13.任せられると悪い気がしない、の巻
登記所の混乱が収まってから、サイラスに会いに行った。
「サイラス、ちょっといいかな?」
相変わらず、だらけた様子のサイラスに声をかけた。
「登記所の件、立て直し見事だった。・・・それで、サイラスにタイラー領全体の行政を任せたいんだが、どうだろう?」
「突然の話ですね……しかも領地全体ですか?」
サイラスは少し目を細めながら答えた。
「人口の増加に伴って、行政全般の業務が滞っているんだ。旧態依然のやり方では限界が来ている」
「その行政改革を俺に丸投げすると・・・」
「やり方は、君の好きにしていい」
「……1つ、聞いていいですか」
「なにかな?」
「俺、面倒くさがりですよ。無駄だと判断したことはやりませんけど、いいんですか?」
「かまわない・・・そもそも、サイラスがめんどくさがるのは、仕事そのものじゃないよね?無駄に、同じことを繰り返しやらされることが、面倒なだけで・・・」
サイラスは、わずかに、目を見開いた。
「……よく分かりましたね」
「登記所の件で分かったよ。君は意味のある仕事なら、ちゃんとやる。ただ、意味のない作業を押し付けられるのが、我慢ならないだけだってね」
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ユウリ自身も前世で会社内の便利屋として、様々な現場を渡り歩いた時「昔からこうだから」という理由だけで、非効率なやり方が延々と繰り返されていることが多かった。
業務の手法は、常にブラッシュアップされるべきだ――
「サイラス、行政の仕組みについて非効率だと思うところがあれば、どんどん変更してくれ。逐一伺いを立てる必要もない」
「本当に、好きにしていいんですか?」
「うん、サイラスの手腕に期待するよ」
「……もし、俺のやり方で、何か問題が起きたら、どうするんです?」
「その時は、俺が責任を取るから、安心してやってくれ」
「は?」
「サイラスに任せたのは、俺だからね。何かあったら俺が責任を取るのは、当たり前だろう?」
「……伯爵、それは当たり前ではありませんよ」
「そうか?」
「今まで、何人も貴族の上司を見てきましたけど、大抵、都合の悪いことがあると、部下に押し付けて、自分だけ逃げるような人ばかりでしたから・・・『任せた以上、責任は自分が持つ』なんて言う人、初めてです」
「別に、特別なことは言ってないと思うけどな・・・上司の仕事なんて突き詰めれば、自分の管理する仕事に関して責任を取ることだと思うけど」
サイラスは、しばらくユウリを見つめていた。
「……伯爵は変わってますね」
「そうかな?・・・普通だと思うけど」
「普通の人は俺みたいな、勤務態度悪い人間に行政の改革を任せたりしませんよ」
「勤務態度が悪いって、暇なとき寝てるぐらいじゃないか。成果はしっかり出してるし、必要な時は他の人間よりずっと働いているんだから問題ない」
「・・・・・」
「サイラス、引き受けてくれるかな?」
サイラスは、小さく息を吐いた後、初めて、少しだけ、口の端を持ち上げた。
「面倒な話ですね……でも、面白そうな話でもあります。俺でよければ、お引き受けいたします」
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それからサイラスは、行政の仕組みを、次々と刷新していった。
村ごとにバラバラだった陳情の書式を統一し、税の算定方法を簡略化し、開拓地の割り当てには、簡単な優先順位表を導入する。
彼の手腕によって着実に、現場の負担を軽くしていった。
「サイラス様のおかげで、随分と仕事がやりやすくなりました」
各所からそういった声を聴くと、サイラスはまんざらでもなさそうな顔をしていた。
「ユウリ様は、本当に口を出してきませんね」
ある日、サイラスがぽつりと漏らした。
「任せるって、そういうことだろう?」
「途中で気になって、あれこれ言いたくなるもんですけどね・・・」
「サイラスが、ちゃんと結果を出してるからな。信じて任せた相手には、余計な口出しはしたくない。だって、やりにくいだろう?」
「……こんな風に信頼されたのは初めてです。今までは、どこでも怠け者扱いされてきたので・・・まあ、悪い気はしないですよ」
サイラスは、いつになく機嫌の良さそうな顔をしていた。
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サイラスはタイラー領内全般の政務において辣腕を振るうようになった。
税制の見直し、開拓地の割り当て、村々からの陳情の処理――どれをとっても、以前とは比べ物にならない速さと正確さで処理されるようになった。
ラドフォードをはじめとする他の文官たちも、その働きぶりには舌を巻いた。
もっとも、気質が変わったわけではなく、緊急性の高い仕事が一段落すると、相変わらず執務室の隅で、足を投げ出してぼんやりしている姿が見かけられた。
「あれ、いいんですか?」
ある日、執務室を訪れたアレンが、窓際で完全に脱力しているサイラスを見て尋ねた。
「いいんだよ・・・サイラスが、ずーっと働いてたいら、そのほうが大変だ」
「大変とは、どういうことです?」
「ずっと全力で働き続けられる人間なんていないだろう?ああやって、普段力を抜いてるからこそ、ここぞという時に、きっちり結果を出せるんだと思う」
アレンは、しばらく脱力しきったサイラスとユウリを見比べていたが、やがて小さく肩をすくめた。
「そういうところ、変に懐が深いですよね」
「そうかい?」
「普通、部下がサボってたら、もっと苛立つもんだと思いますけど」
「結果が出てるなら、別にいいだろう?」
サイラスは、相変わらず寝てるのか起きてるのか分からない様子で執務室で目を閉じて座っている・・・
こうして、面倒くさがりの切れ者は、タイラー領の行政を支える存在としてその居場所を固めていった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




