17.帝都での納税手続きと舞踏会の招待状、の巻
ユウリが16歳を迎える頃、タイラー領の収入は以前よりかなり多くなっていた。
安定した水利によって、穀物の収穫量は右肩上がりを続けている。
直轄工房が生み出す、ミスリルのインゴットと武具は、上質な品として需要が途切れることはなかった。
更に、最近採掘がはじまった魔晶石も、宮廷魔導師やの間で高評価を得ており高値で取引されている。
「今年度の収支報告、ざっとまとめました」
サイラスが、気だるげな様子で帳簿を机の上に広げた。
「去年の、ざっと5倍ってところですね」
「5倍か……ずいぶんと増えたな」
数字を目にしたユウリは、思わず唸った。
「これだけ収入が増えると、帝国に納める税も当然増えることになるね」
「ええ、その件で今回、ユウリ様に直接帝都まで足を運んでいただく必要が出てきました」
「えっと、なんでだっけ?」
「税額の区分が変わる規模の増収なので、帝都の財務府で正式な手続きと申告が必要になります。書類の提出と納税だけで済ませられる範囲を超えてしまったので・・・」
「そうか・・・それなら、行くしかないな。サイラスとアレンも同行してくれるかな?」
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こうして、アレンとサイラスを伴い帝都の財務府へと赴くことになった。
「面倒ですね、帝都まで出向くの・・・」
馬車に揺られながら、サイラスが、大きなあくびを一つした。
「まあ、仕方ないさ。」
「まあ、行かなきゃ仕方ないんで、行きますけど」
「ぼやく割に、必要な書類の手配とチェックは万全みたいじゃないか」
「面倒だからこそ、二度手間は嫌なんですよ」
その理屈にアレンは、思わず苦笑した。
「ブレませんね、サイラス殿は」
数日をかけて一行は、帝都に到着した。
初めて見る帝都の街並みは、タイラー領のそれとは比較にならない規模だった。
石畳の大通りには、様々な出自の人間が行き交い、王城を中心に、壮麗な建物が立ち並んでいる。ユウリにとって転生後、初めて目にする大都市だった。
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さっそく、財務府で申告の手続きを行うことにした。
「タイラー伯爵家より、申告に参りました」
受付を担当した文官は、書類に目を通して僅かに眉を上げた。
「……失礼ですが、この数字、間違いございませんか」
「ええ、間違いありません」
サイラスが、淡々と答える。
担当官は、しばらく書類と目の前のユウリを見比べた後、奥へと駆けていった。
「なんか、随分と慌ただしくなってきましたね」
アレンが、周囲の様子を見渡しながら零した。
しばらくすると、先ほどの担当官の上役らしき人物が対応に現れた。
分厚い書類の束を、時間をかけて隅々まで確認する。
「……驚きました。これほどの規模の申告で不備が一つもありません。数字の整合性も、控除の区分も、全て完璧です」
文官は、書類を捲る手を止め、まじまじとユウリの顔を見た。
「失礼ですが、この書類はどなたが、まとめられたのですか?」
「ここにいる当家の行政官サイラスが、まとめました」
そう答えると、文官は感嘆したように、小さく息を吐いた。
「これだけの案件、大抵はどこかに修正の必要な箇所が出てくるものなのですが……。いや、見事なお仕事です」
(さすが、サイラス・・・いい仕事をする。俺だったら、多分こうはいかないな・・・)
細部まで抜かりのなさ、無駄のない整理、サイラスの文官としての能力の高さが伺える。
サイラス自身は、相変わらず、気だるげな顔で欠伸を噛み殺していた。
「タイラー伯爵領の噂には聞いておりましたが、まさか、これほど収入が増えられたとは・・・」
「どのような噂ですか?」
「辺境の小さな領地が、急速に目覚ましい発展を遂げているという噂です。農産物の収穫量の増加、高純度のミスリルインゴットの作成、魔晶石の採掘――最近宮廷内でも注目されていますよ」
ユウリは、少しだけ居心地の悪さを覚えた。
(これだけ納税額が増えれば、ある程度注目されることもあるか・・・)
手続きは、その後は粛々と進められ、滞りなく終了した。
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全ての手続きが終わり、宿泊している宿へ戻ろうとした時だった。
「タイラー伯爵、少々お待ちを」
声をかけてきたのは、目力のある神経質そうな雰囲気の男性だった。
「宮廷書記官の、エルネスト・フォン・ドレイク男爵と申します」
財務府で手続きを進める中、居合わせた担当官たちがこの名を口にしていたのを耳にしていた。
宮廷の行政を取り仕切らせたら右に出る者はいない、名うての切れ者――らしい・・・
軽く言葉を交わしただけで、ユウリの中に覚えのある感覚が湧き上がった。
(この人、文官としての能力は俺よりずっと上だな・・・)
「皇帝陛下主催の舞踏会が、来月王城にて行われます。つきましては、タイラー伯爵にもぜひご出席いただきたく、参りました」
差し出されたのは、金の縁取りが施された、格式ばった招待状だった。
「これは……」
思わず、招待状を手に取ったまま固まってしまった。
「近年目覚ましい発展を遂げられた領地の当主として、皇帝陛下も、興味を持っておられます。ぜひ、参加いただきたいとのことです」
ドレイク男爵は、丁重に一礼して去っていった。
しばらくの沈黙の後、アレンが、招待状を見やりながら言った。
「……ユウリ様、これ、断れないやつですか?」
「多分、無理だろうね」
「ですよねぇ」。
辺境の一領地の発展はいつの間にか、帝都でも目にも留まるところとなってしまったらしい。
「舞踏会か・・・2人にも同行してもらうけど、ダンスは得意かい?」
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




