ROUND5 冒険者ロク
【ロクの格ゲーシステム】
①レバーとボタンによって、自分自身を操作できる
②ダメージを受けると体力ゲージが減る。痛くはない
③スタミナ無限
④格ゲーキャラの技を正確に再現できる
⑤ラウンド終了時体力全回復
⑥キャラクターを変更できる
⑦勝利時に固定演出が発生する
⑧ダウン中無敵
翌朝。
異世界3日目。
今日も快晴だった。
「おはようございます、ロク様」
「おはよう」
「おはよー、ロク」
宿の食堂で、リディアとエレナと向かい合って朝食を食べる。
昨日と違って、今日は3人とも予定がなかった。
「今日は3人で行動できるんだな」
「はい。昨日は別行動になってしまいましたからね」
ロクは少し考えてから、口を開いた。
「じゃあ、今日も冒険者ギルドに行きたい」
「また?」
エレナが眉を上げる。
「昨日はシステムがよく分かってなかったから……」
「システム?」
ロクは頷いた。
「冒険者ギルドの仕組み。わりと頑張って大物を倒したんだけど……」
昨日は腕試しも兼ねて、あえてレベル高めのクエストを見つけて、依頼を受けた。
そして、5メートルを超えるゴーレムを倒した。
だが、その報酬は——
「銅貨1枚だったからなぁ……」
一夜明けて、冷静になって。
やっぱり少し悲しくなる。
銅貨1枚って、日本円に換算すると1000円くらいか?
これでは最低賃金にも満たない。
結局、宿代も飯代も賄えていない。
「今日こそはちゃんと稼ぎたい!」
「ふふっ」
リディアが小さく笑った。
「なるほど。昨日の銅貨はそういうことだったのですね。でしたら、今日は私たちも同行いたします」
リディアは上品に微笑んだ。
「そうね、あたしたちがついていってあげないと、また変な損させられそうだし」
エレナも頷いてくれた。
こうしてロクたちは、3人で冒険者ギルドへ向かった。
◇ ◇ ◇
——冒険者ギルド・フェルナード支部。
その扉を開けた瞬間だった。
「おお!」
「昨日の兄ちゃんじゃねえか!」
「昨日はすごかったな!」
「ゴーレムを一人でぶっ倒した奴だろ!」
「見かけによらず強ぇんだな!」
ロクは足を止めた。
「……え?」
ギルド内の冒険者たちの視線が、一斉にロクへと注がれる。
ざわざわと場内は活気づいた。
どうやら昨日のゴーレム討伐で、ちょっとした有名人になってしまったらしい。
5メートルを超えるゴーレムを一人で倒したのだから、当然といえば当然なのかもしれない。
「兄ちゃん!」
酒場の方から、一人の冒険者が声を飛ばしてきた。
「今日は女みたいなセリフとかポーズしないのか?」
すると、「ガハハ!」と周囲から下品な笑いが巻き起こった。
「…………」
ロクの動きが止まった。
「…………」
エレナの動きも止まった。
そして、ゆっくりと、エレナがロクを見た。
冷ややかな視線とともに——
「……ちょっとロク」
「はい?」
「昨日、あなた一体何してたの?」
「……仕事です!」
「仕事じゃないでしょ!」
エレナが厳しく追及する。
昨日は、女性格闘家キャラに切り替えて戦って、完璧に女子になりきっていた。
そして最後には——
満面の笑みでジャンプ。
ピョーン。
ピョーン。
そして、ピース。
『やったぁ!』
たぶん、かなり目立った。
本人の意思とは関係なく無慈悲に発動される勝利演出。
ロクにとってはゲームの仕様だが、異世界の人間からすれば——やっぱりそういう癖に見えるだろう。
エレナは完全に引いていた。
「いや、その……」
説明できない。というか、理解されない。絶対に。
「こればっかりは……やめられないんだ!」
システム的に、という意味なのだが……ロクは妙なことを口走りながら、顔を真っ赤に染め、逃げるように受付カウンターへと駆け込んだ。
「ようこそ。昨日のお兄さん」
受付のハーフエルフのお姉さんがくすくす笑いながら出迎えてくれた。
「昨日は大活躍でしたね」
「ありがとう」
「今日もクエストの受注ですか?」
「うん。でもその前に……」
ロクはリディアを見る。
「冒険者登録ってした方がいいのか?」
「そうですね。その方がよろしいかと」
エレナも頷いた。
「冒険者としてやっていくつもりなら、登録しておいた方がいいんじゃない?」
「そうなのか」
「うん。冒険者にはランクがあるから」
エレナが説明してくれる。
「冒険者のランクは一番下から……
Gランク:駆け出し
Fランク:見習い
Eランク:一人前
Dランク:中堅
Cランク:熟練
Bランクになると、地方でもかなりの実力者ね。
Aランクともなると、大陸でも名の知れた存在。
そして、最高のSランクは——世界に数人しかいない、伝説的な存在よ」
(レベルを上げてく感じか。ゲームみたいだな……)
「ランクが上がれば、受けられるクエストも増えるの。危険度の高いクエストは、一定以上のランクがないと受注できないこともある」
「なるほど」
「ただし、大人数参加型のクエストは、そこまでランクを問われないことも多いかな。ギルドとしても、とにかく人数を集めたい場合があるから」
