40.酒専用作物栽培地の検討とサイラスの提案、の巻
「アレン、サイラス、久しぶりに領内を散策しようか・・・リディアの提案の件もあるし」
久しぶりに3人は、視察をかねた散策に出かけることにした。
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ヴェイル川沿いの農地では、実り豊かな麦畑が風に揺れていた。
「坊ちゃん、じゃなくて伯爵様、おかげさまで随分暮らしが、楽になりましたよ」
「水の心配がなくなったのが、大きいですね。毎年、麦の出来具合より川の水位を気にしてましたから」
(順調だな・・・・でも新たに作付け出来そうな土地は、ちょっとないな~)
工房ではミアをはじめとした鍛冶師たちが、一心不乱に槌をふるっている。
「ユウリ様、ミア殿集中しているようなので、今日は見るだけにしておきましょう」
「そうだね、アレン・・・しかし、ミアだけでなく、ドワーフの鍛冶師たちやっぱりいい腕してるな~」
「そうゆうのも見ただけでわかるんですね・・・」
「まあ、一応ね・・・みんな少なくとも俺より出来る人ばかりだね」
言いながら、鍛冶師たちの邪魔をしないよう、そっと立ち去った。
町を歩けば、あちこちか領民から声をかけられることが多々あった。
「伯爵様、武道大会で準優勝おめでとうございます!」
「決勝も紙一重の勝負だったとか・・・魔法剣士ヴォルフガングの剣をへし折ったと聞きましたよ。惜しかったですね~」
「いや~、準優勝でも出来すぎだよ。ヴォルフガング殿は本当に強くてね・・・」
ユウリは気さくに答えながら、領民達の顔がユウリを語るとき誇らしげな顔をしているのを嬉しく思った。
「領民たちの表情も明るいですね。数年前まで生きるのに必死で余裕がなかったのに・・・」
「領内の景気がいい証拠かな?まあ武道大会での結果も喜んでくれてるみたいだし、死ぬかと思ったけど出たかいがあるよ」
「領民達にしてみれば、自慢の領主様なんですよ・・・ユウリ様は」
アレンがくすぐったくなるようなことを真顔で言い、サイラスは黙って微笑んでいた。
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町の一角、名物として定着したハンバーグを提供している直轄食堂に3人は、立ち寄ることにした。
「味の、発展確認もかねて食べていくか~」
「いいですね~、賛成です」
昼食には大分早めの時間だったので、店内はまだ閑散としていた。
「伯爵様、ちょっと問題が起こりまして・・・」
席に着こうとすると直轄食道の料理長が、困った様子で3人に話しかけてきた。
「実は、魔導キッチンの調子が悪くて、ハンバーグが焼けないんですよ。修理に時間がかかりそうなので、今日は申し訳ございませんが・・・・」
「ユウリ様!私の推測ですと、『一応』魔導キッチン修理できるんじゃないですか?」
料理長が断るより早く、サイラスがユウリに聞いてきた。
「サイラス・・・確かに多分一応出来るけど」
「では、お願いします。このままだとハンバーグを食べ損ねてしまいますので」
「・・・分かったよ。キッチンに入っていいかな?」
「えっ!!直していただけるんなら助かりますが・・・伯爵様がされるんで?」
「この方は、そういう方なんですよ」
アレンがあきらめ顔で、料理長へ言った。
ユウリはキッチンに入ると、魔導キッチンを点検しだした。
「あー、これはメインの魔導回路の一部が焼き切れてるね・・・これなら回路を書き直せばすぐに直りそうだね・・・・・できた。ほら、直ったよ」
「さすが、ユウリ様。料理長これで問題なく、ハンバーグ作っていただけますか?」
「もちろんです。サイラス様、腕によりをかけて作りますね。伯爵様ありがとうございます」
「なーに、ここは領の直轄食堂だから公務みたいなもんさ。ハンバーグ楽しみだよ」
「っていうか、なんで魔導回路を書き直せるんですか・・・普通は専門の魔術師にしかできないはずなのに」
アレンがいつものように突っ込んでいたが、ユウリもサイラスも聞いていなかった。
「アレン、ぶつぶつ言ってないで席につくよ~」
「はい、はい、すぐに行きます」
ハンバーグは料理長が奮起してくれたせいか、それとも研鑽の結果か、前より随分と美味しくなっていた。
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早めの昼食後、3人は教育・職業訓練の現場にも足を延ばすことにした。
訓練場の一角ではザイードが、陽気な声を張り上げながら若い衛兵たちに剣技を指導していた。
「そこだ、腰をもっと落とせ! いいぞ、その調子だ!」
ザイードの指導は厳しいが実戦的で分かりやすいと好評で、彼の周囲には自然と人だかりができている。
一方、イグナーツは一人の若い女性に熱心に魔法の手ほどきをしていた。
「……魔力の発動は基本が大事だ。これをおろそかにすると後々響いてくる」
抑揚のない声だったが、その眼差しには真剣でそのものだった。
「イグナーツが、あんなに熱心に教えているということは才能ありなのかな?」
「期待できそうですね・・・」
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3人は散策を終え、領主館に戻ってきた。
「やっぱり、酒用の作物を育てられそうな土地、領内にはないな~」
「領内に栽培の土地がないのなら、栽培を委託してみるのはどうでしょうか?作物の品種や育て方を細かく取り決めた上で他領の土地で栽培を任せる形です。収穫物は、うちが全て買い取る契約にすれば相手側にとっても安定した収入源になります」
「確かにその方法があったか・・・サイラス、候補はあるのかな?」
「候補は2つあります。1つは、タイラー領の北に位置するノーウィック男爵領です。気候、地質共に我領のそれと近く候補地としては申し分ないかと。ただ、近年交易で目覚ましい成功を収めている領地ですので要望に応じてくれるかどうか・・・」
「交易で成功してるんなら、ちょっと難しいかもな~・・・もう1つは?」
サイラスは、一瞬間を置いてから答えた。
「……コルビン子爵領です」
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。
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