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6/10

ROUND6 廃鉱山のオーク討伐

【ロクの格ゲーシステム】

①レバーとボタンによって、自分自身を操作できる

②ダメージを受けると体力ゲージが減る。痛くはない

③スタミナ無限

④格ゲーキャラの技を正確に再現できる

⑤ラウンド終了時体力全回復

⑥キャラクターを変更できる

⑦勝利時に固定演出が発生する

⑧ダウン中無敵

 廃鉱山は、フェルナードの街から少し離れた山間にあった。


 かつては鉄鉱石や魔鉱石を産出していたらしいが、魔鉱脈が枯れたことで十年ほど前に閉山されたという。


 山肌には巨大な坑道の入口がぽっかりと口を開けている。


 入口の周囲には崩れた木造の足場や朽ちた鉱車が放置され、ところどころに赤黒い鉱石の欠片が転がっていた。


 そして、その入口付近に、オークたちがたむろしていた。


「……あれがオークか」


 ロクたちは、岩陰から様子を窺っていた。


 5、6体のオークがいる。


 どいつも身長2メートル近い。


 分厚い胸板。


 丸太のような腕。


 そして、何より目を引くのが、全身を覆う鋲を打ち込まれた金属製の鎧だった。


「……屈強ですね」


 リディアが小さく呟く。


 ロクも頷いた。


 ゲームだったら、いかにも防御力が高そうな見た目だ。


「できれば、平和的な解決がいいですね」


 リディアが言った。


「私は、オークの古語がわかりますので、少しなら会話が成り立ちます。まずは交渉の余地がないか話してみようと思います」


「なるほど」


 確かに、相手が話の通じる存在なら、わざわざ殴り合う必要はない。


 15体のオークを一度に相手にするのは得策ではないし、話し合いがまとまらなくても、オークキングと一対一の決闘という展開にもっていくのが望ましい。


「エレナさん、行きましょう」


「え?」


 エレナがキョトンとした。


「私?」


「はい」


「なんで?」


「格闘家のロク様がいると、オークたちが警戒するかもしれません。それと……」


 リディアは少し困ったように笑った。


「私一人では心細いので」


「はぁ……気が進まないなぁ」


 エレナは不安そうにロクを見た。


(……大丈夫かな?)


 少し心配ではある。


 しかし、オークは侠気を重視する種族らしい。


 強い者には敬意を払い、卑怯なことを嫌う。


 そんな連中なら、いきなり女の子を襲うような真似はしないだろう。


(まあ、大丈夫か……)


