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23.帝都の切れ者、視察にきたる、の巻

 新しい合金のおかげもあり、着工から3か月程で、新しい領主館は完成した。

 伝統的な石造りの重厚な様式に則りながらも、部屋の配置や採光方法には、これまでのどの建物にもない合理的な機能美があった。

廊下の動線、部屋同士のつながり、執務エリアと生活エリアの区分けは、機能性を追求した、前衛的なものだった。

それでいて、全体雰囲気としては違和感なく周りの建物と調和している。

「うーん・・・見事なものですね」

 完成した館を見上げながら、アレンが誰言うともなく言った。

「せっかくだから、お披露目の場を設けようと思うんだよ」

 新領主館の落成披露は、ユウリの提案で近隣領地の貴族や関係者を招いて、ささやかな式典として執り行われることになった。


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新しい領主館が落成して1ヶ月後、落成披露式典は開催された。 

招待客の中に、帝都の宮廷書記官、ドレイク男爵もいた。

「タイラー伯爵、お招きいただき、ありがとうございます」

「わざわざ、帝都から足を運んでいただき、ありがとうございます」

「いえ、タイラー領の噂は、帝都でもよく耳にしております。ぜひ、この目で拝見したいと思いまして・・・」

 ドレイクは、如才なく答えたが、彼がここに来た理由は、それだけではなかった。

(皇帝陛下が、いたくタイラー伯爵をお気に召されていたから、情報を収集するいい機会ですしね)

 舞踏会の夜、ザルツヴェーデ帝国皇帝オットーが、ユウリに少なからず興味を抱いたことをドレイクは、よく知っていた。

「面白い小僧だ」と言った時の皇帝の表情は、あまり見せることのない楽しげなものだった。

ドレイク男爵としては、皇帝の興味の対象であるタイラー伯爵のことが少しでも分かればと思い、式典へやってきたのだった。


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 ドレイクは領主館の内部を案内された。

「部屋の配置が今までにない合理的な作りですね。革新的なつくりなのに、どこか伝統を感じさせられるところがある・・・」

「ええ、他の建物から浮いてしまわない様に工夫したんですよ」

「窓の位置も、面白い・・・採光を確保しながら、防衛上の観点からも計算されている。それでいて美しい配置だ」

 ドレイクは、感心しながらあちこちに視線を巡らせていた。

 天井近くの黒みがかった金属の骨組みに目をとめた。

「あれは、あえて骨組みをみせているのですか?」

「さすがドレイク男爵、お目が高い!この度、我領の直轄工房で新しく作られた合金を補強材に使ってるんですよ。見た目もいいので、あえて見せる骨組みとして再設計したんです」

「ほう・・・確かに美しい色合いですな。どういった合金なのですか?」

 合金の特性――剛と柔を兼ね備え、地震や強風に強い構造を実現していることを、簡単に説明した。

「あと、新しい合金って呼びにくいので『ミスチール』と名付けてみました」

「『ミスチール』・・・画期的な建築材ですな。他への供給をお考えで?」

「ええ、ミスリルのインゴット、魔晶石に次ぐ財源となってくれることに期待してます」

「価格にもよりますが、当たりそうですな・・・タイラー伯爵が開発されたんですか?」

「いえ、先日就任した直轄工房の工房長が開発したんですよ。若い女性ながら、皆が信頼する鍛冶師です」

 ドレイクは、その説明に目を細めた。

「若い女性が工房長を……鍛冶師の世界では異例のことですな」

「我領では、実力と実績で評価しているので彼女以外には考えられませんよ」


________________________________________


 館の見学を終えた後、ドレイクは町へと視察の範囲を広げた。

辺境の街にしては治安がよく、領民達にも活気があることに気づいた。

領主館にもどり、ユウリにそのことについて質問した所、独自の治安維持方法を用いているという説明を受けた。

帝都でも治安維持の問題は常にあり、タイラー領のシステムに興味がわき詳しく説明を受けることにした。


 騎士長のアレンから、対人、対モンスターでの治安対策を区分していること、犯罪に対して常習性を記録する仕組み、衛兵たちの昇進や配置の基準について説明をうけた。

「なるほど、対人・対モンスターで組織を分けているのは帝都でも行っています。犯罪の常習性を記録しておくのは確かに有効的ですね・・・あと、褒賞と処分の基準は、どのように決められてるのですか?」

