35.準決勝VS「異国のチャンピオン」ザイード、の巻
準決勝当日、貴賓席でゲルハルト公爵は、腕を組んで闘技場を見下ろしていた。
「タイラー伯爵、準決勝まで勝ち進むとはやるではないか」
そう呟きながらも口元には、余裕の笑みを浮かべていた。
「だが……ザイード相手に小細工は、通じまいよ。ヴォルフガングですら剣のみで挑めば勝てるかどうか分からんからな」
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「ユウリ様、昨日のあれで何とかなりそうですね」
アレンが、緊張した面持ちで声をかけてきた。
「うーん……どうかな。そもそも使う態勢に入るのが難しいからね」
「たしかに、でも俺は行けると思いますよ・・・何度見ても俺では防げませんでしたし」
「アレンのお墨付きももらったし、頑張ってみるかな」
ユウリは闘技場へと向かった。
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闘技場の中央で対峙したザイードは、30才前後の堂々たる体躯の戦士だった。
褐色の精悍な顔に快活な笑みを浮かべている。
「よう、噂の坊や今日は楽しみにして来たぜ」
ザイードが屈託のない声で言った。
「せっかくだ、いい戦いにしよう」
「ザイード殿の胸を借りるつもりで戦います。よろしくお願いします」
開始の合図と共に準決勝が始まった。
ユウリは、様子を見るように間合いをとった。
対するザイードは、余裕を崩さぬままその動きを観察している。
ユウリが仕掛けるが、ザイードはシミターで軽くユウリの剣を受け流す。
(年のわりにはなかなかの腕だな・・・)
年齢を考慮すれば、ユウリの剣術は大したものだ・・・十分一人前と言っていい。
(だが……この先、まだまだ伸びる、ってタイプの剣筋でもねえな)
ある程度完成されてはいるが、更に先に伸びていくようなものが感じられない・・・長年の経験がそう告げていた。
(なんだ・・・イグナーツを破ったっていうから期待しすぎちまったかな?)
ザイードは内心でそう思いながら攻勢を一気に強めた。
重く早い剣撃をなんとか一合、二合とかろうじてしのいだ。
ユウリは、三合目を待たず慌てて、大きく間合いを開けた。
ザイードは様子を見るようにあえて追わなかった。
その僅かな隙に、ユウリの両手から複数の光が迸った。
ザイードを囲むように火・水・土・風――4属性の魔法が同時に襲いかかった。
「……なんだと!?」
ザイードの目に初めて驚きの色が浮かんだ・・・4属性を同時に発動できる魔術師など、そうお目にかかれるものではない。
「こいつはたまげた――が、威力は大したことねえな」
ザイードは、冷静に見極めると迫りくる魔法の数々を次々とかわしたり、シミターで弾き返していった。
四方から迫る攻撃を捌くその身のこなしは、やはり並みの戦士ではなかった。
だが――その一瞬の意識の分散こそが、ユウリが欲しかったものだった。
ザイードが、魔法を捌くことに集中した瞬間、ユウリはザイードの死角に入り暗殺者の様に気配を消した。
「――!?」
ザイードが、異変に気づいた時既に、ユウリは必殺の間合い――互いに一撃で勝負が決する距離に入っていた。
だが、ユウリは剣を下げたままの自然体で立っている。
(――なんだ?)
ザイードは困惑した・・・必殺の間合いにもかかわらず、目の前の若者は全くの自然体で次に繰り出す技がまるで読めない。
これまで、無数の死線をくぐり抜けてきたザイードの経験が、警鐘を鳴らしていたが、構えのない相手から次の動きを読み取ることは経験に裏打ちされた予測の技術をもってしても出来なかった。
「坊や、もらったぜ!!」
ザイードが仕掛けた瞬間、ユウリの剣が振りかぶって隙ができたザイードの肩を薙いだ・・・その攻撃は予備動作を排した拍子のない一撃だった。
相手の動きを予測し、後の先を取ることに長けたザイードが、先制の攻撃をしたところに、予測が極めて困難な無拍子の一撃を併せたのだ。
先に攻撃を繰り出した分、ユウリの剣を受ける動作が出来なかった。
「ぐっ――」
ユウリの剣先はザイードの肩口を深く切り裂いたき、ザイードは、そのまま崩れ落ちた。
「――勝者、タイラー伯爵!」
審判の声が、闘技場に響き渡る。
担架を持った係員たちが駆け寄り、ザイードを医務室へと運んでいった。
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医務室の寝台で治療を受けたザイードは目を覚ました。
治癒魔法のおかげで傷はふさがっている。
肩を軽く動かし具合を確かめていたザイードは、見舞いに訪れていたユウリの姿に気がついた。
「坊や――ありゃあ、なんだ?初めて見たぜ・・・構えも、溜めもねえ、それなのに気づいたら剣が肩を切り裂いていた。長いこと色んな相手と戦ってきたがあんな経験は初めてだ」
「無拍子といって……予備動作なくすことで、相手に攻撃の予測をさせない技術です」
「無拍子、ねぇ・・・面白い。俺の知らない戦技がまだまだあるとは・・・世界は広いな!」
ザイードは、そう言って豪快に笑った。
その顔には、負けた悔しさよりも新しい戦技を知った純粋な嬉しさが浮かんでいた。
「明日は、決勝、だったな」
「はい」
「相手は多分ヴォルフガングだろうな……あいつは、強いぞ」
「ザイードさんほどの戦士でもそう思いますか・・・」
「まあ剣だけなら負けんがね・・・あいつの魔法剣は厄介だ。まあ、防や俺に勝ったんだから、頑張って優勝してくれや」
ザイードは、そう言うと手を振って医務室を出ていった。
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こうして、若き伯爵は決勝へと駒を進めることになった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
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