11.治安維持計画、の巻
「現在、タイラー領内の治安の問題、大きく分けて二つある」
ユウリは、執務室の机に、二枚の紙を並べた。
「一つは、人の脅威・・・盗賊や、よそ者同士の諍い、窃盗みたいな、人と人との間で起きる問題だ。もう一つは、モンスターの脅威・・・2つの問題は性質が違う」
「確かに、同じ『治安』でも、対処の仕方は、まるで別物ですね」
アレンが、腕を組みながら頷いた。
「だから、これは、それぞれ別の対策を立てていこうと思う」
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まず、人の脅威に対して二段構えの対策を用意した。
一つは、単純な装備の刷新・・・衛兵たちが使っていた、粗末な剣や防具を新しいものに買い替える。
これは、武具商から仕入れた、ごく普通の量産品で十分だ。
「無理に特別なものを揃える必要はない。人と人との揉め事や、簡単な捕り物程度なら、標準的な装備で事足りる」
もう一つが、組織そのものの再編だ。
「衛兵ってこれまでずっと、町の警備を大雑把に交代制で回してたよね」
「そうですね。事件があれば駆けつける、程度の体制です」
「それを、もう少し、体系立てて整理しようと思う」
ユウリには、前世の日本における警察組織がイメージとして浮かんでいた。
町をいくつかの区画に分け、それぞれに詰所を置き、常に見回りをする「巡回」の担当と、実際に起きた事件を調べる担当とを、はっきり分ける。
ちょっとした喧嘩や、隣人同士のいざこざは、詰所の担当者がその場で仲裁する。
一方、窃盗や暴行のような、明確な犯罪は、記録を残し、常習性のある者を把握できるようにする。
「これ、記録を残す意味って、あるんですか?」
衛兵隊長のガードナーが、書類の束を前に、怪訝な顔をした。
「これが重要なんだよ。同じ人間が、何度も似たような問題を起こしていないか、後から確認できるようになる。それが分かれば、本当に危険な人間と、そうでない人間を、区別しやすくなるだろう?」
「なるほど……確かにそうですな」
「あと詰所は、なるべく町の人たちの生活圏の近くに置きたい。何かあった時に、すぐ駆け込める距離にあるだけで、犯罪の抑止にもつながるから」
「坊ちゃ……いえ、当主様、こういう仕組み、どこで学ばれたんです?」
「一応、本で読んだことがあるので」
「その『一応』を聞くたびに、こっちの常識が壊れていくんですが・・・」
アレンが、横で律儀につっこんだ。
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人の脅威への対策と並行して、モンスターへの対策にも着手した。
こちらは、既存の衛兵とは切り分け、専用の討伐部隊を新設することにした。
「モンスター相手には、特注の装備を用意する」
直轄工房でミスリルと鉄の合金を使用した装備を作成した。
ミスリルを少量混ぜ込むだけでも、切れ味や耐久性は、通常の鉄製武具とは比較にならないほど向上する。
装備の準備と並行して必要になるのが、討伐部隊の人材だった。
幸い今のタイラー領は、人が集まりやすくなっている。
治水による農業の安定、ミスリル鉱山、直轄工房のミスリル精製・・・一連の成功で、タイラー領の景気は上向きは、近隣でちょっとした評判になっているのだ。
その評判を聞きつけて、腕に覚えのある冒険者や傭兵が、仕事を求めて集まってくるようになっていたのだ。
そうした腕に覚えのある者たちから志願する者を、モンスター討伐専門の新しい部隊として新設することにした。
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「それと、もう1つ、考えていることがあるんだ」
ユウリは、地図を広げながら切り出した。
「領内の人口が増えて、住む場所が、少しずつ手狭になってきてる」
豊かさに伴う人の流入は確かに喜ばしいことだが、それは同時に、居住地不足という新しい問題を生み出した。
既存の村や町だけでは、増える住民を十分に受け入れきれなくなりつつあった。
「一方で、領内の北側――モンスターがよく出る森の周辺は、手つかずのまま、広大な土地が広がっている」
「つまり、モンスター討伐と、居住地の開拓を、同時にやろうという話ですね?」
「さすがアレン話がはやく助かるよ。討伐部隊が、森の縁から少しずつモンスターを掃討して安全な土地が広げていく・・・そうして開拓した土地は、新しく移住してきた人たちの居住地としていく」
「一石二鳥、というやつですね」
「治安を守ることと、領地を広げること、これを同時にやっていこう」
こうして、タイラー領における治安整備は動き始めた。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




