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3.ピンチはチャンスの始まり!?――拷問の後は絶好の好機(前)

ピンチはチャンス。

言い換えると、『(敵さんが)調子こいた結果がこれだよ』である_(:3 」∠)_マンシン、ダメ、ゼッタイ

 日の光が届かない地下牢の空気は朝でも変わらずにひんやりとしていた。ゆらゆらと揺らぐろうそくの小さな灯りが地下牢を静かに照らす。そんな中……


 ギュルルルルル――。


 地響きのような腹の虫が周囲を切り裂いた。


「うぅ……お腹すいたよぉ、お姉ちゃん……」


 優華は藁の山の上で身体を起こし、両足の太ももを胸に押し付ける体操座りの姿勢を取る。本人としては縛られてるせいで使えない手の代わりに、太ももでお腹を押さえての腹ペコアピールを取ってるつもりなのだろう。

 彼女は異世界に来てからというもの、水すら口にしていないのだ。育ち盛りな十一歳の胃袋は、もはや限界だった。


「我慢なさい。私だってお腹すいてるのよ」


 真理子はそんな妹のはしたない空腹アピールにため息をつきながら体を起こした。肩まで伸びた黒髪には藁が何本も絡みつき、中学校の制服はひどく皺くちゃだ。妹と同じように空腹感はあっても、その切れ長の瞳はどこか冷静さを保っている。


 隣でセーニャもうつむき加減に体を起こした。いつもだと悪夢にうなされるかのような長い夜だったが、二人が添い寝してくれたおかげで短い夜を過ごせたようだ。栗色の三つ編みはほつれ、薄緑色の瞳は泣き疲れたように少し赤いけど、目覚はよく意識もはっきりしていた。


「お二人とも、もうすぐ牢番が朝食を持ってくるはず……です」


 セーニャのその言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、鉄格子の向こうから下卑た笑い声が聞こえてきた。


「おう、お姫様たち、お待ちかねの朝飯だぜ」


 牢番が三人分の木のトレイを、まるで犬に餌をやるかのように無造作に床へ滑らせて寄越した。トレイの上には、小ぶりなパンが二個と一塊のチーズと小さな皿に入ったミルクが乗っている。


 あとは這いつくばって食え、と言わんばかりだ。


「ちょっと、あんたね!せめて手ぐらい――」


 抗議しかけた真理子の言葉は、隣からのすさまじい気迫にかき消された。


「いただきますっ!!!」


 優華は目を輝かせながら、藁の山から転がり落ちる。そのまま立ちあがるのではなく、這いずるようにしてトレイへと突進。手が縛られたままでも問題ないっとばかりに、パンへと直接かぶりつく。

 後ろからみたら、パンチラを通り越したパンモロしてようともお構いなしだ。


 地下牢にもぐもぐとした咀嚼する音が響く。


「……んんーっ!美味しい、表面は焼き立てのぱりぱりで中はもっちもち!」


 その食いっぷりは誰がどうみても犬そのものであり、あまりにも堂が入ってるせいでパンモロしてる尻からぶんぶんと振っている尻尾の幻影まで見えてくる。

 真理子は顔を真っ赤にし、信じられないものを見る目で妹を見下ろした。


「ちょ、ちょっと優華!プライドはないの!?」


「ぷらいど?なにそれ食べられるの?このチーズもバターみたいでね、パンと一緒に食べると最高だよ!ミルクも甘くてコクがあって美味しいし、お姉ちゃんも早くしないと無くなっちゃうよ!」


 優華は瞬く間に自分の分を平らげると、今度はむくりと上体を起こし、目を爛々と輝かせながら真理子とセーニャのトレイを交互に見つめ始めた。


 その視線は、あまりにも純粋で、あまりにも欲にまみれていた。


「わ、私のパンを一個ぐらいなら……?」


「セーニャ、ダメよ。あの目は『一個ぐらい』じゃ済まない時の目だわ。いい、優華には絶対やっちゃダメ」


 真理子は知っていた。伊豆木家は母子家庭であり、家計を真理子の秘密裡に行っているアルバイト(一例がコス衣装作成の受注)で補完してる程だ。

 当然、育ち盛りが満足行く量を確保できない日も出て来るから……あとはわかるな?っである。


 真理子はセーニャに被害者としての顔でしっかり念押ししてから、過去の悲劇は繰り返させないっとばかりに半ばヤケクソ気味で這いつくばってパンにかじりついた。

 いろいろと察したセーニャもそれに続く。二人が必死に朝食を胃に流し込む横で、優華はまだ物欲しそうに二人の口元を凝視していた。


 ――ニヤニヤ。


 鉄格子の向こうで、牢番がさも愉快そうにその様子を眺めていた。


「いいねぇ、お上品なお嬢様方も、腹が減りゃ畜生と同じだ。その姿がお似合いだぜ」


 真理子の中で、何かがチリッと音を立てた。


(なにが畜生よ。あんたたちがこの状況を作ったんじゃない)


 しかし、ここで抗議したところでただ牢番を喜ばせるだけ。真理子は怒りをぐっと飲み込み、無言でミルクをすすった。甘くてコクがある、新鮮搾りたてのような味が疲れた体に染み渡るようだった。


