6.消える命の灯!――最期に妹がみたもの、それは……(後)
あれから、何事もなかったかのように物語が進みました(ぇ
バルドが執務室を訪れると、当主であるギルベールが優雅に椅子に腰掛けて各報告書に目を通していた。白髪交じりのダークブロンドの長い髪が、窓から注がれる日の光に照らされている。
「バルド。昨夜は大変だったようだね」
「えぇ、あいつらやってくれましたよ。それで失態をおかした奴等の正式な処分ですが」
「それは後でいい。先に泥棒の片割れに関しての報告を聞こう、あれは口を割ったかね?」
ギルベールの青い目は、笑っていた。本来なら何人かの首が物理的な意味で飛ぶほどの大失態だというのに、彼はこれも一興とばかりに落ち着き払いながら楽しむ姿勢を取っていた。
「いえ……あのガキ、イカれてます。何発打っても、へらへら笑ってやがります。こうなれば、次は奴を屋敷の外で領民達にみせつける事で」
「それは悪手だから止めたまえ。泥棒とはいえ、あのような年端のいかない幼子を公開処刑するような真似をすれば領民から反感を招く」
「なら、どうするっていうんですか?」
「どうするもなにもない。ただ、認めるだけだ。この度の失態、それは全て私の責。私の慢心が招いたものなのだと」
ギルベールは隣に控えている老執事に……先代からブランシェール家に仕える忠臣なのに、なぜか今初めて見たような気がする老執事に紅茶を入れさせた。注ぎ立ての上品な紅茶の香りを楽しみつつ、中身を一口含む。
その一口でもう一段階心を落ち着かせながら、独白を始める。
「改めて考えれば、これは必然だったのだ。今までが順調過ぎたせいで、私とブランシェール家は肥え太り過ぎた。そのせいで、慢心と余計な敵を生み出してしまった。ならば、この機会に余分な贅肉をそぎ落とてもよいだろう。
戦場で連戦連勝な指揮官のせいで痛い目をみた君なら、私の気持ちがわかるだろう?」
自身の敗北を宣言するかのような独白からの問いかけに、バルドはう~んっと少し考えてから応える。
「確かに、言われた通りですよ。俺の初陣はその連戦連勝の空気に酔って調子乗ってる指揮官の元だったせいで、直後の戦でとんでもない大敗を喫したのですからね。それ以後、俺は黙って命令を聞く駒である事を辞めたのです。
例えば、貴族様なんかだと戦前に『男には、負けると分かっていても戦わねばならぬときがある』と立派な演説を行ってましたけど、それに付き合わされる下の者はたまったもんじゃありません。ですから、そんなご立派な貴族様は……あれです。戦場で背中に致命傷を負わされる事が多いんですよ」
含みを漂わせるかのように、ニヤリっと冷酷な笑みを浮かべるバルドの言葉に、ギルベールは満足げな表情で頷いた。
「その通りだ。上に立つ者は冷静に攻め時と引き際を見極めなければならぬ。真に害悪となる者を損失覚悟で切り捨てる決断を下さなければならぬ。
そして、何よりも……己れの立場を可愛がっている者に真の勝利などない!!だからこそ私は――」
その時だった。
バンッ!
執務室の扉が、乱暴に開け放たれた。私兵の一人が、血相を変えて転がり込んでくる。
「隊長! ギルベール様! 一大事です!
領民たちが……街の者たちが、武器を持って屋敷に攻め寄せようとする気配が起きてます!
数は……続々と呼応してるため、最終的にどれだけ増えるかわかりません!
