16.タイラー領内視察、の巻
「たまには、じっくり領内を歩いてみようか」
ユウリとアレンは久しぶりに視察をかねた散策に出かけた。
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まず、治水を行ったヴェイル川沿いに広がるかつての荒れ地を訪れた。
見渡す限り、青々とした麦の穂が、風に揺れている。
整備した水路には澄んだ水が絶えることなく流れ、畑では農夫たちが、軽口を交わしながら作業をしていた。
「今年も、豊作になりそうだね」
声をかけると、農夫の一人が、日に焼けた顔で大きく頷いた。
「坊ちゃんのおかげですよ。昔は水の心配ばかりだったのに、今じゃ、水より収穫した作物の置き場所を心配するぐらいでさぁ」
「それは、贅沢な悩みだね」
ユウリは笑いながら、風に揺れる麦畑をしばらく眺めていた。
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次に足を運んだのは、町外れにあるタイラー領直轄工房だった。
中に入ると、槌を振るう音が、いくつも重なって響いていた。
立ち上げた当初、ミア1人だけだった工房には多くの見習いたちの姿がある。
「男女問わず、工房で働きたい人が増えてるんだって?」
「ミアさんの噂を聞いて、鍛冶に興味を持つ人が増えたみたいです」
(才能あるものが、才能を発揮できる場所があるのはいいことだ・・・まあ、いま俺にできるのはこの程度だけどね)
ユウリは、槌を振るう見習い鍛冶師たちの姿を眺めながら満足そうに微笑んだ。
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町の中心部は以前より明らかに、賑わっている様子だった。
物売りの声が飛び交い、子供たちが路地を駆け回っている。
かつて感じられた、よそ者への警戒や、殺伐とした空気は見当たらなかった。
詰所の前では衛兵が、住民と世間話をしている。
「治安落ち着きましたね」
「数字にも、ちゃんと表れてるからね」
衛兵がまとめた報告書から窃盗や諍いの件数が、以前と比べて減っていることが記されていた。
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コルビン領との交換で手に入れた土地へ足を延ばしてみた。
排水路の整備は、既に大部分が完了しており、湿地帯の大部分は農地として機能しつつある。
また一部では魔晶石の採掘が進んでいる。
掘り出されたばかりの淡い光を帯びた結晶は、荷車に積み込まれていくところだ。
「元炭鉱夫の人たち新しい仕事に馴染んでいるようですね」
「うん、なかなか筋がいいみたいだよ」
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最後に立ち寄ったのは、行政を取り仕切る執務棟だった。
中に入ると、黙々と働く文官たちをしり目に、窓際の机でサイラスが椅子に深くもたれかかり居眠りをしていた。
「……相変わらずですね」
アレンが、呆れたように呟いた。
「サイラスがリラックスしてるのは、行政に問題がない証拠だよ」
サイラスの机の上には処理を終えた書類の束が、綺麗に積み上げられていた。
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「ユウリ様にお仕えして時から思えば、随分領内が豊かになりましたね」
「うん、そうだね。でも、まだまだこれからさ」
ユウリは、夕暮れに染まる町並みを、しばらく眺めていた。
豊かな畑、賑わう工房、落ち着いた町並み、新しい鉱脈、それを支える人々・・・
「さて、次は、何をしようか?」
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