 こうして犬食いで朝食を完食させた三人。門番はトイレの世話こそできなくなっても、セーニャとは違って活きの良い囚人が二人も加わった事で不満は相殺となったようだ。

 満足げな顔で空となったトレイを下げていった。


 足音が遠ざかると、地下牢はまた静寂に包まれる。

 優華は満足げにげっぷを一つついた。


「ふぅ、生き返ったよ!やっぱりご飯は大事だね、お姉ちゃん!」


「全く……あんたのそういうとこ、異世界でも変わんないのね」


 真理子は改めて壁にもたれかかりながら、まじまじと自分の足先を見つめた。通学用のローファー。黒くて、少し使い古されてはいるが、ちゃんと両足にある。


 おかしい。


(昨日の夜に、ようやく頭が回るようになって気づいたのよね)


 真理子は昨日感じた違和感を、今度こそ言語化しようと口を開く。


「優華、ちょっと聞いて」


「ん?なあに、お姉ちゃん?」


 真理子はセーニャにも聞こえるように、少し声を張った。


「私たち、捕まった時におかしいと思わなかった?ここの人達、縛り方はプロなのに、私たちの持ち物を一切調べなかったでしょ。もしこれで、私と優華のどちらかがカッターのような刃を持ってたら、厳重な縛りも全くの無意味になるじゃない」


「え?……あ、そういえば!」


 優華は後ろ手に縛られたまま、指をパチンと鳴らそうとして失敗した。

 真理子は続ける。


「それに、私たちがここに来た時、家のリビングから直接飛ばされたはずよ。なのに、なんで私たちはちゃんと靴を履いてるの?あの時は裸足だったのに」


「あ、本当だ。あたし達、なんで靴履いてるんだろうね」


 優華も自分の足元を見る。いつもの普段履きしてるスニーカー。今まで気にしてなかったが、指摘された事で初めて気づいた。


「これって、誰かがわざわざ私たちの家から靴を持ってきて履かせたってことよね。それって裸足で転移する私達に配慮してる事になるじゃない。そう、配慮といえばトイレ事情もね。見た目はとても粗末だけど、清潔な現代トイレに慣れてる私達でもそこまで嫌な臭いが漂わない。おまけに傍にはちょっと濁ってるけど手洗いに使えそうな水が貯められてるわけだし、これって……おかしくない?」


「え、えっと……他所がどうかは知りませんけど、普通はこうじゃないんですか?」


「セーニャ、実は違うのよ。中世ファンタジーな世界で主人が使用人の生死を自由にできるような法律があるのに、地下牢に入れられるような最下層の囚人に、わざわざこんな水回りが整備されたトイレを用意するわけがない……よね?優華」


「あーうん、大体の小説はそこまでの詳しい描写ないけど、資料だと壺をトイレ代わりにしてるパターンがあったとか……そう考えると、ちょっとおかしいかも?」


「そう。そして、一番のおかしい点はここよ。私たちは立ち入り禁止の書斎に、いきなり現れた不審者よ。普通なら、その目的やら背後関係やら侵入経路やらを聞き出すためにも、まずは尋問するべきでしょ。なのに今の今まで、誰も私たちに何も聞きにこない。まるで、私たちをここに閉じ込めておくこと自体が目的みたいじゃない?」


 優華はポカンと口を開けていた。


「本当だ!言われてみれば全部おかしいよね!あたし、本格的な後ろ手縛りでの監禁シチュエーションで頭がいっぱいで、全然気づかなかったよ!お姉ちゃん、すごい!」


「あんたが周りを見なさすぎなのよ……」


 真理子がいつもの調子でツッコミを入れようとした、その時だった。


 コツ……コツ……コツ……


 地下牢へと近づいてくる靴音が聞こえてきた。先ほどの牢番とは違う意味で嫌な気配を纏う何かが近づいてくる。


「予想通り今日も元気そうだな。まぁ、ここのなかなか美味い飯を食って腹が膨れれば上機嫌となるのは当然といえば当然か」


 現れたのは、ブランシェール家私兵隊長、バルド・クレンヌだった。


 彼は短く刈り込んだ薄茶色の髪を手でかき上げ、顔に走る古い刀傷を歪めながら笑っている。でも、目が笑っていない。爬虫類めいた灰色の目が、牢の中の三人をじっくりと観察し、品定めしている。


「……っ!」


 セーニャが小さく悲鳴を上げ、優華と真理子の陰に隠れるように後ずさる。


「何しに来たの?まさか、ただ様子を見に来ただけって言わないでしょうね」


 気圧されないよう真理子が強気でバルドへと問いかけると、彼はにやりっと笑う。


「尋問だ。ギルベール様がわざわざお前さんたちに会いたいとよ。光栄に思え」


「…………」


 真理子は思わず無言で優華と顔を見合わせた。

 この世界の“神”が真理子の指摘を聞き、慌てて尋問シーンを付け足したのかのような展開に対して出した結論は……


(フラグ回収早すぎでしょ!本当に一体この世界は何なの!?何が目的で私達を転移させたの!?)


 そんな想いを抱く真理子だが、バルドはゆっくりと考える時間を与えない。

 地下牢の扉を開けるや否や姉妹の縄をそれぞれの手で掴み、地下牢の外へと引きずりだした。そのまま立って歩けっとばかりな態度に、姉妹は黙って従うのであった。

トイレといい、犬食いといい、これらはもう作者が一番『調子こいた結果がこれだよ』な気がしてならないヾ(:3ノシヾ)ノシモトモトアソビデカカセテタモノダカラシカタナイノデアル

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お腹が空きました。ご飯が来ました。……足で器用に食べないんだ?何かのマンガとかアニメだとナイフとフォークでステーキを食べていたんだよね(うろ覚えなんだけどゾイドバトルの主人公だったかな。ライガーゼロを…
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