18.アレン・サイラス役職任命と舞踏会準備、の巻
「舞踏会に出るとなると、今まで2人の役職を決めてなかったけど決めないとな」
「役職ですか?」
「タイラー伯爵領は小なりとはいえ、アレンは、討伐部隊の指揮から衛兵の編成まで、武に関して一手に担ってくれてる。サイラスは、領内の行政全てを任せてる。それなのに、対外的な役職が今まで曖昧なままだった。そこで、アレンを『タイラー伯爵家騎士長』、サイラスを『中書令』に任命したい」
「俺が騎士長ですか?」
「タイラー領の武を統べる、最高責任者としての役職だ・・・といっても、これまでアレンが実質的にやってきたことだから、今まで通りお願い出来るかな?」
「……謹んで、お受けします」
アレンは、姿勢を正し答えた。
「サイラスは?」
「『中書令』ですか・・・また、随分と、仰々しい名前ですね。領内の行政を統べる立場、ってことですよね?まあ、やることは変わらないので、断る理由もないですけど」
「中書令サイラス、これからも、頼りにしてる」
「俺でよければ・・・拝命いたします」
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役職の話が片付いたところで、舞踏会用も服を準備することにした。
「せっかくの機会だから、俺の分だけじゃなく、2人の分も用意するよ」
「我々の分まで・・・ありがとうございます」
「我領の武官長と中書令が、みすぼらしい格好で舞踏会に出すわけにはいかないからね」
こうして、3人は、帝都のテイラーへ行くことになった。
最初に訪れたのは、帝都でも名の知れたテイラーだった。
豪奢な仕立て、金糸の刺繍、目を引く意匠、だが、店内を一通り見て回ってユウリは、首を傾げた。
(悪くはないけど……縫い目や細部に粗いところがあるな)
もともと服の良し悪しが分かるわけではないが、『才無き万能』によりある程度分かるようになったようだ。
「ユウリ様、ここじゃ、駄目なんですか?」
「駄目ってわけじゃないけど……もう少し、探してみよう」
大通りからちょっと外れた路地裏の一角で、一軒の小さなテイラーを見つけた。
「なんかよさそうな雰囲気があるな・・・入ってみよう」
「いらっしゃいませ……」
中に入ると店主は、落ち着いた声で3人を出迎えた。
店内に展示されている服は、派手ではないが、縫製・細部の仕上げいずれも一切手を抜いたところがない素晴らしい出来だった。
「この店で、3人分舞踏会用の服の仕立ててもらいたいんですが」
「……よろしいので? うちで仕立てているのは、帝都の流行りとは違い、昔ながらの礼服ですよ」
「流行りより、丁寧な仕事をしてくれるところを探していたんです」
主人は、驚いたように瞬きをした後で、笑みを浮かべた。
「そういうことでしたら、腕によりをかけさせていただきましょう」
採寸を終え、仕上がりまで、半月ほどかかるとのことだった。
舞踏会には、充分間に合う日程だった。
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礼服の仕上がりまで半月ほどの間、3人は帝都で待つことにした。
タイラー領に戻るより日数と費用を考えると効率が良いからだ。
とりあえず、事情をしたためた手紙を執事のラドフォード宛に送り、領内のことを頼んでおくことにした。
ユウリは、滞在期間をアレンと共に帝都見物に費やした。
「今日は、どのあたりを見て回ります?」
「市場のあたりを、もう少し詳しく見ておきたい」
高価な商品を扱う店・職人街の工房・外国からの品を扱う貿易商など、タイラー領とは比較にならない経済活動が行われている。
ユウリの目には、帝都の街並みそのものが、色々な意味で参考となった。
上下水道の配置、市場の区画整理、大通りに面した店舗の並べ方――今後タイラー領を開発するうえで活かせそうなことばかりだ。
「ユウリ様、また何か考えてます?」
「うん。あの水路の分岐の仕方、うちの町にも、応用できそうだと思って」
「勉強熱心ですね・・・少しは息抜きをしたらいかがですか?」
「ちゃんと、息抜きにもなってるから大丈夫だよ」
ユウリにとって帝都散策は、休暇であると同時に自領の開発のヒントを得るいい機会だった。
一方、サイラスは、2人とは違い休暇を楽しんでいた。
「サイラス、今日は、何してたんだ?」
「半分は、宿で寝てました。残りは、帝都の図書館と、古書店をいくつか回りました」
