37.決勝戦VS魔法剣士ヴォルフガング、の巻
決勝当日、闘技場の控えの間にはゲルハルト公爵が姿を見せていた。
「タイラー伯爵、正直に言おう。私は、卿のことを色眼鏡で見ていた・・・武を軽んじる口先だけの若造だと。だが卿は、その先入観を実力で覆してみせた。決勝まで勝ち上がってきたこと称賛に値する」
「光栄です」
「決勝は私の知る限り最高の戦士にして、我侯爵家の筆頭騎士でもあるヴォルフガングが相手だ……最高の戦いを期待している」
公爵は、そう言い残すとヴォルフガングの元へと向かった。
「ヴォルフガング――勝て」
全幅の信頼が、その一言に込められていた。
ヴォルフガングも公爵の目を見て頷くだけだった。
________________________________________
決勝の闘技場中央、ユウリとヴォルフガングは、対峙した。
ヴォルフガングは、長身に均整の取れた体形の美丈夫だ。
腰の剣は、既に雷光を纏っている。
「こ決勝までのタイラー伯爵の戦いぶり、見せていただきました。全力でお相手いたします」
「お手合わせいただくこと光栄です。よろしくお願いします」
両者の挨拶が終わり、開始合図と共に決勝戦が開始された。
ヴォルフガングは、開始と同時得意とする雷の魔法剣を次々と繰り出してきた。
「――っ!」
ユウリは、咄嗟に盾に反対属性の土魔法を纏わせた。
風属性である雷の魔法剣の威力を反対属性の土魔法である程度相殺する作戦だ。
威力の相殺には成功したものの、ヴォルフガングの剣技は超一流ですぐに防戦一方に追い込まれた。
(速い……! それに、正確だ)
守勢ながら自らの攻撃をしのぐユウリを前にヴォルフガングは、大きく間合いを取った。
「やりますね、タイラー伯爵。だがこれで終わりです・・・ミョルニル!!」
ヴォルフガングの剣にこれまでとは比較にならない圧倒的な魔力が、集束していく。
雷の上位魔法――ミョルニル・・・凄まじい雷鳴と共にヴォルフガングの剣が、ユウリに振り下ろされた。
ユウリは、土魔法を纏わせた盾で何とか受け止めたが、轟音と共に盾が真っ二つに割れて相殺しきれなかったミョルニルの衝撃がユウリの体を貫いた。
「ぐああっ……!」
ユウリの体はそのまま後方へ吹き飛んで、うつぶせに倒れた。
「勝負ありましたね・・・」
ヴォルフガングは、そう呟くとユウリに背を向けた。
________________________________________
ヴォルフガングが背を向けた直後、倒れ込んだユウリの体を淡い光が包み込んだ。
神聖魔法による治癒――焼けるような痛みが、和らいでいくが完治までは程遠い。
「なに……!? 神聖魔法まで、使えるのか!?」
貴賓席から公爵の驚愕の声が、響いた。
ユウリは、荒い息を吐きながら震える足でなんとか立ち上がった。
だが、その体には、大した力は残っていない、倒れた直後に行使した3つの魔法で魔力もほぼ空だ。
「タイラー伯爵……お見事です。ですが、次の一撃で終わりです」
ヴォルフガングが、振り返り間合いを詰めてくる・・・・その足が止まった。
ヴォルフガングの視線が、ユウリの手にある見慣れぬ無属性魔法を纏った剣に注がれる。
「失礼ですが、その程度の魔法剣では通用しま……馬鹿な……!! イナーニスだと……!?」
対消滅魔法イナーニス・・・伝説の大賢者が、自在に操ったとされる無属性魔法だ。
(やれやれ・・・何とかうまくいったか。俺は何をやっても75点最大出力にすればどの魔法も同威力までしか上がらない・・・だからこそ同威力にあわせるのは魔力を溜める間さえあれば可能だ)
全く隙のないヴォルフガング相手にその溜めの時間を稼ぐことは、容易ではなかった。
だが、ヴォルフガングが、勝負を決めたと確信した後にその間が生じた。
しかもユウリは神聖魔法と風属性の雷魔法、土属性の土魔法を一度に行使した。
ヴォルフガングは、予想しなかった神聖魔法の行使に目を奪われて至近に近づくまで魔法剣に気づかなかった。
しかも、雷の魔法はヴォルフガング自身が行使していたし、土魔法はユウリの盾に直前まで纏わせていたので魔法が行使させたこと自体が感じられにくかったのだ。
(この辺のズルさは、前世を含む人生経験の老獪さってことで・・・苦労したんだ、最後の勝負!)
「ヴォルフガング殿、尋常に!!」
ユウリは、言葉と共に最後の力を振り絞り、ヴォルフガングに向けて剣を振るう。
「――くっ!」
ヴォルフガングもミョルニルを纏わせた魔法剣で、迎え撃った。
2つの剣がぶつかり合う・・・威力だけならヴォルフガングの魔法剣の方が上だったが、対消滅の属性はその威力自体も消滅させた。
ヴォルフガングの剣は魔法の力だけでなく、その剣身もボロボロと消滅していった。
「なんだと!!・・・」
ヴォルフガングは驚愕の声をあげ、次の剣撃に備えるべく盾をあげたが、ユウリの体力も魔力も限界を越えていた。
剣を握ったままユウリの体は、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
________________________________________
「――勝者、ヴォルフガング・シュタイン!」
審判の声が、闘技場に響き渡った。
ヴォルフガングは、柄だけになった剣を見つめながら呆然としていた。
ゲルハルト公爵開催武道大会における最終結果は、優勝ヴォルフガング・シュタイン、準優勝タイラー伯爵、という結果で幕を閉じることになった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