なお! その先導者は、報告によると……あのオレグ・ヴァシリエフだとか!」
ギルベールはこの報告を聞いて、慌てる事なくバルドに目くばせする。
それを見たバルドは察した。隣に控えている老執事が……あのオレグ・ヴァシリエフと裏で繋がってるという噂の老執事が、全く慌ててないところをみて、察した。
(あーなるほど。これは予定調和って事ですか。なら、俺の役目は……)
「慌てるな!まずは屋敷の防衛を固める!そのため、逃げた小娘達を追わせてる連中を呼び戻せ!」
「わかりました!」
バルドからの指示を受け、私兵が伝令へと走る。
その間にもギルベールは残っている紅茶をぐいっと飲み干し、立ち上がりながらバルドへと告げた。
「ブランシェール家に下品な男は不要。それを認識した上で、私と共に『銀の帳』の元へと下る部下と、捨て駒として切り捨てる部下を選別したまえ」
「わかりました。手始めに、あの牢番は真っ先に切り捨てておきましょう」
バルドは右手を心臓に置く一礼を行う。それは忠誠の証。あなた様にどこまでもお供しますという意思表示をこめた一礼だった。
その意思は本心から来たものなのか。
それとも、いちどばらしてつくりなおされたさいに埋め込まれた偽りのものなのか。
真実は……
“深淵”の奥底にある。
ちなみに、その捨て駒扱いにされた牢番だが……
他の捨て駒と違って敵前逃亡したそうだが、その後の行く末がどうなかったかは表向き伝わらなかった。
ただ、裏では『生きた達磨』と称して見世物小屋で惨めな生を送る羽目になったという噂があるとかないとか……
────────
地下の拷問室には、誰も来なかった。
燭台のろうそくはいつの間にか燃え尽き、辺りを闇に染めていた。
そんな闇の中、優華は両手を頭上高くに掲げた恰好で吊るされたまま、虚ろな目で地面をみつめていた。
(……あれから…………何時間ぐらい……経ったんだろう?)、
つま先にはもう身体を支える力がなく、手首には常に縄が食い込んで悲鳴をあげていた。鞭で裂けた身体中の傷口が、冷たい空気に触れてひりひりと痛む。
(寒い……)
時間が経つにつれて、体温が奪われていく。火照っていた体が、どんどん冷たくなって、指先の感覚がなくなっていく。
(お姉ちゃん……セーニャ……逃げ切れたかな……)
薄れゆく意識の中でぼんやりと考えた。
(あたし、ちゃんと役に立てたかな……)
誰もいない。身動き一つ許されない。真っ暗な空間に、自分だけが取り残されている。
(あぁ……これが、本当の独りぼっちってやつか……)
孤独が、痛みよりもずっと重く、優華の心にのしかかってきた。
(あたし……ここで……一人で……死んじゃうのかな……)
涙が、一筋、頬を伝った。
(でも、これでいいんだよね……あたしの役目は終わった。セーニャをハッピーエンドにする道に、もうあたしが手助けする必要……)
――いやだ。
優華は、無意識に身をよじらせる。縄が揺れ、ぎぃぎぃと軋む。
「……いやだ……」
声が、かすれた。枯れ果てたと思っていた気力が、涙と一緒にあふれ出てくる。
「いやだ……! あたし、まだ死にたくない! まだまだ、お姉ちゃんと……一緒に……!」
縄が食い込むのも構わず、優華は声無き声で叫ぶ。。
「神様……お願い……死ぬなら……せめて……せめて、お姉ちゃんにもう一回、会ってから……! それと……!」
涙でぐしゃぐしゃになった視界に、走馬灯のように姉の顔が浮かんだ。
『馬鹿! なに死ぬなんて言ってるのよ!』
怒っているのか泣いているのかわからない、姉の顔。
「お姉ちゃん……ごめん……でも……無理、こればっかりはどうしようもない……」
その時だった。
「優華!!どこに居るの!!居るなら返事して!!」
はっきりと、真理子の声が聞こえた。
優華は、最期の力を振り絞って頭を上げた。
(あぁ……幻覚だ……)
暗闇を切り裂く光の世界。涙でぼやけた視界に、見慣れた黒髪のセミロングが映る。肩で息をしながら、こちらに駆け寄ってくる姉の姿。
「……お姉ちゃん……よかった……死ぬ前に、幻でも会えて……だから……これだけは言わせて」
優華は、力なく笑った。
笑いながら……
「こんな変態な……愚妹のわがままに……ずっと付き合ってくれて……一杯遊んでくれて……お姉ちゃん……」
思い出を……ありがとう……ね
最期はもう声になったかどうかすら定かではない。
定かではないけど、冷静な姉ならきっと伝わってくれたと信じ……
優華は静かに、その意識を死神に、肉体を吊っている天井の縄に全てを委ねた。
いくら変態でドMな妹ちゃんでも、異世界なーろっぱの本格的な拷問……いや、あの薩摩芋ちゃんがかなり手加減するよう調整させてなお、耐えれるようなものではなかったようです。
でも、現代社会から来たチートも何もない小学五年生だからこれが普通なんですよねぇ。
もっとも、異世界なーろっぱ出身でもクズぷちっのお義姉ちゃんを基準にしてはいけません。
あれは鋼の剣を背中に受けても無傷どころか逆にへし折るような肉体強度を持つ、例外中の例外なんで(´Д`;)オマケニ、ウエニハウエガイルワケデ・・・・・・ホンマナンナンダヨアノセカイハ