そう言いながら、古びた書物を取り出してみせた。
「行政の仕組みとか、税制の歴史とか、欲しかった本が手に入りました。なかなか手に入らない書籍も、帝都なら揃うので」
「意外と、真面目に過ごしてたんだな」
「ない、将来の面倒をつぶすための先行投資です」
サイラスは、涼しい顔で本を鞄に詰めた。
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半月後、仕上がった礼服を受け取りにいった帰り道にふと思い立った。
「そういえば、ミアにお土産を買おうと思うんだ」
「ミアさんにですか?」
「タイラー領の収入が大幅に増えた1つの要因は、ミアがミスリルの加工に成功してくれたおかげだからね」
いろいろと迷ったが、帝都で評判の菓子店に立ち寄り、日持ちのする焼き菓子の詰め合わせを購入した。
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仕立てていた礼服も仕上がったので、タイラー領へと帰ることにした。
とりあえず、領主館に戻り、ラドフォードから不在時の報告を受ける。
幸い、不在中特筆すべきことはなく、万事順調だった。
一通りの報告をうけたあと、ミアに土産を渡すために工房を訪れることにした。
「長いこと不在にしたが、戻ったよ」
「お帰りなさい、ユウリ様……それに、アレンさん・サイラスさんも」
工房から顔を出したミアに、菓子の包みを差し出した。
「帝都のお土産だよ。流行っている焼き菓子らしい・・・お菓子は好きだったっけ?」
「お菓子は大好きです。ありがとうございます……そうだ、私からも、お渡ししたいものがあるんです」
そう言いながら差し出したのは、ミスリル製の、繊細な意匠のカフスボタン・タイピン・小ぶりなブローチだった。
「舞踏会に出られるって聞いて、作ってみたんです。せっかくなんで、タイラー領の特産品を身に着けていただきたくて・・・」
青白い光を淡く帯びた、繊細な細工の品々は帝都の舞踏会でも目を引きそうだ。
「……ありがたく、使わせてもらうよ」
「アレンさんと、サイラスさんの分も用意してあります」
「あ……ありがとう、ございます」
アレンが、少し照れくさそうに、自分のタイピンを受け取った。
「わざわざ、俺の分まで。ありがとう、ミアさん」
サイラスは、素直な笑みを浮かべながら、ブローチを受け取った。
ミアは、サイラスの笑顔に少し驚いたようだったが、嬉しそうに微笑んだ。
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舞踏会に出席するために、もう一つ避けて通れない準備が残っていた。
「舞踏会となると、ダンスのお誘いがある可能性があります」
執事のラドフォードが、屋敷の広間を急遽のダンス練習場とした。
ユウリは、ダンスを教わるのは初めてだが、どんなダンスも無難にこなした。
「さすが、ユウリ様。飲み込みが早い」
「一応、貴族の嗜みだからね(こういう時『才無き万能』便利だな)」
問題は、アレンだった。
「い、いてっ……」
「アレン様、ステップがおかしいですぞ!!」
ラドフォードの厳しい指導のもと、何度もリズムを外し、ステップを乱しては体勢を崩していた。
剣を握らせれば、あれほど鮮やかな動きを見せる男が、ダンスの場になると、途端に、ぎこちなくなる。
「アレン様。剣の間合いと同じです。相手の動きを、先読みするつもりで」
「先読みって言われても……!」
ラドフォードによる特訓のおかげで、数日後にはアレンもなんとかダンスをこなせるようになっていた。
意外だったのは、サイラスだ。
「サイラス様、随分と、お上手ですね」
「まあ、帝都の宮廷勤めの時に何度か舞踏会にはさんかしたので・・・」
サイラスは、気だるげな表情のまま危なげのないステップを披露していた。
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全ての準備が整った頃には、舞踏会本番まで数日に迫っていた。
「あとは、当日粗相のないようにするだけだね」
ユウリは、礼服姿を鏡の前で確かめながら言った。
「粗相のないように、って、一番不安なの俺なんですけど」
アレンが、疲れ切った様子で零した。
「まあ、なんとかなるよ。せっかくの陛下主催の舞踏会なんだから楽しもう」
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




