38.武道大会後のそれぞれ、の巻
「ここは・・・・どこだ?」
「ユウリ様!よかった……目を覚まさなかったらどうしようかと思いましたよ……あまり心配させないでください」
「アレン、落ち着け。ちゃんと生きてるから」
「生きてるじゃないですよ! あんな無茶な戦い方して……!」
サイラスは、いつも通りの様子だったが、目には安堵の色が浮かんでいた。
「無事で、何よりです・・・俺が失敗したとき上司として責任を取って下さる約束でしょう?それまで死なないでくださいよ」
「サイラスはおいそれと失敗しなさそうだから、頑張って長生きしないとその機会がなさそうだな」
2者それぞれ、ユウリの無事を喜んでくれているようだった。
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神官の神聖魔法のおかげで、翌日にはユウリはほぼ全快した。
「やれやれ、魔力が付きそうですよ・・・せっかく直したんですから無茶しないでくださいね」
何度も魔法をかけたせいで疲労した神官に念を押された。
表彰式が闘技場で行われ、優勝したヴォルフガングと準優勝のユウリは並んで壇上の人となった。
「此度の大会、見応えのある名勝負の連続であった」
ゲルハルト公爵は、朗々とした声で、そう述べた。
「特にタイラー伯爵、若さに似合わぬ多彩な技術の数々を披露し並みいる強豪を打ち破って決勝まで勝ち上がったのは称賛に値する」
公爵は言いながら、傍らに控えていた従者から箱を受け取った。
「タイラー伯爵には、我がゲルハルト公爵家より準優勝の賞金とはべつに勲章を授ける」
箱の中には、公爵家の紋章であるグリフォンが刻まれた金の勲章があった。
「これは我公爵家が束ねる帝国東地区で、特筆すべき武を示したものにのみ与えられる勲章である。タイラー伯爵、見事な武であった」
「身に余る光栄です。この勲章に恥じぬよう行動してまいります」
ユウリは、深く頭を下げ勲章を受け取った。
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表彰式の後、ヴォルフガングが声をかけてきた。
「タイラー伯爵、ほんとうに素晴らしい戦いぶりでした・・・1つ伺いたいのですが、最後に使われた魔法剣、イナーニスですよね?」
「イナーニスって言うんですね・・・俺は対消滅としか知らなくて。でも、あれが出来たのはたまたまですよ。はるかに格上のヴォルフガング殿に対抗するにはもうあれくらいしか手がなかったから、一か八かがたまたま上手くいっただけです」
「たまたま、ですか?」
「ええ、運が良かったというか。同じことができる自信は、正直ありませんよ」
(やろうと思えば、たぶんできるけど・・・)
ヴォルフガングは、疑わしそうな目を向けていたが、それ以上追及してこなかった。
「……そうですか。また、機会があれば」
「次は戦いではなく、お会いしたいです」
ユウリは、そう言って微笑んだ。
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タイラー領に帰還した3人を待っていたのは、山のように積み上がった未処理の仕事だった。
「やれやれ、大会期間中の我々にしか決済できない仕事が全部溜まってますね・・・」
アレンが、書類の山を前に遠い目をしながら言った。
「まあ、仕方ありません・・・ユウリ様、アレン、頑張って処理しましょう・・・とりあえず、乾杯は処理が終わるまでお預けですね」
「サイラス、そりゃないだろう・・・まあ、確かにこれ以上仕事を滞らすと領の運営に支障をきたすか。ユウリ様、頑張りましょう」
「もちろん頑張るさ。で、処理が終わったら3人で打ち上げしよう!」
ユウリは、前世での培った要領のよさで、アレンは、持ち前の根性で、サイラスは、いつも通り重要度の高いものから的確に取捨選択し極めて高い処理能力で、それぞれ溜まった仕事を処理していった。
量的にはサイラスが処理しなければならない仕事が一番多かったが、わずか3日で処理してしまった。
ユウリも領主だけに、領主にしか決済できない事案が相当量あったが、要領よく5日で終わらせた。
アレンはもともと事務仕事があまり得意ではないのが、根性でなんとか9日で溜まっていた仕事を処理したのだった。
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溜まっていた仕事が一段落した後、ユウリは直轄工房を訪れていた。
「ミア、言いにくいんだけど・・・作ってもらったミスリルの盾、決勝で真っ二つにされてしまったんだ。修理頼めるかな?」
「そうだったんですね・・・」
ミアは、しばらく黙り込んでいたが、やがて拳を握りしめた。
(あ~、怒らせちゃったかな・・・そうだよな~、あれだけの盾を真っ二つだからな)
「わたしの腕が未熟だったんです。ユウリ様、すみませんでした!!」
「えっ?怒ってないの?・・いや正直ヴォルフガング殿の魔法剣を受けたら、どんな盾でも……」
「次は必ずどんな攻撃が来ても、ユウリ様を守れる盾を作ってみせます!!」
「ありがとう、ミア・・・頼りにしてるよ」
ユウリは笑いながら、真っ二つになった盾をミアに渡した。
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大会でのユウリの戦いぶりが噂となって広まるにつれ、タイラー領に腕に覚えのある者たちが、集まってくるようになっていた。
名うての戦士や魔術師が、是非タイラー伯爵に雇ってもらいたいと門を叩いてきた。
優秀な人材の登用は、そのままタイラー領の力となる・・・その中には、見覚えのある顔も混じっていた。
「よう坊や、世話になりに来たぜ。あの無拍子教えてくれたら、格安にしとくから雇ってくれや」
豪快に笑いながら現れたのは準決勝の相手、ザイードだった。
「タイラー伯爵、是非私に多属性魔法の同時展開をご教授ください。給金などいりませんので」
真顔でブラック企業が喜びそうな事を言ったのは、爆炎の魔術師イグナーツだった。
もちろん無給などユウリが許すはずもなく、採用の条件はきちんと給金を受け取ることであった。
こうして、タイラー領は他の領が欲してやまない人材を手に入れることが出来たのだった。
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一方、その頃・・・
コルビン子爵には、静かに破滅の足音が近づいてきていた。
ゲルハルト公爵からの、厳しい追及にコルビンは私怨でタイラー伯爵を貶めるためにゲルハルト公爵の武道大会を利用したことを白状させられた。
この件はゲルハルト公爵によって瞬く間に社交界に広まり、コルビンは社交界から追放されたも同然になった。
「これから、領地の運営はどうすれば……」
その問いに答えるものは誰もいなかった。
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ある夜、ユウリは夢の中で女神に会っていた
いつもの白く光る空間で、銀髪の女神が、胡散臭い程美しい顔に満足そうな笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「いやー、面白かったわ。75点のくせに、楽しませてくれるわ~」
女神は、上機嫌そうにクスクス笑いながら言った。
「あの対消滅魔法、普通は大賢者のスキルがないと意図して使えないんだけど・・・『才無き万能』ならではの使い方だったわね。スマートではなかったけど」
「なんとか形にはなりましたので、ご勘弁を・・・」
「優勝できなくて悔しかった?」
「悔しいというよりは楽しませてもらってます・・・せっかくいただいた2回目の人生とイロモノ超レアスキルですので」
「そう・・・・・それは何より」
女神は、そう言うと悪戯っぽくウインクをよこしながら、消えていった。
ユウリは誰もいない空間に、なんとなくウインクを返してみた。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




