20.人口増加対策の三本柱、の巻
「今日は、提案したいことがあります」
「サイラスから? 珍しいな」
「面倒は嫌いですが、放っておいたら後に数倍の労力が必要になりそうなので」
サイラスは、いつもの調子で資料を並べた。
「我領は人口が右肩上がりに増加しており、今のままだと近い将来限界が来ます。なので、そうなる前に対策を進めることを提案します。対策は3つ『1.新規開拓地開発計画、2.領民の教育・職業訓練の仕組み、3.新たな特産品の考案』以上です」
「……なるほど、それぞれがどういった対策になるのかな?」
「1.は単純に住む場所の拡大ですね。2.は領民の教養のレベルをあげることによる産業の活性化と治安向上、職業訓練による新規領民が流民やゴロツキにならないようにするためと労働力の確保が目的です。3.はそれらの労働力が働ける場所の創出といったところですか・・・現状我領は農業・工業に偏っているので出来ればそれ以外の特産品を作りたいですね」
「1と2はよく理解できた・・・すぐに進めよう。ちなみに3の案はあるのかな?」
「実はまだないんですよ・・・でもユウリ様には腹案があるんではないかと思いまして」
「そのあたりこの間から考えたから・・・一応あるよ」
「さすがユウリ様、頼りになります」
「期待に沿えるといいけどね、とりあえず順番に詰めていこうか」
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まず開拓地開発計画にとりかかることになった。
「とりあえず、こんな感じで考えているんだが・・・」
地図を広げながら区画割りの案を示した。
「住居区・商業区・工業区を分けて配置する。道幅もあとで整備する必要がないように確保しておく」
(いわゆる都市計画だね・・最初に区画を決めておく方が圧倒的に効率がいい)
「これなら後から道を広げ直したり、区画を作り直す手間が省けるし、区分けをしているから治安の管理もしやすい」
「……面白い考えですね」
サイラスが地図から顔を上げ言った。
「普通、人が増えるたびに道や建物を継ぎ足していくもの一般的です。将来を見越して区画を設計しておく発想は画期的ですよ」
サイラスは言いながら、地図に目を戻しいくつか修正点を書き加えていった。
「ただ、このままだと、行政上の管理区分と境界に齟齬があります。税の徴収単位と区画の境目を揃えておかないと、後で面倒なことになります」
「あー、確かに・・・それは抜けてたな」
「あと、新たな区画への入植希望の優先順位を決める必要があります。既存の住民からの移住希望もあるでしょうし、新規移住者と同列にすると揉め事の元になります。」
サイラスによってあっという間に実務的な精度を増していった。
「防衛面はどうなってますか?」
アレンが、地図を覗き込みながら聞いてきた。
「新規開拓値は、モンスターの出没区域から近いので、その点を考慮して討伐隊の詰所を配置したほうがいいと思います」
「確かに、アレン・サイラスどこがいいと思う?」
3人で意見を出し合いながら開拓地の開発計画はブラッシュアップされていった。
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次に教育・職業訓練機関の設立を検討することにした。
「基本的な読み書き計算を教える初等課程と、農業・工業・商業の実務技能を教える専門課程を分けて用意する」
前世の記憶にある小学校と職業訓練校の仕組みを簡略化したものを説明した。
「なるほど、段階を分けることにより効率的ですね。目的もはっきりする」
「専門の過程ではある程度の理解力が必要だからね。それを初等過程で学んでもらう」
「方向性はいいと思います。ただ、運営費用の出どころと講師の確保が課題です。専門課程は、各工房の親方連中に講師として協力してもらう形にしましょう。無償ではなく指導料を払う形にすれば協力も得やすいはずです」
「当座の運営費は、領の公費で賄う。ゆくゆくは3.の特産品に関わる増収で賄おう・・・それくらいの余裕はあるよね、サイラス」
「大丈夫です。ただ1.の建設にも費用がかかりますので、なるべく早く3.の特産品による増収が見込めると健全な運営が出来るでしょう」
