ROUND6 廃鉱山のオーク討伐
【ロクの格ゲーシステム】
①レバーとボタンによって、自分自身を操作できる
②ダメージを受けると体力ゲージが減る。痛くはない
③スタミナ無限
④格ゲーキャラの技を正確に再現できる
⑤ラウンド終了時体力全回復
⑥キャラクターを変更できる
⑦勝利時に固定演出が発生する
⑧ダウン中無敵
廃鉱山は、フェルナードの街から少し離れた山間にあった。
かつては鉄鉱石や魔鉱石を産出していたらしいが、魔鉱脈が枯れたことで十年ほど前に閉山されたという。
山肌には巨大な坑道の入口がぽっかりと口を開けている。
入口の周囲には崩れた木造の足場や朽ちた鉱車が放置され、ところどころに赤黒い鉱石の欠片が転がっていた。
そして、その入口付近に、オークたちがたむろしていた。
「……あれがオークか」
ロクたちは、岩陰から様子を窺っていた。
5、6体のオークがいる。
どいつも身長2メートル近い。
分厚い胸板。
丸太のような腕。
そして、何より目を引くのが、全身を覆う鋲を打ち込まれた金属製の鎧だった。
「……屈強ですね」
リディアが小さく呟く。
ロクも頷いた。
ゲームだったら、いかにも防御力が高そうな見た目だ。
「できれば、平和的な解決がいいですね」
リディアが言った。
「私は、オークの古語がわかりますので、少しなら会話が成り立ちます。まずは交渉の余地がないか話してみようと思います」
「なるほど」
確かに、相手が話の通じる存在なら、わざわざ殴り合う必要はない。
15体のオークを一度に相手にするのは得策ではないし、話し合いがまとまらなくても、オークキングと一対一の決闘という展開にもっていくのが望ましい。
「エレナさん、行きましょう」
「え?」
エレナがキョトンとした。
「私?」
「はい」
「なんで?」
「格闘家のロク様がいると、オークたちが警戒するかもしれません。それと……」
リディアは少し困ったように笑った。
「私一人では心細いので」
「はぁ……気が進まないなぁ」
エレナは不安そうにロクを見た。
(……大丈夫かな?)
少し心配ではある。
しかし、オークは侠気を重視する種族らしい。
強い者には敬意を払い、卑怯なことを嫌う。
そんな連中なら、いきなり女の子を襲うような真似はしないだろう。
(まあ、大丈夫か……)
「俺もリディアの作戦がいいと思う。エレナ、俺からもお願いするよ」
「……わかったわ。ロク、絶対そこで見ててよ?」
「もちろん」
こうしてリディアとエレナが、オークたちのもとへ歩いていった。
俺は岩陰に身を隠し、二人の様子を見守る。
『……人間の女?』
オークの一体が振り返った。
『何の用だ?』
低く、地面を揺らすような声だった。
リディアは怯むことなく、オークに話しかける。
『私たちは、あなた方の族長——オークキングに会いに来ました』
『オークキングに?』
リディアは丁寧に話している。
どうやら言葉そのものは、ちゃんと通じているようだ。
『何のためだ』
『話し合いをしたいのです』
『……人間が我らと話し合いだと?』
オークたちが怪訝な顔をする。
リディアが続けようとした——そのときだった。
「……」
隣にいた別のオークが、じっとエレナを見ている。
「……?」
エレナも、その視線に気づいた。
「な、何?」
エレナに熱い視線を送っていたオークは、濁った声でブモブモと仲間に何かを喋っている。
それを聞いたリディアは、目を見開き絶句した。
「なッ……!?」
顔が固まった。
「え、何? なんて言ってるの?」
「エレナさん……その……」
リディアが困ったように目を泳がせる。
「エレナさんを……お嫁さんにしたい、と」
「はぁッ!?」
エレナの声が鉱山に響き渡った。
「——ちょ、ちょっと待って!?」
オークは何かを訴えている。
「え? 何? なんて!?」
「とても美しい。ぜひ妻にしたい、と……」
「えええええ!?」
エレナが叫んだ——その瞬間。
オークがエレナの身体をひょいと持ち上げた。
「ひゃっ!?」
そのまま肩の上に担ぎ上げる。
「え? ヤバッ! ちょっとぉ!」
オークはエレナの抵抗を気にも止めず、そのまま廃鉱山の入り口の方へ歩き始めた。
「ロク! 助けて!!」
エレナがオークの上でじたばたしている。
「——!」
まずい。
早くも作戦失敗だ。
ロクは岩陰から飛び出した。
「エレナ!」
「ロク!!」
オークの前へ回り込む。
「エレナを離せ!」
ロクが叫ぶ。
「…………」
オークはロクを一瞥し、そして、無視した。
「おい!!」
オークは歩き続ける。
(……まずいことになった)
ロクは焦った。
(いや、待て……)
ふと、妙なことに気づく。
(これってなんか……)
まるで、女の子を連れた俺が、オークに言いがかりをつけている図だ。
(わりと……美人局っぽくないか!?)
可愛い女の子を餌にして男を誘い出し、後から不当なクレームをつける。
そういう古典的な詐欺に見えなくもない。
しかも相手は「侠気」を重視するオークだ。心象は相当悪いだろう。
(これ——悪手だろ。普通に)
「…………」
オークがロクを睨んだ。
「……」
無言の圧力。
明らかに「邪魔をするな」と言っている。
「いや、違うんだ」
ロクは両手を上げた。
だが、言葉は当然通じない。
「俺は別にそういうつもりじゃ——」
しかし、オークは止まらない。
「……仕方ない」
ロクは拳を握った。
「やるか!」
ゲームなら、この時点で即戦闘というシチュエーション。
ロクはボタンを弾いた。
『強P』
ロクは腰を深く落とし、そして踏み込んだ。
「《正拳突き》!」
ドンッ!
