2.理不尽に抗え!――姉妹の絆と脱出の糸口(後)
姉妹は仲良し。これ、本当にそう思う。
「ふふ……お二人とも、本当に仲がよろしいんですね」
姉妹のやりとりをみていたセーニャはくすっと笑う。
久しぶりに笑ったような気がする、そんな事を思うセーニャに優華は照れながら返事した。
「えへへ、やっぱりそうみえるよね!」
「私としては、こんな変態と仲良しとか勘弁してほしいわ」
真理子は口だと悪態つきながらも、妹から離れようとはしなかった。
そんな姉妹にセーニャはうつむき、申し訳なさそうに伝える。
「それで……あの……私も……お手洗いに……。お願い、できますか……?」
「もちろん!セーニャもお仲間だね!」
優華は快く引き受ける。
セーニャのメイド服はワンピース型なので、スカートをまくり上げて胸縄にひっかける事で固定。
スカート中の下着、中世でおなじみなドロワーズを下ろし、恥ずかしそうにしながらも無事に終えるのを見届け、後始末の全てを済ませた優華はふと気になって尋ねた。
「ねえ、セーニャ。あたしたちが来る前は、どうやってトイレしてたの?後ろ手で縛られてるのだから、どうあがいても一人じゃ無理だよね?」
セーニャの肩がビクンと震えた。
「……牢番の、男が……『世話をしてやる』って」
「……どういうこと?」
真理子の声が低くなった。
セーニャは今にも消え入りそうな声で続けた。
「あの男、いつもニヤニヤ笑いながら見てるんです。私が用を足すところを、正面からじっと……それで、『早くしろ』って……。ひどい言葉も、たくさん……」
「なにそれ!そんなの絶対おかしいよ!!」
優華の声が牢獄に響いた。滅多に聞かない、彼女の怒りの声だった。
常人には理解できない思考回路を持つ優華であっても、他者が本気で嫌がる事を強要させるのは許せない行為だったようだ。
真理子は妹が人としての大事な道徳心を持ってくれているのだとひそかに感激していた。
「なるほどね。だからセーニャはいつも怯えてるのね。そういう目に遭わされ続ければ、そりゃあ焦燥感も積み重なっていくわ」
優華が先に怒りだした事で逆に冷静となった真理子は労わるようにして宥めるが、その声の奥にも静かな怒りが込められていた。
「でも、もう大丈夫だよ!今度からはあたしたちが手伝うから!絶対にあの変な男には世話させない!」
優華は力強く宣言した。
「そうよ。一人じゃないのだから、これからも困った事があったら遠慮なく私達を頼りなさい」
真理子も優しくうなずく。
そんな二人に向かって、セーニャは嬉し涙を流しながら深く頭を下げた。
「ありがとう、ございます……。お二人とも、本当に……」
彼女の声は涙で濡れていたが、それはもはや絶望の涙ではなかった。
――その直後。
「ふあああああ」
優華が、大きなあくびをした。
「尿意の次は眠気かい。あんたって本当にマイペーs……」
真理子が呆れて突っ込もうとしたが、次の瞬間。
「ふああ」
真理子自身も、大きなあくびをしてしまった。
「あれ?お姉ちゃんもじゃん!」
「う、うるさいわね。あんたのが移ったのよ」
真理子はそう誤魔化したが、よく考えてみれば無理もなかった。ろうそくの灯りだけが頼りの地下牢では時間の感覚はわからないが、いつもならとっくに寝ている深夜帯のはずだ。
「……確かに、今は何時なんだろうね。あたし、もう眠くて仕方ないよ」
「まぁ……焦って脱出を急いでも、それで途中に体力を使い果たしたら目も当てられない状況になるわ。今日はもう休みましょう」
真理子がそう言うと、セーニャもホッとしたように息をついた。彼女もなんだかんだと極度の緊張と恐怖で、心身ともに疲れ切っていたのだ。
三人はトイレとは反対の隅に積まれた藁の山に近づく。薄汚れた布が一枚かけてあるだけの、粗末な寝床だ。
「こんな場所で……ごめんなさい、大したおもてなしできなくて」
「気にしないで!あたし、こういうの結構好きだよ!秘密基地みたいでワクワクする!」
優華はそう言って、藁のベッドにゴロンと転がった。後ろ手に縛られたままなので、横向きになる。
真理子も隣へ横になり、セーニャもその反対側へ横となる。
三人は自然に、体温を分け合うようにして身を寄せ合った。
地下牢は寒く、藁はチクチクして、とても快適とは言えない。
セーニャはそんな寝床で毎晩を過ごしていたのだ。恐怖と不安でとても熟睡できなかったが、今夜は同じ境遇の者が居る。文句を垂れるのではなく、気に入ったとばかりな明るい態度が、恐怖と不安を吹き飛ばしてくれていた。
「……おやすみ、お姉ちゃん……おやすみ、セーニャ……」
優華の声はもう眠気でとろんとしていた。
「おやすみ、優華。おやすみ、セーニャ」
「おやすみなさい……。優華さん、真理子さん」
間もなく、優華の小さな寝息が聞こえ始め、セーニャの呼吸もすぐに規則正しいものへと変わっていった。
そんな中でも真理子だけはまだ意識があった。目を開けていた。彼女は寝床の中で、今日一日に起きた出来事を静かに振り返り始める。
(優華と一緒にパソコンを見ていたら異世界に飛ばされた)
(いきなり捕まって、本物の縄で縛られた)
(縛られたままの状態で歩かされ、地下牢に入れられた)
(そこにいたセーニャは小説のヒロインで、このままだとひどい目に遭う)
(優華の縄知識のおかげで脱出の目処が立ちそうなのに、尿意で全部台無しになって、お互いにトイレを手伝うハメになった)
すべてが非現実的で、理不尽で、わけがわからない。
でも――。
真理子は、今の状況でおかしな点があることに気づいた。
(そういえば、なんで私達は身体検査されなかったの?)
捕虜は武器や怪しい物を隠し持ってないか、牢屋へと入れる前に身体検査をするのが基本。
だが、姉妹はそうした検査を受ける事なく縛られて地下牢に入れられた。
これでもし、優華と真理子のどちらかがナイフを持ってれば、厳重に縛ってても全くの無意味。
まぁ、真理子が持っていたのはナイフではなくハンカチだったので身体検査を行う必要なかったわけだけど、それはあくまで結果論に過ぎない。
真理子は先ほどまで縄抜けやら脱出の方法やら優華への突っ込みやら……(自主規制)……で頭がいっぱいいっぱいであり、それ以外の事を考える余裕が全くなかった。
それが今、一人になってゆっくり状況を整理していくと、他にもいろいろおかしな点がある事に気付く。
おかしな点を改めて精査していくうち……
すやぁ……
真理子の意識は闇の中へと沈んでいった。
ギャグシーンが、世界の秘密に迫るヒントとなる。
っていう伏線をトイレの後に思いついたので組み込んでみたw