「あと、初歩の戦闘訓練が行えるところもあるといいですね。住民の自衛力が上がります」
「いいね、そこでは武の使いどころも教えて欲しいね。暴力として使わない様に」
「そこは訓練を衛兵隊で担えば、問題ないでしょう。武の本質は防衛ですから、そこを教えます」
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「さて、3.の特産品だが・・・食べ物にしようかと思う」
「食べ物ですか?具体的にどういったものでしょう?」
「1つは『ソーセージ』これは豚肉を挽いて味付けして、豚の腸に詰めたものを燻製したものだ。保存がきくので近隣の他領へ販売できる。2つ目は領内で売るものだ。最近うちの領内って農業・工業で懐に余裕ができた領民がけっこういるだろう?そういった領民向けに提供する食事処をつくる。そこで提供するのが『ハンバーグ』だ。これも挽いた牛肉・豚肉に味をつけて焼く料理でたいして難しくはない」
「挽いた肉ですか・・・あまり聞いたことない調理法ですね」
「言葉で説明するより、作ってみせた方が早いかな」
ユウリは、そう言って席を立ち厨房へ向かった。
材料は珍しいものではないので、領主館の厨房に揃っていた。
とりあえず牛肉を叩いて挽き、 味付けし手早く形を整え焼き上げる。
香ばしい匂いが、厨房いっぱいに広がっていく。
「はい、できた」
焼き上がったハンバーグを、アレンとサイラスの前に差し出す。
2人は、恐る恐るといった様子で口に運んだ。
「――!!」
アレンが、目を見開いたまま、固まった。
「……うまい! 肉の旨味が詰まってて……これ、絶対に当たりますよ!」
アレンは、興奮した様子であっという間に平らげていった。
「原価も安いのでそんなに高い値段設定にはならないでしょね・・・このクオリティなら領民達もよろこんでお金を落とすでしょう」
「いろいろ、アレンジも出来ると思うんだよね。ソーセージはすぐにはできないから、また今度試食してもらうとして・・・もう一つ、考えてることがあるんだ」
「なんですか?」
「農業が順調なおかげで麦がたくさんとれるだろう?それをつかって酒を造りたいんだ」
「確かに特産品としては最適ですが・・・エールですか?」
「エールをもっと洗練させたもの・・・『ビール』を作りたい」
ユウリは、少し考えてからそう答えた。
「麦芽の作り方、ホップの配合、発酵の温度管理。どれも、勘所さえ押さえれば、そこまで特別な設備は要らないし・・・最初は俺が造る」
「――って、酒の醸造まで、できるんかい!!」
アレンが久しぶりに突っ込んでくる。
「材料の用意と醸造所を作らないといけないけど、多分できるよ」
「そんな簡単に『できるよ』って・・・なんでもできすぎなんですよ」
「酒はユウリ様が作るとして、『ソーセージ』と『ハンバーグ』の方もご自分でされるんですか?」
いつものようにじゃれ合う2人をしり目に、サイラスが言う。
「いや、そっちは料理長のガレスに任してみようと思う。作り方を教えていくつかパターンを考えてもらう」
「その方が効率的ですね。彼の料理の腕は確かですしね」
「それじゃあ、その方向で進めよう。酒の醸造所はとりあえず試作なんで簡単なものを作ろう」
「わかりました。醸造所の設計は・・・いつものようにユウリ様がされるでしょうから、ドーソン親方に手配しておきますね」
サイラスが、いつも通り淡々と答えた。
「うーん、アレンとは違う反応で新鮮だな~」
反応のピントがずれているユウリであった。
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会議を終えた3人は、まとめられた三つの計画書を改めて眺めた。
「よし、方向性は決まったな」
「3人で話し合うと、触発されて1人では思いつかないことが出てきますね」
サイラスが、珍しくそんな言葉を口にした。
「大事なことを決める時はなるべくこの形でやっていこう」
こうして、タイラー領の人口増加対策の方向性が決まった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




