47イグナーツの進歩、の巻
タイラー領に帰り着いたユウリとザイードを、留守を任された面々が出迎えた。
「お帰りなさい、ユウリ様!ザイード殿、護衛お疲れ様です」
「みんな、留守をありがとう!これみんなに帝都の土産」
アレンには実用的なナイフを、サイラスには上等な茶葉、ミアには鍛冶の参考にと帝都の流行りの宝積細工を、それぞれ手渡した。
「わあ、ありがとうございます!」
「公務で出向かれたのにお気を遣わずとも・・・・ありがとうございます」
サイラスは、遠慮しながら茶葉の包みを懐にしまった。
「サイラス殿はお茶が好きなんですね・・・ユウリ様、ナイフさっそく護身用に使わせていただきます」
「俺は、ちょっと面倒見てた連中の様子を見てくるわ」
ザイードは、そう言い残すと、真っ先に、訓練場の方へと、駆けていった。
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「ユウリ様、留守中のご報告をいたします。まず、治安関連ですがとりたてて問題はありません。日常の酔っぱらいのケンカ程度です。モンスターの出没も特にありませんでした」
「農業・工業・商業も全て順調です。今年も収穫高は順調に伸びています。コルビン子爵領の委託栽培に関してもビール用の作物は順調に育っているとのことです。ワイン用の葡萄はまだまだ時間がかかるそうですが、こればっかりは仕方ないですね」
「工業の方はミアさんの方が、詳しいですよね」
「ミスリルのインゴット、武器の生産ともに順調です。工房の皆も鍛冶の腕が上がってきてますので・・・ただ、合金の試作が思ったように進んでいません」
「いや~、新しいものを産み出すのはそう簡単な事じゃないからね。気長にやった貰ったらいいよ」
「商業の方ですが……ビールの受注が止まりません」
「近隣の領地の貴族方から引っ切り無しに注文が入ってきています。魔導冷蔵庫とセットでの注文がほとんどのため、冷蔵庫の生産が追い付いていません」
「おおー!それは嬉しい悲鳴だな」
「あと問題があるとすると、人口増加問題ですね。今すぐというわけではありませんが……いずれ抜本的対策が必要かと」
「うーん、差し当たりは開発計画の速度をあげて対応かな~」
「わかりました。開発のピッチを上げて進めていきます」
「報告は以上です。ユウリ様の方からなにかありますか?」
「うん、ちょっと面白い話があったよ。錬金術師の話なんだけど・・・」
そう前置きすると、帝都で出会った錬金術師の話――伝説の金属を精製するための触媒の話を3人に聞かせた。
「オリハルコン・ヒヒイロカネ・・・ですか」
「ただ、提案してくれた錬金術師は、研究者としてはよさそうなんだけど、錬金術師手しての腕は正直俺よりしたなんだよね・・・どこかに腕のいい錬金術師いないかな~」
ユウリが頭の後ろで手をまわして、ぼやいているとイグナーツが声をかけてきた。
「ユウリ様、魔術の師匠の知り合いで腕利きの錬金術師が1人います。たしかフリーだったはずなので師匠に聞いてみましょうか?」
「おー、是非頼むよ!イグナーツありがとう」
こうして、留守中の情報交換は終了した。
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「イグナーツ、帰ったら多属性魔法の実演をする約束だったね」
「ぜひ、お願いします」
ユウリは魔晶石のあしらわれたミスリル製のガントレットを装着すると、火・土・水・風――4つの属性の魔法を同時に展開した。
イグナーツはその様子を、瞬きもせず見つめていた。
「なるほど・・・属性ごとに独立した経路で発動しているんですね。実際には、それぞれの制御が切り分けられている」
「さすがイグナーツ、その通りだよ」
「ユウリ様、いまから2属性の同時展開をしてみますので、気が付いたことがあれば教えていただけますでしょうか?」
「いいよ。やって見せて」
「爆炎の魔術師」という二つ名の通り、イグナーツは火の魔法を最も得意とし、相反する水の魔法は苦手、風・土はそれなりに得意としている。
イグナーツが詠唱を始めると2つの光が、左右の手のひらの上に浮かんだ。
右の炎の魔力の光は大きく力強く、左の風の魔力の光はそれに比べると小さい。
「イグナーツそのままでいいよ。得意な属性が強く出るのは当たり前だ」
「分かりました!」
そういうと、そのまま魔法を完成し的へと放った。
「――っ」
ファイアーボールは的を見事に砕き、ウインドカッターは多少それたが威力は十分の様だった。
「なんとか2属性の同時展開出来ました・・・・が、発動までに時間がかかりすぎですね」
「すごいじゃないか。発動時間は慣れてきたらどんどん短くなるさ」
「まだまだユウリ様のようにはできません・・・・少しずつでも向上できるように頑張ります」
(向上か・・・・今の俺にはない喜びだよな~。まあ俺には何でもできるという別の楽しみがあるから・・・)
「そうだね……楽しみにしてるよ」
ユウリの声には一抹の寂寥が含まれていたが、それ以上にイグナーツの成長への喜びの方が強かった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




