4.ぼんやり違いの分かる男・・・ユウリ、の巻
ザルツヴェーデ帝国では、15歳をもって成人とされる。
ユウリ・フォン・タイラーも、その例に漏れず、15歳の誕生日を境に,様々な仕事を任されるようになった。
父バロンはまずユウリ自身の側近候補の選定をユウリに行わせた。
「跡取りには、いずれ自分の右腕になる人間が必要だ。ユウリ、お前の目で選んでみなさい」
人を見る目には、多少の自信があった。
前世、職場で便利屋のような立ち位置だったため様々な現場を渡り歩いた経験から、仕事ができる人かどうかは、ある程度の分かると思っていた。
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ユウリの側近の面接は、タイラー伯爵家屋敷の応接間で行われた。
執事のラドフォードが用意した名簿には、10数名の候補者が並んでいた。
近隣の下級貴族の三男坊、腕に覚えのある傭兵崩れ、商家で番頭をしていた男――辺境の貧乏領地に集まったにしては、それなりに多彩な顔ぶれだった。
ユウリは、父の隣に座り、直接言葉を交わしていった。
剣の腕や、書類仕事の経験を尋ね、簡単な計算問題を出してみる。
どの程度仕事が出来そうかはなんとなく分かった・・・それは、前世の経験に基づく勘の延長だ。
最後に入ってきたのは、18歳前後と見える、体格のいい青年だった。
「失礼します。アレン・ハスケルと申します」
飾り気のない簡素な服装だが、姿勢と足運びには、隙のない印象がある。
「元は近隣領の騎士団に籍を置いていましたが、色々あって辞めまして・・・」
「色々、というのは?」
「上司と喧嘩しまして。理不尽な命令を突っぱねたら、まあ、それなりの結果になりました」
「それは……上司が悪かったのか、君が悪かったのか、どっちだろう?」
「両方だと思います」
悪びれもせず、そう答えるアレンに、ユウリは思わず笑ってしまった。
その後も、ユウリは剣の腕、指揮の経験、書類仕事の経験などについて質問した。
アレンの答えは、1つ1つに具体性があり、地に足のついた感じがした。
(悪くない……というより、かなりいいな)
その瞬間、これまで感じたことのない感覚が浮かんだ。
うまく言葉にできないが、ぼんやりと「剣と軍の指揮に関しては自分よりは上」という感触が、じわりと湧き上がってくる。
(なんだ、今の???)
ユウリは、内心で戸惑いながらも、表面上は平静を装って面接を続けた。
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面接が終わり、候補者たちが屋敷を後にした後、ユウリは自室で、先ほどの感覚を思い出していた。
あの「自分よりは上」という感覚は、アレンにだけ働いた。
(もしかして……これがスキルの効果なのか?)
転生するときに女神から告げられた『才無き万能』の説明を、ユウリは記憶の中で思い出してみた。
何やらせても75点になる能力・・・剣術も、魔法も、商売も、料理も――ということは、おそらく人物鑑定も75点なのだろう。
(考えてみれば、今まで「才能があるかどうか」って目で人を見たことがなかったな・・・それにしても、ずいぶん曖昧な感覚だな)
どのくらい自分より優れているのか、はよく分からない。
ただ剣術と軍の指揮に関して「自分より上」という、ぼんやりと手応えがあるだけだった。
(まあ、75点の人物鑑定だから、こんなものか・・・少なくとも75点の俺より上ってのが分かるだけでも随分助かる)
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数日後、正式にアレンの採用が決まった。
「本日から、お世話になります。ユウリ様」
「よろしく、アレン。歳も近いし、そんなに畏まらなくていいよ」
「いえ、一応、公私の区別は付けさせてください」
生真面目にそう答えるアレンに、ユウリは苦笑した。
だが、その生真面目さの中に、どこか気安さも同居しているのが分かった。
早速、ユウリはアレンを伴って、屋敷敷地を歩いた。
屋敷の裏手にある井戸で使用人が、水をくむのに四苦八苦していた。
どうも井戸の桶を引き上げる滑車の調子が悪いようだ。
「ユウリ様、これは早めに滑車の修理の手配をしましょう。町の職人に声をかけておきます」
アレンが、当然のようにそう言った。
「いいよ・・・俺が直せるから」
「は?……ユウリ様が、ですか?」
ユウリは、滑車の軸を確認すると、慣れた手つきで歪みを直し、油を差して、あっという間に動きを滑らかにしてみせた。
アレンは、しばらく、言葉を失ったまま、その手元を見つめていた。
「……今の、何なんですか?」
アレンは、目の前で起きたことを、必死に整理しようとしているような顔だった。
「本で読んだことがあるんだ」
ユウリは、いつもの言い訳を口にしたが、アレンは全く納得していない様子だった。
「ユウリ様、それ、他の皆さんにも同じことを言ってるんですか?」
「……うん」
「それ、皆さん、信じてます?」
「一応、信じてくれてる、ことになってる」
「なってる、って……」
アレンは、額に手を当てて、深いため息をついた。
「俺は、誤魔化しが下手なので、正直に言いますけど・・・絶対おかしいです」
「じゃあ、アレンは、何が本当だと思う?」
「さあ。とりあえず、深く突っ込まないでおきます」
「別に、突っ込んでくれていいよ」
「……本当にいいんですか? 俺、遠慮できない性分ですけど」
「薄気味悪そうに見られるより、正面から言われた方が、スッキリするよ」
「じゃあ、遠慮なく……」
その日以降、タイラー領内で「できるよ」「なんでできるんですか」と言いあう主従が、頻繁に見かけられるようになった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




