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28.武道大会への招待、の巻

「タイラーの小僧め……あの屈辱、一日たりとも忘れたことはないわ」

 コルビン子爵は屋敷の一室で一人呪詛を吐いた。

 隣の貧乏伯爵の小僧を手玉に取ってやるつもりで策を弄し、結果自分が大損をしたのは、はたから見れば自業自得だが、コルビンの自尊心をひどく傷つけた。

(今となっては小僧の領地は金の面ではどうにもできそうもない、だが……)

 コルビンの脳裏に、1つの考えが浮かんだ。

(あの小僧、文官の才はあるのかもしれんが、武の方はどうかな?)


 ________________________________________


 タイラー領のあるザルツヴェーデ帝国東地区の有力貴族、ゲルハルト公爵は、武術好きとして知られていた。

 数年に一度、公爵家主催で開かれる武道大会は、帝国内でも有数の武術大会だ。

 開催される際には、腕に覚えのある騎士・戦士・魔導士が公爵領に集まってくる。

 今年は武術大会開催の年で、コルビンはゲルハルト公爵を訪ねて進言した。

「コルビン子爵、何用かな?」

「実はゲルハルト閣下に、ぜひ聞いていただきたいことが」

「・・・なにかな?」

「我領の隣なあるタイラー領の新しい領主の話です」

 そう前置きすると、言葉を選びながら慎重に話を進めた。

「タイラー伯爵は内政や財政などの文には熱心ですが……いささか、武を軽んじる節が見受けられまして・・・」

「ほう・・・それは帝国貴族にあるまじき態度であるな」

「はい、なんでみ剣を握ったこともない・・・そんな噂も耳にしております。金の力と口先で周囲丸め込んでいる噂もチラホラと・・・」

 コルビンは、あえて噂という形でゲルハルト公爵に事実とはかけ離れたことを吹き込んでいく。

「定位国貴族として、タイラー伯爵のような武を軽んじる風潮がまかり通るようであれば……いささか、示しがつかないのではないかと愚行いたしました」

 ゲルハルト公爵家はザルツヴェーデ帝国においても有数の武門の家柄である。

 金と知恵だけで成り上がった若造が帝国内で幅をきかしている――そんな話を聞きけば当然面白くない。

「ふむ……それは由々しき話だな」

「僭越ながら、タイラー伯爵をこの度の武道大会に招待されてはどうでしょうか?武を重んじる帝国東部の矜持をぜひ示していただければ・・・」

「軟弱な若造を懲らしめてやるべきだ、と言いたいのだな」

「滅相もございません。ただ、公爵閣下のご威光で帝国貴族のあるべき姿をお示しいただければ、と」

 コルビンは、恭しく頭を下げながらほくそ笑んでいた。

(あの小僧もゲルハルト公爵の招待であれば断れまい・・・大勢の前で大恥をかけばよいのだ)


 ________________________________________


「武道大会への招待……?」

 領主間の執務室で、ゲルハルト公爵からの武道大会招待状を見ながら、ユウリは首を傾げた。

「ゲルハルト公爵家主催の武道大会ですか?あの帝国中から強者が集まるという・・・」

 アレンが、横から、書状を覗き込みながら、そう尋ねた。

「ゲルハルト公爵は、帝国内でも有数の有力者です。直々のご招待を断ると何かと面倒でしょうね・・・全く面倒な」

 サイラスが、しかめ面で言った。

「それにしてもなんで俺に招待状が来たんだろう?」

(なんとなく、嫌な予感がするな……)

「ゲルハルト公爵主催武道大会と言えば、帝国中の腕に覚えのある騎士・魔法使い、戦士が参加する大会ですよね・・・俺もいつかは腕を磨いて参加してみたいと思ってたんですが、特に武名のあるわけでもないユウリ様が招待させるのは確かに解せませんね」

「アレンもそう思うだろう?まあ、正式な招待だから、出るけどさ・・・」

 ユウリは、ため息をつきながら招待状をしまった。


 ________________________________________


「アレン、悪いけど手合わせしてもらえるか」

「もちろんです。さっそく稽古ですか?」

「うーん、稽古というより……確認かな」

 何をしても最初から75点・・・ただし、どれだけ実戦を積んでも、どれだけ稽古を重ねても75点から変化しない・・・それがユウリのスキル『才無き万能』の特性だ。

 領主館の鍛錬場で、2人は木剣を手に向かい合った。

 互いに礼をし、手合わせは始まった・・・ユウリの太刀筋は、危なげなく無駄がないが、数合剣打ち合う内に次第にアレンが押し始めた。

 更に数合打ち合うと、ユウリの手から剣が弾き飛ばされた。

 アレンの木剣の切っ先が、ユウリの喉元で止められた。

「参った。アレン前よりさらに腕をあげたね・・・」

「ありがとうございます・・・おそれながら、ユウリ様の剣術は十分一人前の腕前です……が、初めて手合わせした時から変わってない気がします」

「……やっぱり、そうだよね~」

(剣の腕前は上げれないんだから、なにか考えないとな・・・)

 ユウリは、木剣を手に思いを巡らせた。



拙い文章、読んでいただきありがとうございます。


多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。


お手数とは存じますが、ご評価いただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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