拳がオークの腹部に突き刺さった。
「……!」
手応えはあった。だが——
オークは微動だにしなかった。
「……マジか」
分厚い鉄の鎧。
そして、その下にある屈強な肉体。
ロクの打撃技では、ほとんどダメージを与えられない。
オークがロクを見る。
そして、鬱陶しそうに空いている左腕を勢いよくロクに振り下ろした。
ドンッ!!
鈍い打撃音。
「……ぐぁっ!」
ロクの身体が宙を舞う。
そのまま地面を転がり、岩壁に激突した。
「ロク様!」
リディアの悲鳴。
「ロク!」
エレナも叫ぶ。
ロクは地面に手をついた。
「……痛くはない」
いつものことだ。
体力ゲージも大して減ってはいない。
だが、問題はそこじゃない。
打撃が通らない。
昨日のゴーレムよりも厄介かもしれない。
オークたちはガチガチに武装している。
だが——
ロクはすぐに立ち上がった。
「格ゲーなめんな!」
ロクはボタン配置を変更する。
そしてキャラクター選択。
彼が選んだのは——投げ技に特化した、柔道キャラ。
構えが変わる。
どっしりと地に足をつき、大きく両手を前に出す。
動かざる山の如し——それは不動の構え。
「……」
オークが不快そうにこちらを見る。
「教えてやるよ」
ロクは構えたまま不敵に笑った。
「格ゲーは、打撃だけじゃないってことを!」
『→↘↓↙←→+D』
コマンド入力。
ロクは大地を力強く蹴って、オークへ向かって走り出した。
そして、オークに接触したその瞬間、掴み投げが発動する。
「《裏投げ》!」
ぐるんとロクの身体がオークの背後へ回り込むと、大木のような図体を抱え込んだ。
そして、200kg近いオークの巨体をこともなげに持ち上げる。
「ブモ!?」
「オラァ!!」
ロクはそのままオークを思い切り地面に叩きつけた。
ズドォォォンッ!!
「ブゴォッ!?」
轟音とともに土煙が舞う。
そして、担がれていたエレナも解放され——
「ひゃん!?」
可愛い悲鳴を上げて、お尻から地面に落っこちた。
「ちょっとロク! もっと優しく助けてよ!」
「悪い!」
「何なのよ今の技は!?」
「説明は後! ちょっとヤバい状況になりそう!」
周囲のオークたちも、あまりの出来事にざわめき始めていた。
さらに——
「ブオオオオオッ!!」
怒声が響いた。
ロクに投げられたオークの顔は、真っ赤だった。
(……ですよねー)
オークはカンカンに怒っている。
「ロク様……」
リディアが青ざめる。
「ブオオオオオッ!!」
怒声に触発されるように近くにいた別のオークたちがぐるりとロクを取り囲んだ。
「チッ……」
ロクは舌打ちした。
逃げ場はない。
もとより、逃げるつもりはないが——
「こうなったら、全員投げ飛ばす!!」
ロクは腹を括った。
オークの一体が突進し、ロクの間合いに入ってきた。
ロクはこれを正面から迎え撃つ。
『→↘↓↙←→+C』
「《天地返し》!」
巨体を掴む。
「ブオッ!?」
そして、「ドシンッ!」と地面に叩きつけた上で、空高く投げ飛ばす。
「どりゃあ!」
オークの巨体が回転しながら空を舞い、豪快に地面に落下した。
「次!」
別のオークが飛びかかってくる。
ロクは冷静に対処する。
『←↙↓↘→+A』
「《雲つかみ投げ》!」
空中のオークを掴み——
「どっせい!」
そのまま地面へ叩き落とす。
ズドォン!!
「次!!」
さらに横から別のオークが低い姿勢でタックルを仕掛けてくる。
『←↙↓↘→+C』
「《切り株返し》!」
オークの頭を片手で鷲掴みにすると、空中へ持ち上げ——
「おりゃあ!」
地面に沈める。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
オークの重量を無視した投げ技のラッシュ。
『なんだこいつは!?』
『怪物か!?』
『我らを素手で投げているぞ!』
格ゲーには多彩な投げ技が存在する。
ダメージ量が多く、見た目にもインパクトがあり、局面の打開としても有用なコマンド投げ。
これもまた、格ゲーの醍醐味と言える。
投げに体格差は関係ない。
コマンドが成立し、掴むことさえできれば、安定したダメージを与えることができる。
ガードすることもできない。投げ抜けも基本的には不可能。
入力が複雑であり、機動性に劣る重量級キャラに多いコマンド投げは、敬遠されがちではあるが、使いこなせれば高性能、かつ、ハイリターンという優れもの。
ロクはその使い所を熟知していた。
ときに相手の攻撃をかわし、動き、場面に合わせた最適なコマンドを入力していく。
ロクにとって、これは作業に過ぎなかった。
オークたちが次々と投げ飛ばされていく。
そして、気がつけば——
廃鉱山の入り口には、巨大なオークたちがあちこちに転がっていた。
ひと段落。
ロクは「ふぅ」と軽く息をはいた。
——だが、その安堵も束の間。
廃鉱山の中からぞろぞろと増援がやってくる。
次々と姿を現すオーク。
ロクが放り投げていたオークたちと合わせると、その数——総勢15体。
「ここからが本番か……」
ロクは小さく呟いた。
【参考動画】
このエピソードに出てくる技
《雲つかみ投げ》
《天地返し》
《裏投げ》
《切り株返し》
https://x.com/lcuf4yg/status/2110919521628516401?s=46