「功績があれば、きちんと報い、不正や怠慢があれば、階級に関係なく相応の処分を下します。隊長だろうと、新人だろうと、基準は同じです」

「評価は、どなたがされるのですか? 隊長が部下を評価する形ですと、どうしても偏りがでてしまうと思いますけど」

「評価は1人の判断に任せていません。直属の上官だけでなく、他の詰所の隊長や、文官からの聞き取りも合わせて、複数の目で評価する仕組みになっています。もし正当な理由なく、部下を不当に低く評価したり、逆に身内をひいきして高く評価したりすれば、その上官自身の評価が下がる仕組みになっています」

「評価するものも評価されているということですか・・・」

(これなら、私情で部下を追い落とすことも、身内を不当に引き立てることも、容易にはできない。評価する側も、緊張感が働く仕組みだな。信賞必罰が、徹底されている……単に厳しいだけではなく功績には、きちんと報いる。そのため皆が自発的に規則を守ろうとする訳か・・・)

帝都の治安は高い水準で維持されているが、役人の登用には縁故が幅を利かせている。能力より、家柄や人脈が優先される傾向にある。上官の好悪で評価が左右されることも珍しくない。

(タイラー領の仕組みは、能力に応じて適材適所に人材を配置している。結果を出せば正当に報われる。しかも、その評価自体が公正であるよう複数の評価者がいる。……組織の士気も上がるわけだ)

 ドレイクは、それとなく町を歩き領民の声を実際に聞いて回ってみた。

「以前より安心して暮らせるようになりましたね」「衛兵さんたちも、真面目に見回ってくれてるし、頼りになります。領主様が変わってから一層安全になった気がします」――そんな声が、自然に聞こえてきた。

(治安の向上が、領主への支持に直結している。普通は代替わりしたら何かしら不満が出るものだが・・・)

ドレイク自身、男爵と言う爵位の低さ故、長年身分や縁故問題に悩まされてきた。

だからこそ、タイラー領の仕組みの有用性がすぐに理解できたのだ。

(功績と処分を、身分に関係なく徹底する信賞必罰と実力のみによる人材登用、その結果が領民の領主への信頼につながっている……帝都にこのシステムをそのまま持ち込めば、大きな軋轢を生むだろうが……陛下に報告し提案してみる価値はある)


________________________________________


 帝都に戻ったドレイクは、皇帝オットー・フランツ・フォン・ラヴァンの元へと向かった。

「ドレイク、お前の目から見てタイラー領の様子はどうであった?」

「・・・独創的であり、効率的sで公平性が保たれた貴族の領地としては特異な印象です」

 機能美をと伝統が調和した新領主館、剛柔を兼ね備えた新しく開発されたミスリル合金、治安維持組織の仕組みについて報告した。

「領主館は、新しい建築の様式と言っても過言がない程洗練された建物でした。新しく開発されたミスリルの合金『ミスチール』は建材として新たな財源となるでしょう。しかしながら、私が一番斬新だと感じたのは治安維持の組織構造です。実力主義、信賞必罰が末端の衛兵にまで、徹底されておりました。帝都では家柄が重要視され上司の評価も忖度したものとなっております」

「能力のある爵位の低いものが昇進しにくいか・・・ドレイクよ、おまえ自身そうであったな」

「・・・さらに治安の向上が領民の当主への支持につながっておりました。直接見聞きした領民からは、当主への率直な信頼と感謝が感じられました」

「面白い小僧だと思っていたが……」

「陛下、私から一つ、ご提案がございます」

「なんだ?」

「タイラー伯爵に帝都へお越しいただき、治安維持組織の仕組みについて、ご説明いただく機会を設けてはいかがでしょうか?信賞必罰の徹底や、複数による評価方法――一部でも帝都の衛兵組織に取り入れることができれば、随分と風通しが良くなるかと存じます」

 ドレイクの言葉に、皇帝は、僅かに、口の端を持ち上げた。

「・・・面白いな。門閥貴族どもの反発はあるだろうが、小僧がどう対処するかも面白そうだな・・・

よかろう、手配せよ」

こうしてタイラー伯爵は、帝都へ招聘されることが決まったのであった。


拙い文章、読んでいただきありがとうございます。


多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。


お手数とは存じますが、ご評価いただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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