39.タイラー領の現状とリディアの提案、の巻
溜まっていた仕事も片付き、久しぶりに落ち着けたユウリは、改めて現状の確認を行うことにした。
「まず農業は、順調そのものです。治水の効果もありますし、開墾をすすめていますので収穫量は増えています。鍛冶と魔晶石関連も右肩上がりを続けています。ミスリルのインゴットを魔晶石の新規取引の要望が後を断ちません。現在は取引先を増やさない方向で行っておりますが、近い将来若干は増やさないといけないかもしれません。問題は……教育関連ですね」
「教育関連か~・・・」
「こればかりは、時間がかかることなので、一朝一夕にはいきません」
教育・職業訓練機関は進んではいたが、成果が目に見える形になるにはもう少し時間がかかりそうだった。
「それに関して提案があります。先日仕官したザイード殿とイグナーツ殿に臨時の教官をお願いしてはどうでしょうか?」
「それはいい考えだな・・・彼らならいい教官になりそうだ」
「ええ、剣術と魔法それぞれの分野であれだけの実力者は、なかなかいませんからね。直接、指導してもらえれば、育成の速度も変わってくるはずです。それに、彼らほどの有名な実力者が、指導にあたっていることになれば有望な人材が集まりやすくなります」
「なるほど、確かにそうだね。2人に頼んでみよう」
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「という訳で、お願いできないかな?」
「ん~、構わんよ。昔は帝都の傭兵隊で若いのをしごいてたから、懐かしいな~」
「もちろんお受けします。後進の指導はどの分野でも先達の仕事ですから」
ザイードもイグナーツも快く了承してくれた。
そんな話をしていた時リディアが、上機嫌な様子で顔を出した。
「聞いて聞いて、新しい仕込みいい出来なのよ~」
リディアがキンキンに冷やされたミア特製のビールサーバーを差し出しながら言った。
「お~、それは楽しみ。早速飲んでみるか・・・ザイードとイグナーツも飲むだろう?」
「酒か?もちろん飲むに決まってるぜ!」
「私もエールは好きですので、いただきます・・・」
5人は、それぞれ注がれたジョッキに口をつけた。
「クーッ、うまい!ずっと、これが、飲みたかったんですよね。公爵領の酒も美味しかったんですけど……やはりうちのビールは最高にうまい」
「リディアさん、味といい、のど越しといい、前回よりさらにおいしくなってますね」
「さすがリディア。最高の出来だ!!」
ユウリ・アレン・サイラスは口々にリディアを褒めた。
ザイードとイグナーツは、絶句したまましばらくジョッキを見つめていた。
「おい、坊や!こんな旨い酒、隠すなよ!!」
「こんなうまいエール初めて飲みました」
「イグナーツ、これはうちの領で作っているビールだ。エールと似てるけどね。それとザイード別に隠してないよ。まだ量をたくさん作れてないからあんまり流通してないだけで・・・」
「ふふん、おいしいでしょ~う♪・・・でも、もっと美味しくできるはずなのよね~」
「リディア、なにか、改良案があるのか?」
「ビールに最適な材料で作れたら……最高の水、最高の土地、最高の気候で育てた原料で仕込んだら最高のビールになるわよ」
「・・・原料の栽培から酒用のものを造るってわけか?」
「そういうこと。絶対今より何倍も美味しくなると思うの・・・あと、できればワインも作ってみたいのよね〜」
「ワインか・・・」
「この地方の土地ならいい葡萄が育つわよ。葡萄ならでは深い味わいのお酒飲みたくない?わたしはもともとワイン造りの方が得意なのよ♡」
「ユウリ様、うまくいけば新しい特産品になります。原料そのものの品質からブランディング出来れば最高の特産品になりますよ」
「うーん、リディアの案にのってみるか!」
「いいね~、このビールだけでなく、うまいワインまであるとなれば、ここから離れられなくなっちまうな!」
「酒は人生の友と言いますからね・・・私も同感です」
ザイードとイグナーツもビールに魅了されたようだった。
「ユウリ様、その方向で進めるとして、どこで育てるんです?」
アレンの現実的な問いにユウリは、考え込んだ。
領内の麦芽やホップの栽培に最も適した土地は、どこか・・・・頭の中で領内の地図を思い浮かべていく。
(……もう大抵の場所は、何かしらの用途に割り振られてる)
治水によって開かれた農地は、もともと主食である麦の生産に使っている。
討伐によって切り開かいた土地は、入職者の居住区として埋っている。
空いている土地は、ないことはないが水はけや地質の面で作物の栽培にはあまり向かない場所ばかりだった。
「栽培に当てられそうな土地はちょっと思い当たらないな・・・」
「あら、それは困ったわね~」
「無限に土地があるわけじゃ、ないですからね」
「さて……どうしたものか」
さらなる特産品として、より美味い酒を作り出す試みに、専用の作物を栽培できる土地がないとう現実的な壁が立ちはだかったのだった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
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