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41.コルビン子爵、の巻

 コルビン子爵の領地は、武道大会での話が広まって以降、衰退の兆しを見せていた。

 社交界から締め出された影響は思いのほか大きく、すぐに商業に影響が出た。

 評判の悪い領主の土地でわざわざ商売をしようという商人は少なく、結果として必要な物資を割高な値段で買わなくてはならなかった。

 そのため領内の物価はじわじわと上がっていき、暮らしにくさを感じ始めた領民たちは少しずつではあるが他領(主にタイラー領)に移住するものもいた。

 気候と地質に恵まれた農業と――そして、皮肉なことに、タイラー家との交換で手に入れた炭鉱は、なんとか以前の状態を保っていた。

「タイラーの小僧のせいで……くそっ!!」

 執務室で毒づくくらいしか、今のコルビン子爵には出来なかった。


 ________________________________________


 鬱屈とした日を過ごすコルビンの元に、タイラー伯爵から書状が届いた。

「至急に会たいだと……なんの用だ!?」

 書状にはタイラー伯爵と腹心数名でコルビン領を訪ねたい旨が、丁重な言葉で綴られていた。

「仕返しか……!」

「旦那様、わざわざ向こうからいらっしゃるというのでは、現状お断りするのは難しいかと・・・」

 執事のセドリックの進言にコルビンは、しばらく頭を抱えていたが、しばらくして力なく頷いた。


 ________________________________________


「まさか、またコルビン子爵の領地を訪れることになるとは思いませんでしたね」

「まあね~。でもアレン、結果だけ見ればあの人と関わるたびにうちの領地豊かになってるよね~」

「・・・確かに。魔晶石といい、武道会のあとの優良人材の流入といいそういわれれば、そうですね」

「だろ、だから今回も上手くいくといいんだけどね」

「大丈夫です。今回は正攻法で十分成果を上げることが出来ます。本当はもっと有利な条件でも行けると思いますが・・・ユウリ様はイヤなんでしょう?」

「まあね、一方的が有利な条件は長続きしないし、今回は栽培を委託するんだ。こちらからも人を入れるけど、できれば実際に栽培する人たちもいいものを作りたいっていう気持ちが欲しいかな~。それには子爵に悪い条件を押し付けるのではなく、納得できる条件を提示する方が効果的だと思うんだ・・・・そうは思わないかい?サイラス」

「正直に言えば甘いと思いますが・・・・ユウリ様ならそうおっしゃると思ってました」

 3人を乗せた馬車は、子爵領の少し活気の失せた街並みを通り過ぎて行った。


 ________________________________________


 屋敷に到着したユウリたちをコルビンは、戦々恐々の態で出迎えた。

「タイラー伯爵……この度はどのようなご用件で、いらっしゃったのかな?」

 コルビンは、警戒を隠しきれない様子で尋ねた。

「実はこの度我領で、新しく酒を造るための専用の作物を栽培することになりまして・・・しかし我領には栽培しようにも用地がありません。つきましてはコルビン子爵の領地で委託栽培をしていただけないかとお願いに参りました。栽培いただいた作物はすべてタイラー領で買い上げさせていたが来ますので、ぜひご検討お願いします」

「委託栽培……?今度はどんな裏が・・・」

「閣下、この件につきましては我領では解決できない問題ですのでお願いに参上いたしました。閣下の領地にとっても、十分な利のある内容だと思っております。契約の素案をつくってまいりましたのでご確認いただけますでしょうか」

 サイラスは言いながら契約書の素案を、コルビン子爵に差し出した。

 栽培にかかる費用の負担、収穫物の買取価格、期間、双方の義務――それぞれの項目を分かりやすく説明していく。

 コルビンは、震える手で契約書の素案を確認した・・・サイラスの説明通りどの項目を見ても不利な条件は、見当たらなかった。

 むしろ、領地経営に行き詰まりかけているコルビンにとっては、喉から手が出るほど欲しい安定した収入源になる内容だった。

「なぜだ・・・ワシが伯爵に嫌がらせしていたのは知ってるだろう?そんな相手になぜ手を差し伸べるような真似をする」

 コルビンは、震える声で絞り出すように言った。

(前世でもあったな~・・・イヤな相手と折り合いをつけて仕事しないといけないと気が。でも一緒に仕事してみると意外に悪くなかったりするんだよな~)

「交換でいただいた土地に魔晶石の鉱床が見つかったことは面白くなかったと思いますし、私のような若輩者が、自領とは貴族の慣例を無視したやり方をするのも業腹でしたでしょう・・・いやがらせの一つもしてやりたくなるのも分かる気がします」

「……」

「正直私も思うところはありましたが、今回はわだかまりを捨てお願いにきました。これからは隣り合った領同士、共存共栄できればと思います」

 コルビンは、しばらく黙って目の前の若者を見つめていた。

「……甘い坊やだな」

「甘いかどうかは、結果が、教えてくれると思います」

「ふん……」

 コルビンは、深く息を吐くと手にしていた契約書に改めて見た。

「……この条件で構わん。いや、ぜひお願いします」

 コルビンは、そう言うとユウリに頭を下げた。

「コルビン子爵、承諾いただき、ありがとうございます」

 こうして、確執のあった相手と協力関係を結び、隣領での委託栽培が始まることとなった。


拙い文章、読んでいただきありがとうございます。


多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。


お手数とは存じますが、ご評価いただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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