「俺もリディアの作戦がいいと思う。エレナ、俺からもお願いするよ」


「……わかったわ。ロク、絶対そこで見ててよ?」


「もちろん」


 こうしてリディアとエレナが、オークたちのもとへ歩いていった。


 俺は岩陰に身を隠し、二人の様子を見守る。


『……人間の女?』


 オークの一体が振り返った。


『何の用だ?』


 低く、地面を揺らすような声だった。


 リディアは怯むことなく、オークに話しかける。


『私たちは、あなた方の族長——オークキングに会いに来ました』


『オークキングに?』


 リディアは丁寧に話している。


 どうやら言葉そのものは、ちゃんと通じているようだ。


『何のためだ』


『話し合いをしたいのです』


『……人間が我らと話し合いだと?』


 オークたちが怪訝な顔をする。


 リディアが続けようとした——そのときだった。


「……」


 隣にいた別のオークが、じっとエレナを見ている。


「……?」


 エレナも、その視線に気づいた。


「な、何?」


 エレナに熱い視線を送っていたオークは、濁った声でブモブモと仲間に何かを喋っている。


 それを聞いたリディアは、目を見開き絶句した。


「なッ……!?」


 顔が固まった。


「え、何? なんて言ってるの?」


「エレナさん……その……」


 リディアが困ったように目を泳がせる。


「エレナさんを……お嫁さんにしたい、と」


「はぁッ!?」


 エレナの声が鉱山に響き渡った。


「——ちょ、ちょっと待って!?」


 オークは何かを訴えている。


「え? 何? なんて!?」


「とても美しい。ぜひ妻にしたい、と……」


「えええええ!?」


 エレナが叫んだ——その瞬間。


 オークがエレナの身体をひょいと持ち上げた。


「ひゃっ!?」


 そのまま肩の上に担ぎ上げる。


「え? ヤバッ! ちょっとぉ!」


 オークはエレナの抵抗を気にも止めず、そのまま廃鉱山の入り口の方へ歩き始めた。


「ロク! 助けて!!」


 エレナがオークの上でじたばたしている。


「——!」


 まずい。

 早くも作戦失敗だ。


 ロクは岩陰から飛び出した。


「エレナ!」


「ロク!!」


 オークの前へ回り込む。


「エレナを離せ!」


 ロクが叫ぶ。


「…………」


 オークはロクを一瞥し、そして、無視した。


「おい!!」


 オークは歩き続ける。


(……まずいことになった)


 ロクは焦った。


(いや、待て……)


 ふと、妙なことに気づく。


(これってなんか……)


 まるで、女の子を連れた俺が、オークに言いがかりをつけている図だ。


(わりと……美人局(つつもたせ)っぽくないか!?)


 可愛い女の子を餌にして男を誘い出し、後から不当なクレームをつける。

 そういう古典的な詐欺に見えなくもない。


 しかも相手は「侠気」を重視するオークだ。心象は相当悪いだろう。


(これ——悪手だろ。普通に)


「…………」


 オークがロクを睨んだ。


「……」


 無言の圧力。


 明らかに「邪魔をするな」と言っている。


「いや、違うんだ」


 ロクは両手を上げた。

 だが、言葉は当然通じない。


「俺は別にそういうつもりじゃ——」


 しかし、オークは止まらない。


「……仕方ない」


 ロクは拳を握った。


「やるか!」


 ゲームなら、この時点で即戦闘というシチュエーション。


 ロクはボタンを弾いた。


『強P』


 ロクは腰を深く落とし、そして踏み込んだ。


「《正拳突き》!」


 ドンッ!


 拳がオークの腹部に突き刺さった。


「……!」


 手応えはあった。だが——


 オークは微動だにしなかった。


「……マジか」


 分厚い鉄の鎧。

 そして、その下にある屈強な肉体。


 ロクの打撃技では、ほとんどダメージを与えられない。


 オークがロクを見る。


 そして、鬱陶しそうに空いている左腕を勢いよくロクに振り下ろした。


 ドンッ!!


 鈍い打撃音。


「……ぐぁっ!」


 ロクの身体が宙を舞う。


 そのまま地面を転がり、岩壁に激突した。


「ロク様!」


 リディアの悲鳴。


「ロク!」


 エレナも叫ぶ。


 ロクは地面に手をついた。


「……痛くはない」


 いつものことだ。


 体力ゲージも大して減ってはいない。


 だが、問題はそこじゃない。


 打撃が通らない。


 昨日のゴーレムよりも厄介かもしれない。


 オークたちはガチガチに武装している。


 だが——

 ロクはすぐに立ち上がった。


「格ゲーなめんな!」


 ロクはボタン配置を変更する。


 そしてキャラクター選択。


 彼が選んだのは——投げ技に特化した、柔道キャラ。


 構えが変わる。


 どっしりと地に足をつき、大きく両手を前に出す。


 動かざる山の如し——それは不動の構え。


「……」


 オークが不快そうにこちらを見る。


「教えてやるよ」


 ロクは構えたまま不敵に笑った。


「格ゲーは、打撃だけじゃないってことを!」


『→↘↓↙←→+D』


 コマンド入力。


 ロクは大地を力強く蹴って、オークへ向かって走り出した。


 そして、オークに接触したその瞬間、掴み投げが発動する。


「《裏投げ》!」


 ぐるんとロクの身体がオークの背後へ回り込むと、大木のような図体を抱え込んだ。


 そして、200kg近いオークの巨体をこともなげに持ち上げる。


「ブモ!?」


「オラァ!!」


 ロクはそのままオークを思い切り地面に叩きつけた。


 ズドォォォンッ!!