「よくわかった」
ロクは受付嬢に向き直った。
「登録頼む」
「はい。では、こちらの用紙に必要事項をご記入ください」
紙とペンが差し出される。
ロクは項目を順番に埋めていった。
「……種族は『人間』……出身は『所沢』っと——」
ロクは書類を書き上げると、受付嬢に提出した。
「——はい。問題ありません」
受付嬢は書類の確認が終わると、一度奥へと引っ込んだ。
そして、しばらくして、彼女は一枚のカードを持って出てきた。
「こちらが冒険者証になります」
カードサイズの、硬質なプレート。
そこにはロクの名前と、いくつかの情報。
そして、中央に大きく——
『F』と印字されていた。
「Fランク……?」
「はい。本来、新規登録の場合はGランクからなのですが……」
受付嬢が微笑む。
「ロクさんの昨日のゴーレム討伐の武功を考慮し、特例としてFランクからのスタートとなりました」
「……俺、いきなり昇格したの?」
「すごいじゃん、ロク!」
エレナが横から覗き込む。
「よかったですね」
リディアも嬉しそうに微笑む。
「…………」
ロクは、冒険者証を手に取った。
小さなカードだった。
けれど、不思議と重みを感じた。
冒険者としての『ライセンス・カード』。
異世界で初めて手に入れた、身分証明証。
ロクはカードを指先で撫で、ふと、昔のことを思い出した。
——20年以上前、二輪の免許を取ったとき。
高校生の頃だった。
初めて免許証を手にして、バイクに乗った。
——その瞬間、世界が広がった。
どこまでも行けるような気がした。
「…………懐かしいな」
「ロク様?」
「いや……」
ロクは冒険者証を眺めながら笑った。
「同じなんだなと思って」
「同じ、ですか?」
「こういうの初めてもらったときってさ。なんだか世界が広がったような気がするんだ」
あの頃に比べれば、だいぶ歳は取った。
でも——
気持ちはあの頃と、少しも変わってはいなかった。
「……悪くないな」
ロクは満足気に呟いた。
すると——
「あの……」
受付嬢が、少し言いにくそうに声をかけてきた。
「実は、ロクさんにお願いしたいクエストがあるんです」
「俺に?」
「はい」
受付嬢は一枚の依頼書を取り出した。
こう書かれている。
『討伐依頼:廃鉱山を占拠したオークの排除』
「オーク?」
ロクが尋ねる。
「はい。地権者の方からの正式な依頼です」
受付嬢の表情が少し曇った。
「廃鉱山を根城にしているオークの集団がいるんです。今のところ15体確認されています。そして、群れを率いているのが、オークキング」
「オークキング……」
なんか強そうだ。実際強いんだろう。
ロクの中で、筋骨隆々の巨大なオークの姿が浮かんだ。
「このオークキングが、少々厄介なんです」
「強いってこと?」
「それもありますが……」
受付嬢は困ったように言った。
「非常に侠気を重んじる性格だそうでして」
「ん? 侠気?」
「はい。卑怯なことを嫌い、強い者には敬意を払う。特に一対一の決闘を好み、他の者が手出しすることを許さないそうです」
「……なるほど」
ロクは少し考えた。
なんだか妙に筋の通ったオークだ。
「逆に言えば、一対一なら戦いやすいってこと?」
「そうなのですが……」
受付嬢は苦笑した。
「これまで何人もの冒険者が挑戦しましたが、誰も勝てていません」
「なるほど」
確かにフィジカルでオークに勝る人間はいないだろう。
一対一という制約は、普通ならかなりキツい。
「当ギルドとしても、できれば穏便に排除したいのですが、オークキングを倒さない限り、群れ全体が廃鉱山から退去しないようでして」
つまり——
15体のオークを全滅させる必要はない。
頭を倒せば、問題が解決する、ということか。
「報酬は?」
ロクが尋ねると、受付嬢は依頼書を指で叩いた。
「金貨3枚です」
「……山分けじゃないよね?」
「はい。地権者の方から、ゴーレムを討伐したロクさんにぜひ受けてほしいと、直々の依頼です」
「受ける!」
「本当ですか?」
「ああ」
ロクは依頼書を受け取った。
昨日は、何も知らずにクエストを受けてしまった。
でも今日は違う。
冒険者登録もした。
報酬も確認した。
「今日はちゃんと稼ぐ」
ロクは拳をぐっと握った。
「ロク」
エレナが少し心配そうにロクを見る。
「オークキングって、かなり強いらしいよ?」
「大丈夫」
ロクは笑った。
「一対一なら、俺は負けない」
「……その自信、どこから来るのよ」
エレナは呆れながら言ったが、ロクの実力は確かなものだと、彼女は認めていた。
リディアも微笑む。
「では、今日も頑張りましょう」
「ああ」
ロクは冒険者証を懐にしまった。
Fランク・冒険者見習いのロク。
異世界生活3日目。
今日の仕事は——
オーク退治。
しかも相手は、オークたちを束ねる王様。
ゲームで言えば、ボス戦みたいなものだ。
「よし、行こうか!」
ロクは気合十分に立ち上がった。




