1.異世界転移でいきなり監禁!?――歓喜の妹と絶望の姉(中)
原作での主人公でヒロインと会合。
もしこれで男だったら……とりあえず、おまわりさんこっちですっとでも言っておこうw
姉妹がくるりと声の方向へと振り向く。
視線の先の暗がりには、姉妹と同じく後ろ手に縛られたメイド服の少女が一人いた。壁に寄りかかった状態で不安げに二人を見ていた。
涙で濡れた、透き通るような薄緑色の瞳。淡い栗色の長い髪をサイドで三つ編みにしてるけど、ほつれた毛が顔にかかって、すごく痛々しい。
彼女は泣き腫らして目を真っ赤にしながら、震えてた。
「あなたたちは……?」
「あ、あたしは伊豆木優華!こっちは姉の真理子!よろしくね!」
「よろしくって、そんな簡単に……」
「だって、こんな状況で出会うなんて、なんか運命感じちゃうじゃない?それで、あなたの名前は?」
縛られたままであっても笑顔な優華。彼女はそのままにこにことしながらメイドの少女に名前を聞いた。
「私はセーニャ……セーニャ・ミュレです。ブランシェール家の新人メイドで……」
セーニャ。
『フォンティーヌの囚われ姫』での主人公を兼任するヒロインと同じ名前だった。
真理子は思わずセーニャのメイド服を凝視する。本物のセーニャなのか、挿絵を元にして手作りしたメイド服と同様か、細部をじろじろとみつめてくる真理子の目線にひっと怯えた事でハッと我に返る。
「ご、ごめんなさい。別に怖がらせるわけじゃないから」
「うんうん、それによくみてよ。あたし達も同じ境遇なんだし、怖がる必要なんてないでしょ。ほらほら」
セーニャを安心させようと、クルリっと振り返って縄できっちりと縛られてる両手をアピール。
真理子も優華の隣で後ろを向き、姉妹そろって後ろ手で縛られてるアピール。
姉妹が必死に無害アピールしてくる様子に安心したのか、少し落ち着きを取り戻したそうだ。
その後はセーニャに何があったか、なぜ縛られて地下牢に入れられたかを聞き、彼女は震える声でぽつりぽつりと自分に起きた事を話し始めてくれた。
「三日前……書斎の前を通った時、中から声が聞こえて……」
普段は許可なく立ち入ってはならない区間、その奥にある書斎には誰であろうとも近寄ってはならないと教えられた。
それを周囲が暗く、まだ新人だったせいで通路を間違え、気付けばその立ち入り区間の書斎前まで迷い込んでしまったのだ。
自分が立ち入り区間へと入った事に気付き、慌てて引き返そうとしたら、少しだけ開いている書斎の扉から話し声が聞こえた。本来ならすぐに引き返すべき……だけど、人は禁止されるほど、破りたくなるもの。一体誰が何をしているのかっと、十二歳という子供特有の好奇心に負けて、開いてる扉から中をそっとのぞき込む。
「そこでは……ご主人であるギルベール様が……フードを被った怪しげな男の人と……最近は規制が厳しくなったとか、偽造書類ならこちらで用意するとか、例のブツが手に入ったらまた頼むっと、話していて……」
禁制品の闇取引が街で噂になってた事もあって、これが禁制品の闇取引の真っ最中なのだとわかった。
気付かれたら全てが終わる。急いで静かにここから離れなければならない。
「そう判断したまではよかったのですけど、あまりに動揺していたせいで、足がもつれて転んでしまい……その後は……ギルベール様に見つかって……私兵隊長のバルド様に……淡々と命じたのです」
「縛って地下牢に放り込めっとね」
セーニャはこくりと頷いた。
「うん、そこは原作通りか」
優華は頭の中で、さっきまで読んでた小説の設定を思い出す。
ファレーヌ王国の東部辺境を治めるブランシェール家。五大貴族の一つで、表向きは香辛料貿易の名門だけど、裏では禁制品の取引をしてる設定であった。
王国には使用人守秘令と呼ばれる悪法があり、主人の秘密を知った使用人は、主人が自由に処分できる。
「約百二十年前にできた使用人守秘令ってやつだよ。貴族家の使用人が主人の秘密を漏らしたら、主人に処分権が認められるっていう」
「なんでそんなことまで知ってるの!?」
「だって小説のこぼれ話として欄外に書かれてたもん」
「あんたね……」
ふふんっと鼻を鳴らす優華に真理子が深いため息をついた。
でも、問題はこれからである。
原作だとセーニャはこの地下牢で縛られたまま一週間も過ごす。
最初こそなんとか逃げ出そうとするも、その試みの悉くが失敗。最後にはもう全てを諦めた絶望の表情で遠くの施設へと移送。
そこで何をされたかは規制コードもあって具体的な描写は避けられてたが、とにかく彼女は救出されるまで、エロ同人みたいな乱暴を受ける展開が待っているわけだ。
「ねぇ、セーニャ。このままだとまずいことになるよ。多分、数日後にどこかへ連れて行かれるよ。そこでここよりもひどい(エロ同人みたいな)乱暴な目にあわされるよ」
「……やっぱり、そうなるんですね」
セーニャの目から、また涙がこぼれた。
だけど、優華は逆にワクワクしていた。
ワクワクすると同時に、ある感情が自身の中に生まれ始めていた。
「大丈夫!あたしがなんとかするから!」
「どうやって」
「まずはこの縄をなんとかして、ここを抜け出すの!そしたらセーニャを助けられるでしょ?」
「あ、あんたが助けられるヒロインじゃなく、助けるヒーロー側の立場になるなんて、珍し過ぎだわ……」
「それは……そうかもしれない」
優華は先ほどまで、自分が縛られることに興味を向けていた。
でも、同じように縛られて泣いてる子を見て、放っておけなくなったのだ。
自分にもこんな正義感があるんだなっと思った、その時だった。
「おしゃべりの時間は終わりだ」
鉄格子の向こうから、低い声が響いた。
大きな影が、壁の燭台の灯りに照らされて、ゆらゆらと揺れてる。
「ひっ……」
セーニャが小さく悲鳴をあげて、壁に身を寄せた。
現れたのは、長身の男。短く刈り込んだ薄茶色の髪。顔の左側に、古い刀傷があって、そこだけ髪が生えてない。灰色の細い目は、まるで爬虫類みたいだ。笑っているようにも見えるけど、みえるだけで実際は笑ってない。
それが、私兵隊長バルド・クレンヌだった。
元傭兵で、いくつもの戦場を渡り歩いてきた男。命令に忠実で、相手が女子供だろうと容赦しない。小説通りの、冷たい目をした男であった。
「まだ元気があるようだな。結構なことだ」
バルドは、鉄格子に手をかけて、三人をじろりと見渡した。
「お前たちは、余計なものを見た。ブランシェール家の秘密を知った以上、命があると思うな!」
お前は知り過ぎた……
でも、後々この言った本人が一番知っちゃいけない事知っちゃうというオチがあったりなかったり(ぇ




