19.王城舞踏会とバルコニーで会った妙な男、の巻
王城の大広間は、絢爛豪華な華やかさと品位が同居する特異な空間だった。
「タイラー伯爵、ご入場です」
入場の際に名を告げられた瞬間、周囲の視線が一斉にこちらへと集まるのが分かった。
「あれが、噂のタイラー伯爵か……ずいぶん若いな」
「最近、よく話題になってる方ですね」
ざわめきとともに、ユウリたちは、大広間へと足を踏み入れた。
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歓談の時間は、思っていたより慌ただしいものになった。
「お初にお目にかかります、リッテンハイム子爵と申します。以後お見知りおきを・・」
「タイラー伯爵、そのブローチもしかしてミスリル製ですか?見事なものですな、ぜひ我領ともお取引をご検討下さい」
と友好的に商談の話しかけてくる貴族もいれば
「辺境の成金風情が、随分と、幅を利かせるようになったものだ」
「なんだ、とりたてて特徴のない小僧ではないか・・・」
とあからさまに、皮肉を投げかけてくる貴族もいた。
好悪入り混じる視線の中、努めて穏やかに対応する。
(適度に相槌を打って、深入りせず、かつ失礼にならない様に対応しとくか・・・)
前世で培った処世術で、皮肉には言い返さず軽く受け流し、好意的な相手には、がっつかないように丁重に応じる。
それとなく、ミスリルや魔晶石の商談もチラつかせておく。
「タイラー領で採掘が始まったという魔晶石、うちの宮廷魔導院にも回して下さらんか?」
「ええ、前向きに検討いたします。なにぶん採掘がはじまったばかりですので、流通させるまでもう少々時間がかかりますので」
ユウリが対応する傍らに、サイラスはが何気なく控えている。
「サイラス、もしかして今までの会話覚えてる?」
「ええ、どなたが、どのようなことをお望みか程度は・・・あと、我領に敵意のありそうな方の名前は覚えました」
「相変わらず、抜け目ないね」
「面倒だからこそ、一度で済ませたいので」
その様子に、傍らのアレンが苦笑した。
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歓談の時間が終わり、楽団の演奏とともに舞踏の時間となった。
「タイラー伯爵、よろしければ、一曲お相手いただけませんか?オッペンハイマー侯爵家のシュザンナと申します」
声をかけてきたのは、切れ者と噂される令嬢だった。
「タイラー領のご発展のお噂よく耳にします。それだけの成果を伯爵おひとりで?」
「いえ、我領には優れた人材がおりますので、彼らの力あってこそです」
「まあ、謙虚でいらっしゃる」
ステップを踏み外すことなく、無難にこなした。
「タイラー伯爵、お上手ですのね」
「いえ、シュザンナ様こそ華麗なステップ、素晴らしいです」
アレンは、貴婦人を相手に四苦八苦していた。
「騎士長殿、踊りは苦手なんですの?よろしければリードいたしますわよ」
「い、いえ、その……よろしくお願いします」
剣を握れば頼もしいはずの武人が、ダンスの場では貴婦人にすっかり気圧されている。
それでも特訓の成果か、なんとか1曲乗り切っていた。
一方、サイラスは、物静かな令嬢と危なげなく踊っていた。
「中書令様、落ち着いていらっしゃいますのね」
「まあ、慌てたところで無駄ですしね・・・それにせっかく魅力的な方にお相手いただいておりますので、虚勢を張ってます」
「まあ・・・面白い方」
三者三様に舞踏をこなし、夜は更けていった。
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舞踏も一段落し、ユウリは人込みから逃れるようにバルコニーへ向かった。
「よう、お前さんも人込みから逃げてきたのか?」
声をかけてきたのは、壮年の背の高い男だった。
必要以上に華美ではないが品のいい良質な衣服を身に着けているが、どこか飄々とした佇まいの貴族らしい気取りが感じられない人だった。
「これは失礼いたします。先客がいらっしゃるとは存じませんで・・・」
「かまわんよ。私も鼻持ちならない輩が多いところは、苦手でな」
男性は、笑いながら答えた。
「お前さんが、噂のタイラー伯爵か?」
「私のことを、ご存じでらっしゃる?」
「宮廷で噂になってるよ。辺境の貧乏領地を数年で建て直した若い当主だと・・・どんな魔法を使ったんだい?」
「特別なことはしていませんよ。できることを順番にやってきただけです」
「ふむ・・・」
男性は、興味深そうに相槌を打った。
「最初は、私自身が直接色々とやってたんですが、幸い私よりも才能のある人材が見つかりましたので任せるようにしています。なにか問題があったときは私が責任をとるので、思い切ってがんばってくれと発破はかけてますが・・・」
「ほう・・・それは、なかなかできることじゃないぞ」
「そうでしょうか?私にとってはごく当たり前のことに思えるのですが」
「いやいや、そもそもある程度才能のあるやつは、自分よりできるやつを認めたがらないやつが多い。そりえに何かあったとき責任全て担う心構えはなかなかできんよ・・・若いのに大したもんだな」
そう言いながら、どこか遠くを見るような目をした。
「そう言っていただけると、光栄です」
「その調子で励むことだな」
男性は、そう言い残すと軽く手を上げて去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、ユウリは『つかみどころのない不思議な感じのする人物だったな』と内心で首を傾げた。
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――バルコニーでユウリが会った男性貴族は、ザルツヴェーデ帝国の頂点に立つ『皇帝オットー・フランツ・フォン・ラヴァン』その人だった。
お忍びで舞踏会の様子を眺めるのが、彼の数少ない道楽の一つだ。
「・・・ドレイク男爵、お前とはまた違った逸材かもしれんな」
皇帝は、そばに控えるドレイク男爵を見ながら話しかけた。
「本人の才能もそれなりにあるようだが、他人の才を認める度量と、有事の際に自分が責任を取ると言い切った覚悟は、ある意味貴族の模範と言えるだろう」
「陛下、タイラー伯爵をお気に召したようですな」
「ああ、なにか動きがあったら報告してくれ。なかなか面白い小僧だ・・・」
皇帝は、そう言って静かに笑った。
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舞踏会の翌日、タイラー伯爵家一行は領地への帰路についた。
「アレン、収穫はあったかい?」
「近隣領地の騎士団長と懇意になり、今度、合同で演習をしないかと誘われました」
「うちの騎士達は集団戦の経験がないからいい機会だね・・・それはそうと、舞踏会で踊ってた貴婦人がアレンをいたく気に入ってたけど・・・」
「えっ・・・・確かに大変きれいな方でしたが、もうああいった場はこりごりですよ」
アレンはそう言いながら苦笑した。
「サイラスは何かあったかい?」
「今後取引先になりそうな近隣のご領主と、我領の害になりそうな方をピックアップ出来ました」
「あの喧騒の中でよくできたね。さすが・・・サイラス」
「どちも把握しておけば、今後の面倒を潰せますからね」
サイラスは、いつも通りの気だるげな調子で答えた。
(2人に負けない様に、俺も今後の方針を考えないとな・・・)
ユウリは、そう考えながら揺れる馬車に身を委ねた。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




