14.モンスター討伐、の巻
サイラスの手腕により、タイラー領の行政は、目覚ましい速さで安定していった。
複雑に入り組んでいた徴税の仕組みを整理し、税をより公平なものへと改めた。
開拓地の割り当ても、優先順位を明確にしたことで、移住者たちの不満は、目に見えて減っていった。
「これで、内政の基盤はある程度固まったと思います」
サイラスが、自信を滲ませた声で報告してきた。
衛兵の仕組みの変更と、行政改革によってタイラー領の治安は、着実に安定していった。
残る大きな課題は、ただ一つ・・・
「森に巣食うモンスターを討伐し、治安問題の仕上げだな」
ユウリは、地図に描かれた、北の森の輪郭を、指でなぞった。
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モンスター討伐部隊は、直轄工房で作ったミスリル合金製武具に身を固めた。
討伐部隊はアレンを指揮官として、森の奥へと進軍を開始した。
最初の目標は、森の中腹にあるゴブリンの集落討伐だ。
「隊列を崩すな。左翼から包囲を固めろ」
アレンの指示は、的確で、迷いがない。
かつて騎士団に籍を置いていた経験が、実戦の場で生かされた。
ミスリル合金の剣はこれまでの粗末な鉄剣とは比較にならない切れ味を発揮し、モンスターの討伐は予定をはるかに上回る速さで進んでいった。
ゴブリンの集落を落とし、その後も小規模なモンスターの巣を次々と制圧した。
討伐部隊が制圧した土地は着実に広がっていった。
地図の上、モンスターが占有する領域は、残りわずかとなり皆が安堵の空気を漂わせていた時、突如として、地響きにも似た咆哮が響いた。
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「――全員、後退! 隊列を崩すな!」
現れたのは、これまで討伐してきたゴブリンやコボルトより格上のモンスター――オーガーだった。
丸太のような腕が振るわれるたび、木々がなぎ倒され、隊員たちの陣形が次第に崩れていく。
「くっ……!」
前列にいた数名の隊員が、オーガーの薙ぎ払いをまともに受け、吹き飛ばされた。
悲鳴と怒号が、森に響き渡る。
「怯むな! 無理をする必要はない、密集隊形をとれ!」
混乱する討伐隊員に、アレンが鋭く指示を出す。
負傷者を後方に下げさせながらアレンは、オーガーの前に立ちはだかった。
「お前らの相手は、俺だ」
オーガーの巨腕が、唸りを上げてアレンへと振り下ろされる。
アレンは、それを紙一重で躱すと、返す剣で側面を正確に薙いだ。
オーガーの咆哮が、苦悶に変わる。
怒りに任せて振るわれる連撃を、最小限の動きで次々とかわしていく。
大振りを交わされたオーガーに隙が出来た・・・大きく踏み込んだアレンの一閃が、オーガーの喉元を深々と切り裂いた。
巨躯が轟音と共に地面に沈む・・・しんと静まり返った森に、アレンの荒い息遣いだけが、しばらく響いていた。
「よし、討ち取ったぞ!!みな、大丈夫か?」
アレンは、剣を鞘に収めると、すぐさま、負傷した隊員たちの元へと駆け寄った。
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討伐そのものは成功に終わった・・・
そんな中、一人の若い討伐隊員の傷が、思いのほか深いことが分かったのは、帰還してからのことだった。
「内臓まで損傷しているかもしれません……」
治療にあたった薬師が、青ざめた顔で告げた。
「こんな時、神聖魔法の使い手がいれば……」
神聖魔法による治癒は、厳しい修行をした神官にしか使えない魔法だ。
しかし、こんな田舎に神聖魔法の使える神官はいない。
「俺『一応』・・・・できるよ」
「――は?」
ユウリの一言にの場にいた全員が、振り向いた。
「当主様が、神聖魔法を……?」
「たぶんね・・・」
ユウリは、負傷した隊員の傍らに膝をつき手をかざした・・・淡い光が傷口を、ゆっくりと包み込んでいく。
しばらくして、深く裂けていた傷は綺麗に塞がっていた。
「……信じられない」
薬師が、呆然と呟いた・・・負傷した隊員の息は、落ち着いたものに変わっていた。
「傷は塞がったけど、しばらくは、安静にさせてあげてくれ」
ユウリは、そう言いながら、自分の手のひらを見つめ、小さく苦笑した。
「まあ、俺の魔法なんでこんなもんか」
その呟きにアレンが、思わず声を上げた。
「『こんなもんか』じゃないんですよ! そもそも、神官でもないのに、なんで神聖魔法が使えるんですか!」
「使えるんだから、しょうがないじゃないか・・・」
「しょうがないじゃないですよ・・・でも、ありがとうございます。おかげで部下が死なずにすみました」
アレンは、深く長いため息をついた後、安堵したような表情で言った
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こうしてタイラー領を悩ませていた、モンスターによる治安問題は、収束を迎えることになった。
討伐によって切り開かれた土地には、続々と新しい入植者たちが移り住んでいった。
かつて3,000人ほどだった領内の人口は、この一連の変化を経て、5,000人に超えるまでに増加した。
そしてもう1つ、この討伐で評判を呼んだのが、討伐で使用した武具だった。
「あの武具のおかげで助かった」「切れ味・耐久性も、桁違いだ」――そんな評判が、討伐に参加した者たちの口から徐々に広まっていった。
実績に裏打ちされた評判は、タイラー領の工房の実力を周辺へ知らしめることになった。
「さて、モンスターの脅威も一応片付いたな・・・」
屋敷の窓から、賑わいを増していく町並みを眺めながら、ユウリは呟いた。
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その夜、ユウリは、久しぶりに、夢の中にいた。
いつもの、白く滲んだ空間。銀色の髪の女神が、腕を組んで、にんまりとした笑みを浮かべながら、こちらを見下ろしていた。
「よぉ、75点男」
「女神様、お久しぶりです」
「治安問題片付いたわね・・・75点にしては手際よかったわよ♪」
「いやー、みんなが頑張ってくれたおかげです」
「そのみんなを揃えたのは、あんた自身でしょ?」
女神は、腕を組み直すと、じっと、ユウリの顔を見つめた。
「そこはもっと、威張っていいのよ」
その一言には、これまでの、からかい混じりの茶々とは、少しだけ違う響きがあった。
「ありがとうございます」
「まあ、調子に乗るのはまだ早いけどね。今のタイラー領は、まだあんたが満足するようなレベルじゃないでしょ?」
「ええ、鋭意努力します・・・」
「よろしい」
女神は、満足そうに頷くと、いつものように、光の中へと溶けていった。
――目を覚ましたユウリは、しばらく天井を見つめたまま小さく笑った。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




