27.可憐なエルフ酒造家、の巻
ある日、領主館の門前に1人の女性が現れた。
透き通るような銀髪、秀麗な目鼻立ち、なにより、尖った耳・・・エルフの女性だった。
「タイラー伯爵にお目通り願いたいの」
「失礼ですが、どのようなご用件でしょうか?」
応対した門番が、困惑気味に尋ねた。
「エルフのリディアです。タイラー領で新しいお酒を造ったらしいと噂を聞いて来たの・・・わたしもちょっとお酒造りをするのよ」
リディアは、そう名乗ると機嫌よさそうに笑った。
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報告を受けたユウリは会ってみることにした。
「お初にお目にかかります、タイラー伯爵。とてもおいしいお酒を新たに作られたという噂を聞いてまいりました」
「まだ世間には出回ってないはずなのに、そんな噂が流れてるのかい?」
1回目の醸造は、試験的な仕込みで外部へは出していない。
にもかかわらず、噂を聞いたとは前世のネット社会ならともかく、この世界では不可解としか言いようがない。
「『蛇の道は蛇』って言うでしょう? それと同じで『酒の話はリディア』ってことよ。エールとは違う革新的なお酒が出来たって噂すぐに入ってきたわ。酒好きの間では以外に広まってるわよ」
・・・酒好きの情報網は侮れないらしい。
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「わたしも酒造家なのよ・・・一般的には酒造りいえばドワーフを連想する人が多いと思うけど、わたしも一応その世界ではそれなりに有名人なのよ」
リディアは、胸を張って言った。
「ドワーフをしのぐ腕を持つエルフの酒造家・・・聞いたことある。信憑性のないただの噂だと思ってた」
「へえー、アレン、知ってるんだ」
改めて、リディアを見てみる。
(エルフ特有の中性的で秀麗な容姿に少々上気した頬・・・飲んでるのか?いい感じはするな・・・)
醸造の能力は自分より高いと判断できそうだった。
ユウリが造るかぎりタイラー製ビールはこれ以上美味くはならない。
昼間からほろ酔いなのが若干、気にはなったがとりあえず勧誘してみることにした。
「よかったら、我領の直轄醸造所で働いてみないかい?」
「あら、話が早いのね。どうやって雇ってもらおうかと考えてきたんだけど、いい方向でムダになったわね」
こうした、即決でリディアはタイラー領の醸造所で働くことになった。
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「まずは、仕込みの工程を見せてもらえるかしら」
醸造所の中に入るとリディアの様子が変わった。
頼りない足取りはなくなり、背筋の伸びた鋭い眼差しの美しい女性が立っていた。
醸造の器材や道具を1つ1つ丁寧に見分し、醸造所の職員から工程を聞き取りし始めた。
きびきびとした所作には先ほどまでの、緩んだ雰囲気は微塵もなかった。
「麦芽をもう少し乾燥させて、ホップ投入するタイミングを少し早めた方がいいかな・・・」
真剣な眼差しで樽の温度を確かめ、麦芽の匂いを嗅ぎ、醸造工程の改良案を出していた。
「この指示に従って醸造をしてみてもらえるかしら?多分今よりおいしくなると思うわよ」
リディアは凛とした口調で言った。
「・・・よし、さっそくリディアの指示を踏まえて、2回目の仕込みをやってみよう」
ユウリが指示を出し、リディアの指揮で2回目の醸造が始められることになった。
醸造を始めてからリディアは、毎日醸造所で樽の様子を確認した。
その表情は真剣そのもので、普段のぼんやりした雰囲気は微塵もなかった。
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・・・1ヶ月後
「そろそろ、頃合いね」
2回目の醸造が終わり、冷蔵魔道具で冷やした後、試飲をすることとなった。
一口飲んでみて、明らかに味、のどごし、切れ全てが1回目の醸造のビールを上回った。
「まあまあの出来かしら・・・次はもっと美味しく仕込まないとね」
試飲を終えたリディアは満足げな顔で言った。
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試飲後、ユウリは前世の記憶にある様々な酒の話を本で読んだ知識としてリディアに語ることになった。
「本で読んだことがあるんだけど、遠い異国には麦だけじゃなく、米やトウモロコシ、サボテンなんかで造る酒があるらしいんだ」
「まあ……! わたしの知らないお酒がそんなに……世界はまだまだ広いわ!」
「それに、蒸留っていう技術を使うと、アルコールの強い酒も造れるらしいよ」
「蒸留……! それは、どういう技術なのかしら!?」
リディアは、うっとりとした表情で話に聞き入っていった。
まるで極上の美酒に酔いしれているかのような、陶然とした様子だった。
「ねえ、ユウリ・・・報酬はいらないから、ここでずっと酒造りをさせて欲しいの」
「報酬は払うよ・・・じゃないといろんなお酒飲めないだろ?」
ユウリは、苦笑しながら答えた。
「確かにそうね!!・・・ユウリ大好きよ」
「リディアが美味しい酒を造ってくれたら、我領の特産品として売り出すんだからギブアンドテイクさ。ビールが順調に売れれば別の酒用の酒造所も考えるから頑張ってくれ」
「もちろんよ・・・あぁ、楽しみだわ」
タイラー領に酒造りエルフという変わり種が仲間入りすることとなった。
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リディアがタイラー領で酒造を始めたという噂は、思いのほか早く酒造りの世界に広まっていった。
その噂を聞きつけて、すぐに行動に移したのはドワーフたちだった。
酒造りを本業とするドワーフの職人たちが、すぐに姿を見せるようになった。
彼らもタイラー領の直轄酒造所で働くようになり、リディアの造る繊細な味と香りのビールとはまた違った、どっしりとした味わいのビールを醸造するようになった。
「これは、わたしには出せない味ね・・・ドワーフの酒造の歴史を感じるわ」
「うれしいことを言ってくれるな・・・嬢ちゃんのビールも格別の味じゃ!」
酒好きは種族の垣根を越えて通ずるものがあるようだ。
こうしてタイラー領の醸造所は、エルフとドワーフと人間が切磋琢磨する賑やかな場所へと姿を変えた。
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