「ブゴォッ!?」


 轟音とともに土煙が舞う。


 そして、担がれていたエレナも解放され——


「ひゃん!?」


 可愛い悲鳴を上げて、お尻から地面に落っこちた。


「ちょっとロク! もっと優しく助けてよ!」


「悪い!」


「何なのよ今の技は!?」


「説明は後! ちょっとヤバい状況になりそう!」


 周囲のオークたちも、あまりの出来事にざわめき始めていた。


 さらに——

 

「ブオオオオオッ!!」


 怒声が響いた。


 ロクに投げられたオークの顔は、真っ赤だった。


(……ですよねー)


 オークはカンカンに怒っている。


「ロク様……」


 リディアが青ざめる。


「ブオオオオオッ!!」


 怒声に触発されるように近くにいた別のオークたちがぐるりとロクを取り囲んだ。


「チッ……」


 ロクは舌打ちした。

 逃げ場はない。

 もとより、逃げるつもりはないが——


「こうなったら、全員投げ飛ばす!!」


 ロクは腹を括った。


 オークの一体が突進し、ロクの間合いに入ってきた。


 ロクはこれを正面から迎え撃つ。


『→↘↓↙←→+C』


「《天地返し》!」


 巨体を掴む。


「ブオッ!?」


 そして、「ドシンッ!」と地面に叩きつけた上で、空高く投げ飛ばす。


「どりゃあ!」


 オークの巨体が回転しながら空を舞い、豪快に地面に落下した。


「次!」


 別のオークが飛びかかってくる。


 ロクは冷静に対処する。


『←↙↓↘→+A』


「《雲つかみ投げ》!」


 空中のオークを掴み——


「どっせい!」


 そのまま地面へ叩き落とす。


 ズドォン!!


「次!!」


 さらに横から別のオークが低い姿勢でタックルを仕掛けてくる。


『←↙↓↘→+C』


「《切り株返し》!」


 オークの頭を片手で鷲掴みにすると、空中へ持ち上げ——


「おりゃあ!」


 地面に沈める。


 ズドン!


 ズドン!


 ズドン!


 オークの重量を無視した投げ技のラッシュ。


『なんだこいつは!?』


『怪物か!?』


『我らを素手で投げているぞ!』


 格ゲーには多彩な投げ技が存在する。


 ダメージ量が多く、見た目にもインパクトがあり、局面の打開としても有用なコマンド投げ。

 これもまた、格ゲーの醍醐味と言える。


 投げに体格差は関係ない。


 コマンドが成立し、掴むことさえできれば、安定したダメージを与えることができる。

 ガードすることもできない。投げ抜けも基本的には不可能。


 入力が複雑であり、機動性に劣る重量級キャラに多いコマンド投げは、敬遠されがちではあるが、使いこなせれば高性能、かつ、ハイリターンという優れもの。


 ロクはその使い所を熟知していた。


 ときに相手の攻撃をかわし、動き、場面に合わせた最適なコマンドを入力していく。


 ロクにとって、これは作業に過ぎなかった。


 オークたちが次々と投げ飛ばされていく。


 そして、気がつけば——

 

 廃鉱山の入り口には、巨大なオークたちがあちこちに転がっていた。


 ひと段落。

 ロクは「ふぅ」と軽く息をはいた。


 ——だが、その安堵も束の間。

 廃鉱山の中からぞろぞろと増援がやってくる。


 次々と姿を現すオーク。


 ロクが放り投げていたオークたちと合わせると、その数——総勢15体。


「ここからが本番か……」


 ロクは小さく呟いた。

【参考動画】

このエピソードに出てくる技

《雲つかみ投げ》

《天地返し》

《裏投げ》

《切り株返し》

https://x.com/lcuf4yg/status/2110919521628516401?s=46

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