番外2.新たな主人公が描く、盗らぬ皮算用のなんとやら
新しい主人公がログインしました。
「貴女がブランシェール家に新しく雇われた新人メイドね」
いきなりの事で、私は呆然とした。
―——
私はどこにでもいる、乙女ゲームが大好きなOLだった。
最近はその亜種ともいえる、現代人が乙女ゲームへの異世界転生した小説も読むようになった。
異世界転生したヒロインの行動について、私は思う。
「こいつら馬鹿じゃね?」
私だったら、こうする。
私だったら、そんなヘマをしない。
私だったら……
そんな事を考えてたせいで、私はいつしか飽き飽きした現実から抜け出して小説世界に行きたいな~っと思いはじめた。異世界に渡る手段を探しはじめた。
まずは軽く、ネットで検索かけてると、〇chに最近できたスレがひっかかった。内容はある小説をベースとした異世界に転移体験してきたというもの。
読み解いていくと、同じ体験をした者が続々と書き込みしており、これは何かあるっと思って件の小説『フォンティーヌの囚われ姫』を読んでみた。
内容は主人公の成り上がりモノの冒険譚。最後は想い人と一緒になれるから恋愛要素もある。
「でも、この世界に転移した人の体験談を聞く限り、皆主人公のセーニャを助けるために奮闘してるわけだし、クソ真面目よね~私だったらもっと上手く立ちまわってやるのに……例えば」
スマホ片手にあれこれっと、もし私がこの世界に降り立ったらを考えてたら――
パチンっ!
いきなりスマホが光り輝き、思わず目を瞑る。そっと眼を開けたら、目の前のお局様っぽい雰囲気を出すメイドから冒頭の台詞を言われた。
一瞬何を言われたのかわからなかったが、周囲を軽く見渡し……理解できた
(私、小説世界に転移したんだ!)
「貴女、いくら貴族様の屋敷が珍しいからってキョロキョロしないの!」
「は、はい!!」
相手がお局オーラを出してる事もあって、ついビシッと姿勢を正す。
今は周囲を探るのではなく、相手の話を聞いての情報収集にあたった。
(ふむふむ……今の私は小説の前半の舞台となるブランシェール地方を治める貴族の屋敷の新人メイドっわけね)
話が終わり、使用人専用の相部屋へと案内され、一人になってから改めて自分の手をみる。
いつもより一回り小さい手。腕はすべすべとしており、顔も張りがある。
鏡があったので、覗いてみる。そこに居たのは……
(やっぱり、今の私は20代後半から10代前半。10歳以上も若返ってる。これで、ここに来た時の違和感が解決したわ。後は……)
ガチャっと扉が開いた。
振り向くと、そこに居たのは栗色の髪にサイドでおさげをしたメイド。
「初めまして。貴女の事はメイド長のメイ様から聞きました。私は同じ部屋の利用者となるセーニャと言います」
セーニャだった。
小説や体験談にはない筋書。自分自身が移転者ではなく、最初から居た住民の立場に戸惑いつつも、とにかく私は小説世界に転移したのがわかった。
なら、私がやる事は……一つ。
「私は〇〇〇と言います。今日採用されたばかりの新人ですから、これからもよろしくお願いします」
“セーニャの立場、やんごとない血筋の立場を私が奪い取る”
そのため、まずはセーニャを初めとした周囲に警戒心を抱かれないよう、礼儀正しい新人メイドの態度を取る事とした。
―——
新人メイドとしてブランシェール家の雑用に精を出す事一ヵ月。
私は仕事を真面目にこなす傍ら、ブランシェール家の警備状況を調べた。
(ふむふむ、警備は私兵隊長のバルドが担当。バルドとその直属は真面目だけど、下の方は不真面目。隊長とその直属はギルベールのお供としてよく外へと出てるわけだし、その日を狙って秘密の通路を使えば、例の書斎に潜り込めそうね)
その隊長と直属がギルベール様と共に外へと出かける日が予想より早く来たので、私は早速例の秘密通路を使って書斎へと侵入。
宝物庫から、やんごとない血筋の証明となる例の『鍵』と、金銀財宝をごそっと着服。
ついでに、セーニャの髪留めを書斎の床へと捨て、金銀財宝の一部をセーニャのベッドの下に隠せば……
「ち、違います!!私じゃありません!!信じてください!!」
書斎に侵入した罪で地下牢へと連行されていくセーニャに、私は心の中で『計画通り』っとほくそ笑み、如何にも『先輩の事を信じてたのに』っと被害者を装いながら見送った。
(原作だとセーニャは地下牢で一週間を過ごした後、遠くのやばい施設へと身柄を移され、そこで1年間過ごす。その後にいろいろ自身のやんごとない血筋に関するイベントが起きるわけだけど……そのイベント、私が先に起こさせてもらうわ。この『鍵』を使ってね)
この後、私はそれらしい理由を付けてブランシェール家のメイドを辞めた。
ブランシェール家には下品な男が多数居る事もあって、私みたいに辞めてしまう若い娘はそれなりに居るそうだ。
メイド長も無理強いはせず、仕事ぶりを評価してくれたから紹介状も用意してくれた。
小言は多かったけど、同時にこうした配慮もしてくれるメイド長。現実でのお局とは雲泥の差だった。
(ギルベール様は小説だとヘイトを貯めまくるテンプレ的な無能親父だけど、こちらは悪党でも大物感溢れる有能な紳士だった。私兵隊長のバルドも装いや態度は極道そのものだけど、一般人や私達使用人に手を出す事はしないどころか、私達を見下したりちょっかいかけたりする下品な部下を拳で諫める等、義を重んじる任侠モノのヤクザといった振る舞いをしてる。
案外このブランシェール家のメイドって余計な事しない限りは勝ち組の部類なのかも……?)
一瞬、決心が鈍りかけたけど振り切った。
今まで転移してきた人は、全員無難な選択を取ってきた。
欲を出さない、その良い子ちゃんスタイルを頭が悪いっと馬鹿にして来たのだ。
そんな私が、いざ本番になって良い子ちゃんスタイルを貫けば……
(そうよ……この世界は小説世界!この先何が起きるか把握してる私は、皆が羨ましがるような富と権力を手にできる!!だから……私は、この世界で……成りあがる!!)
私はやんごとない血筋の証明となる『鍵』を握り絞めながら、決意新たに新天地を目指した。
でも、この世界の創造主って悪魔なんだよねぇ……
悪魔の腹の中に等しいような世界で、欲望丸出しで行動したらどうなるかなんて、タイトルが全て物語ってるでしょうw




