークキングはそう感じた。 


 いくら腕力に自信があろうが、大地を動かすことはできない。


 このとき、オークキングは、生まれて初めて自身が矮小だと知った。



 投げ技はすでに発動している。


 画面暗転を経て、掴みのモーションに入った投げ技から脱出する方法は——皆無。


 例外は存在しない。


 何人も、この運命には逆らえない。


 

 ロクはオークキングに呟いた。


「……あんた、漢の中の漢だ」


 これは本心だった。


 正直、さっきまでの戦いが続いていたら、ロクは確実に負けていた。

 体力ゲージはほとんど残っていなかった。


 それでも、このオークキングは部下たちに戦わせ続けるのではなく、自ら前へ出た。

 

 1対15、これでは男らしくない。

 だから一対一を選んだ。

 さらに、部下の非礼を詫びるとして、あえて全力の技を受けると言った。


 『侠気』。それを貫いたのだった。


「死ぬなよ」


 ——ロクは左足を振り下ろした。


 ズドォォォォン!!


「グオオッ……!?」


 オークキングの巨体が地面へ叩きつけられる。


 その体重と勢いが加わり、大地が大きく陥没した。


 続いて二回目。ロクは身体を反転させ、反対側の地面へオークキングを叩きつける!

 

 ズドォォン!!

 

 三回。


 四回。


 五回。


 激しい衝撃音と土煙が巻き起こる。


「な……なにあれ……!? 何が起きているの……!?」

 

 エレナは目を見開いた。リディアも両手で口を覆ったまま言葉を失っている。


 周囲のオークたちも、その光景に息を呑む。

 

 投げの連続は終わらない。それどころか、叩きつける速度と破壊力が加速していく。

 

 六回。


 七回。


 八回。


 衝撃波が吹き荒れ、巨体が打ち付けられるたびに凄まじい砂煙が舞い上がる。

 加速度と重量のエネルギーによって、廃鉱山の入口の地面は完全に大きく抉れていた。


 そして——


「どりゃあぁぁぁっ!!」


 ロクの叫びとともに、オークキングの巨大な身体が天高く空中に投げ出され、回転しながら遥か上空から地面へと垂直落下していく。 


 ドォォォォォン!!


 地面へ墜落した。


 ロクは拳を頭上へ掲げた。


「——これで終わりだ!」


 両拳を思い切り地面へ叩きつける。


「《地雷震》!!」


 ドゴォォォォォン!!


 大地が震えた。


 はっきりと目に見えるほどの衝撃波が地面を走る。


 弾け飛ぶような衝撃を受け、オークキングの巨体は後方数十メートルの岩壁まで吹き飛ばされ、激しい音を立てて叩きつけられた。


 オークキングの巨体が力なく地面に崩れ落ち、頭がダラリと垂れる。 


「…………」


 静寂。


 誰も動かない。


 誰も声を発しない。


 やがて——


『……王が』


 一体のオークが呟いた。


『我らの王が……』


 オークたちがざわめき始める。


 そして、オークたちがロクを睨んだ。


 その目には怒りが宿っている。


 気づけばロクは、オークたちに取り囲まれていた。


「……」


 体力ゲージは点滅している。


 もう一度、戦えるか。


 分からない。


 それでも、やるしかない。


 ロクが静かに構えた——そのときだった。


「ブ……オオ……」


 声が聞こえた。


 全員が振り返る。


 オークキングだった。


 傷ついた身体を引きずりながら、ゆっくりと立ち上がる。


 オークキングは、ふらつきながらもロクの方へ歩いてくる。


 そして、ロクの目の前で立ち止まった。じっと見つめている。


「…………」


 オークキングが何かを呟いて、フッと満足そうに口元を歪めて笑った。

 それは不思議なくらい、晴れやかな笑顔だった。


 ロクにはオークの言葉はわからない。

 それでもオークキングの言葉が、ロクにはしっかりと届いていた。


『お前の勝ちだ』


 ロクにははっきりとそう聞こえた。


 ——次の瞬間。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 地鳴りのような歓声が、廃鉱山を揺るがした。


 オークたちが拳を突き上げる。


 雄叫び。


 歓声。


 それは敗者の悔しさではなかった。


 強者を認める、戦士たちの咆哮だった。


「オオオオオオオオオオッ!!」


『人間の戦士よ!』


『見事なり!』


『我らの王を倒したぞ!』


 ロクはその光景を呆然と見ていた。


 そして——

 なんだか、胸の奥が無性に熱くなった。


 ロクは大きく地面を踏みしめ——


「——おおおおおおおおおおおおおっ!!」


 拳を天高く突き上げた。


 ロクもまた、腹の底から雄叫びを上げた。


 言葉なんて必要なかった。

 戦いを通じて——互いを認め合った。


 漢たちの叫びが、異世界の空高く、どこまでも響き渡っていった。

【参考動画】

このエピソードに出てくる技1

《根っこ返し》

https://x.com/lcuf4yg/status/2110919521628516401?s=46

このエピソードに出てくる技2

《地獄極楽落とし》

https://x.com/lcuf4yg/status/2111317299261239690?s=46

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