48.錬金術工房を立ち上げる、の巻
直轄工房の前で、異国風の装束を身にまとった男がウロウロとしているのを鍛冶師が見とがめた。
「おい、タイラー領直轄工房になにか用か?」
「ま、待ってくれ! 怪しい者ではない!私はリン・ファウと申す」
言いながら慌てた様子で懐から書状を取り出した。
「タイラー伯爵殿より、紹介状を頂いておる。工房長か、伯爵にお会いしたい」
「紹介状……?」
そのやりとりを、工房で聞いたミアが声をかけた。
「タイラー領直轄工房、工房長のミアです。紹介状見せていただけますか?」
リンは工房長が若い女性であることに驚きながら、紹介状を渡した。
「これは確かにユウリ様のサインですね・・・では領主館へご案内しましょう」
ミアはそのままリンを領主館へと案内した。
________________________________________
「やあ、いらっしゃい。来るの早かったね」
領主館でユウリはアレン・サイラスとともにリンを出迎えた。
「タイラー伯爵……!お久しぶりです。実はあれからエーテライトの精製理論に新しい着想が浮かんだのです。魔晶石の余剰魔力を循環させることができれば完成へと近づくことが出来るのではと・・・それを思いついてから居ても立っても居られなくなり急いで参上したしだいです」
リンは、思いついた魔力の循環経路、触媒の構造、完成した触媒を使用した様々な可能性についてまくし立てた。
(魔晶石の内部にあえて不完全な循環路をつくってあるのか。ここで余剰魔力が螺旋を描き増幅していく・・・おもしろい!!やはりリンは、錬金術の実践より理論の方に才能がありそうだ)
「分かりました。とりあえず錬金術専門の工房を作りましょう」
「――!? 本当ですか!?」
「ただし、最初の規模は小さくなります。実績を見ながら追々考えていきましょう」
「じ、十分です……! 十分すぎるほどです……!」
「錬金術工房の設計は、俺がやりますので意見を聞かせてくださいね」
「え……伯爵が設計をされるので?錬金術工房は、魔力の流れを乱さないために様々な専門知識が必要ですが・・・」
「そのあたりも含めて大丈夫です。使い勝手のあたりを主に意見が欲しいです」
傍らで話を聞いていたアレンが、思わず苦笑した。
「タイラー伯爵は、そういう方なんです。本当に設計できますから大丈夫ですよ」
「そういう方……?」
「気にしたら負けです。すぐに慣れますよ」
そう言われてリンは、狐につままれたような顔をしていた。
________________________________________
ユウリはすぐに設計に取り掛かった。
規模は一軒家程度を想定しているので割とすぐにできた。
出来上がった図面を見たリンは、しばらく絶句していた。
「伯爵、あなたが描かれたので?」
「なにか足りないところがあるかな?」
「いえ、完璧です……それにしても、なんでそんなに錬金術に詳しいんですか?」
リンが不思議そうにそう尋ねると、アレンが再度口を挟んだ。
「この方はそういう方なんです。井戸の修理から、大規模建築の設計まで守備範囲の広~い方なんですよ」
アレンは、達観した表情で真実を告げた。
「な、なるほど……とにかく設計は完璧ですのでよろしくお願いします」
________________________________________
それから二週間後、こぢんまりとした錬金術工房が完成した。
「立派な工房をありがとうございます」
「リンは理論の方が得意だよね?もしかして実践はちょっと苦手だったりするかな?」
「っ!!よくお分かりで・・・・実際の錬金術はあまり得意とはいえません」
「じゃあ、リンの理論を俺が実践してみてもいいかな?」
「伯爵が?錬金術のこころえがなんですか?」
「一応、前に魔導冷蔵庫を作ったりしたので、それなりの腕前だとは思うんだけど・・・」
「おおっ、それは確かにワシが作るよりいいものが出来そうですな!!」
こうしてリンの指示のもと、ユウリがエーテライトの精製をしてみることになった。
「魔晶石を砕いた粉に鉄鉱石とミスリルの粉末をこの比率で混ぜ込みます。ここを失敗すると循環路がうまくいかないんですよ」
天秤で正確に分量を量り、粉末同士を丁寧に混ぜ合わせていった。
「最後に魔力を流しながら設計通りに構築していくのです」
ユウリは、設計通りに魔力を一定にして注ぎ続ける――かなり集中力を必要とする作業だ。
「……なるほど、伯爵の方がワシよりはるかに上の腕までの様だ」
「俺の腕前なんて大したものではないよ・・・100点満中75点くらいだ」
「ご謙遜を・・・」
(本当に75点なんだよな~・・・)
しばらく魔力を流すと、粉末は淡く光る小さな結晶へと姿を変えていった。
「――おお……!」
結晶の透明度といい、循環する魔力といい前に見せられた試作品よりいい出来だった。
「うーん、前に見せてもらった試作品よりはいいけど……ダメだな。ただ理論自体は間違ってないと思うよ」
「そう言っていただけると……」
「これはかなり腕利きの錬金術師がいないと難しそうだな・・・そういえば、イグナーツが心当たりを当たってくれるって言ってたな~。進捗を聞きに行ってみようか」
こうして新たな素材を精製する触媒を作成するため、腕利きの錬金術師を探すことになった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。
お手数とは存じますが、ご評価いただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。




