32.一回戦VS弓騎士セシル、の巻
「ふふ……これは随分いいトーナメント表だな」
貴族席のコルビン子爵は、配布されたトーナメント表を眺めながら、ほくそ笑んだ。
セシル、イグナーツ、ザイード、ヴォルフガング――ユウリが優勝するには優勝候補を全員倒す必要がある。
(これなら万が一にも優勝することはなかろう。一回戦の弓騎士セシルは一騎当千の強者と聞く・・・無様に負けて、公衆の面前で恥をさらすがいい)
コルビンは、内心で毒づきながら闘技場に視線を向けた。
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闘技場は、五十メートル四方を円形の観客席に幾重にも囲まれている。
ユウリは今その中央に立っていた。
ユウリは、ミア特製のミスリルの剣・胸当て・盾・ガントレットといった機動力重視の装備だ。
ガントレットには魔法を補助するための魔晶石が埋め込まれている。
「お初にお目にかかります。セシル・ウィンダムと申します」
対戦相手のセシルが優雅に一礼した。
姿絵で見た通りの中性的な美青年だった。
栗色の髪に、同じ色の瞳、その長身は細身ながら歴戦の騎士らしく引き締まっていた。
(美形で物腰も柔らかい、おまけに戦士としての実力は折り紙付き……さぞかしモテるんだろうな)
ユウリは、場違いにもそんなことを思っていた。
「よろしくお願いします」
「タイラー伯爵、手加減はいたしません。良い試合にしましょう」
(うーん、悪意のないさわやかな人だな・・・)
「ありがとうございます。胸を借りるつもりで挑ませてもらいます」
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開始の合図が鳴り、一回戦が始まった。
開始と同時にセシルは大きく間合いを取り、弓を構えて矢をつがえる。
距離を取って射撃で仕留める――弓騎士としての定石の戦い方だ。
風を切る音と共に最初の矢が放たれた。
「――っ!」
ユウリは、盾で矢を弾いた。
凄まじい衝突音と共に、矢は弾き返され、強い衝撃が腕に響いた。
(狙いの正確さといい、矢の威力といい、評判通りの腕前だね……)
放たれた矢は恐ろしいまでの精度で急所めがけて飛んできた。
盾越しに伝わってきた衝撃の重さから威力も尋常ではない。
(いや~……普通の盾なら貫かれてたかな)
ミアが打った、ミスリル製の盾は軽さと抜群の防御力を兼ね備えているからこそ、ユウリ程度の腕前でなんとか矢を弾けているのだ。
セシルは一射目が交わされても、あわてず二射、三射と変わらない正確さで矢を放ってくる。
盾で防ぎつつ間合いを詰めようとしてみるが、当然のようにセシルは距離を詰めさせない様に足元を狙って矢を放ち、自分の得意の距離を確保していく。
(うーん……このままじゃあジリ貧だな)
このままは防戦一方でいずれ、体力と集中力が尽きて負けるだろう。
(ここまでは想定通り・・・アレンとの訓練が役に立つかな?)
次の瞬間、ユウリは盾と剣を投げ捨てて、セシルに向かってまっすぐ走り出した。
「――!?」
セシルの目にわずかに動揺が走る。
「やぶれかぶれか?・・・これで終わりだ」
セシルは、冷静に狙いを定めて矢を放った。
しかし、不自然な軌道で狙いから外れていく。
「バカな!!なぜ、それる」
セシルは、当たるはずの矢がそれることに動揺しながらも、二射、三射と矢を放つ。
しかし、どの矢も不自然な軌道を描き、狙いを外れていく。
セシルの目にユウリのガントレットが淡く光っているのが映った。
「な――!? 風魔法か……!!」
ユウリはセシルとの対戦を想定して、アレンと風魔法で矢をそらす訓練を前もって行っていたのだ。
目前までせまってくるユウリにセシルは再度矢を放ったが、風魔法に阻まれて狙いを逸らされユウリの肩をわずかにかすめた。
さすがに距離が近かったせいか、完全にはそらせなかったが、ほんのかすり傷で済んだ。
次の瞬間ユウリは、間合いをゼロにまで詰め切っていた。
弓兵にとって忌避すべき距離――ゼロ距離の間合いだった。
「くっ……!」
距離を詰められたセシルの反応は速く、弓を手放し腰のダガーを抜いた。
「セシル殿、この間合いなら俺の方に分があるかな?」
次の瞬間、ユウリのガントレットをまとった右の拳が、セシルの鎧でおおわれていない腹部を抉った。
「がっ――」
セシルの体が、苦鳴とともにその場に崩れ落ちる。
「――勝者、タイラー伯爵!」
審判の勝者の宣言がされると、どよめきと拍手が、観客席から湧き上がった。
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「馬鹿な……弓騎士セシルが、負けただと……」
貴族席の片隅でコルビンは、その光景を呆然と見つめていた。
闘技場では、ユウリが崩れ落ちたセシルに手を差し伸べていた。
「大丈夫ですか?セシル殿・・・」
「大丈夫です。まさか、風魔法で矢の軌道をそらされるとは……それに間合いを詰めてからの格闘術、見事でした」
「いえ、セシル殿の弓の腕前は噂通りすごかったですよ。俺の盾がミスリル製でなければ、一射目で勝負はついていたでしょう」
「ご謙遜を、ほとんど詠唱なく風魔法をつかわれていた・・・多才でらっしゃる」
「多才というより器用貧乏ですけどね・・・でも、褒めていただき、ありがとうございます」
ユウリとセシルは握手を交わした。
(ふ~っ・・・一回戦突破できたか。武を示せって、これぐらいで勘弁してくれないかな?)
だが、勝った以上次の試合が待っている・・・順当に勝ち上がってくれば二回戦のあいては、爆炎の魔術師――イグナーツ・ブランドだった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
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