5.非情の決断!?――引き離される妹と姉の手(後)
知らなかったのか?フラグからは……逃れられない( ^ω^)
確かに、優華はフラグを立てた。
禁断の台詞を叫んでしまった。
だが、あれは本当の意味での必殺の一撃でもあった。
まともに食らえば、確実にダウン。非力な姉妹でもバルドに勝てる手段として、最初から仕込んでいた勝ち筋をフラグだからって覆すのは何か違う。
“黒幕”がそう思っていたら……
「うらぁ!!」
気合とともに、足を踏ん張って耐えた事に仰天した。
“黒幕”が用意していた筋書だと、今のバルドは金銀財宝を少しだけがめた際に発生するペナルティー。
勘が働いたバルドが書斎で立ちふさがるが、宝物庫に隠されていた現代武器。スタンガンだけでなく、拳銃やらバーロー御用達の腕時計型麻酔銃といった武器を見つ出し、命中させれば撃退できるルートだったが……
彼は耐えた。
本来の彼が持っていた歴戦の勘でもって、命中の瞬間に全身の筋肉を硬直。フラグに関係なく、彼は“黒幕”の描いた筋書を完全に無視して耐えきったのだ。
「……今のは、効いたぜ……クソガキがぁ!」
バルドの灰色の目が、優華の右手に握られたスタンガンを見据える。
「全く……危険とわかっててなお一撃を受けるなんて、俺もどうかてしてるぜぇ!!」
彼の手が、電光石火の速さでもって優華の右手首を掴みとった。
「痛っ……!」
小さな手首が、ミシミシと音を立てた。骨が軋み、その痛みに耐え切れず、指からスタンガンがこぼれ落ちた。
カラン、と床に転がる。
次の瞬間、バルドは優華の体を軽々と床に組み伏せていた。
「優華!!」
真理子は砕けた腰に喝を入れながら、床に転がっているスタンガンへと手を伸ばす。
しかし、バルドの威圧が再度彼女の動きを阻む。
それでも勇気を振り絞ってスタンガンを手にしようとする、その動きを優華が止めさせた。
「お姉ちゃん、約束通りに逃げて!!」
真理子の動きが止まった。
……約束。
彼女の脳裏に、隠し通路での妹の言葉が蘇った。
“敵に見つかってどうしようもなくなった場合、どちらかを囮にして逃げるよ”
(あの時は、私が……私が囮になるって、そう決意してたのに……!)
真理子は唇を噛みしめた。
現実は逆だった。自分が威圧に怯え、情けなく腰を抜かしたばかりに、妹が囮役を担ってしまったのだ。
「いや……いやよ!優華!そんなのできない!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」
床に押さえつけられながらも、優華は姉を見上げてにっこりと笑った。
「この人はね、尋問の後で釘を刺す際に、余計な事したら『とにかく拷問にかける』って言ったんだよ。つまり、あたしがこのまま捕まっても、ただ拷問されるだけで命はとられないってこと!それにさ、一回ぐらいは本気の拷問、受けてみたいんだよね。ピンチなほど面白そうだし!」
「……なに言ってるのよ、このバカ!!」
涙が、真理子の目から溢れ出した。
悔しかった。情けなかった。妹に守られるなんて、姉として最低だ。
でも、それ以上に……優華のこの言葉は、彼女なりの精一杯の強がりだと、真理子には痛いほどわかっていた。
(この子はいつもこうだ。普段はわがまま三昧なのに、いざという時は、自分の本心を隠して、いつも道理の振る舞いで、家族を……私を気遣う……!)
「いい覚悟だ、チビ。自分を囮にして姉を逃がすその自己犠牲の精神……悪くねぇ」
バルドが低く呟いた。
彼の手が、優華の細い首にかかる。
「だから、後はお姉ちゃんが選びな。妹を置き去りにして逃げるか?それとも、俺に致命傷を与えた武器を使って俺に挑んでみるか?
安心しな。姉想いな妹の心意気に敬意を評して、考えるだけじゃない。逃げ切るだけの時間も与えてやる」
彼の指が、ゆっくりと優華の首を締め上げていく。
「……ッ!……お、ねえ……ちゃ……」
優華の顔が苦痛に歪む。それでも彼女の目は、真理子に向かって『逃げて』と叫び続けていた。
苦渋の表情を浮かべながら、スタンガンへと伸ばしていた右手を差し戻す。
彼女は理解できていた。
スタンガンは初見殺しであり、すでに種が割れたしまった以上はもう通用しない。
彼女の目から、とめどなく涙が流れ落ちる。
(なんで……なんで、私にこんな非情な選択肢を突き付けて来るのよ!?)
頭ではすでに答えが出ていた。今ここで勝ち筋のない勝負を仕掛けるのではない、外に出てから新たな勝ち筋を探す。
これが今の最善手。
命ほしさの逃亡ではない。後々に勝利を得るための、戦略的撤退。
だから……
「……情けないお姉ちゃんで、ごめんね……優華……」
真理子はペンダントを胸に抱きしめ、一歩、二歩と距離を詰めていく。
右手が、ぎゅっと握られる。
そこには、さっきまで優華と繋いでいた手のぬくもりの残り香が、まだ残っている気がした。
暖かくて、小さくて、でも、確かな存在感があった手が……
(絶対に、助けに戻るから。絶対に、取り戻すから……!この手にもう一度、優華のぬくもりを取り戻すために……!!)
真理子は涙で歪む視界のまま、ゆっくりと移動し……瞬間、暖炉の隠し通路に身を投げ出した。
その様を本当に黙ったまま見送ったバルドは、優華の首から手を放し、ふん、と小さく鼻を鳴らす。
「本当に逃げちまったようだな、お姉ちゃんの方は。だが、その判断は正しいぜ。例え他に武器を持ってようとも、俺には勝てねぇ」
「……うん。でもね、次はわからないよ」
組み伏せられたまま、優華は小さく呟いた。彼女の声は、痛みのせいで少し掠れていたが、その目だけはまだ強い光を失っていなかった。
「……言ってろ、クソガキ。お前はこれから、拷問がどういうものかってもんを、その身でたっぷりと教え込んでやるぜ」
バルドは優華の両手を後ろへとまわし、その後はお約束っとばかりに縄をかけ始めた。
……………………
白い白い、どこまでも白い空間。
その中心に設置されたパソコンデスクには白衣を……あきらさまにサイズがあってない白衣を着た少女が、袖ごと掴んだ箸でポテチをつまみながら「うわ~~」と驚愕の表情を浮かべていた。
どこまでも深く、どこまでも暗い、“深淵”と称してもよい藍色の瞳で二つのモニターをみつめていた。
左のモニターには懐中電灯で照らされた隠し通路を走る真理子の姿、右のモニターは書斎でバルドに縛られていく優華の姿。
その両方に、ぬるりとした粘つくような視線を注いでいた。
「当初は筋書と違う展開で思わず介入しそうになったけど、ぐっと踏みとどまったおかげで美しい姉妹愛がみれたわけだし、これで良しとしようか。
でも、そうなると……次の展開どうするかだよねぇ。予め用意してた展開が全部おじゃんになっちゃったわけだし、大至急新たな展開を考えないと……」
その声は、人間の幼子のように、無邪気で、純粋で、穢れを知らない、故の強い強い幼子特有の残虐性が宿っていた。
しばしの間、う~んう~んっと少女は唸った。
腕を組みながら目を瞑り、咥えた箸を上下にプラプラさせ、デスクの上に組んだ足を乗っけ、まくれた白衣の裾からのぞかせる白いふとももを大胆に見せつけながら、いろいろな案を頭の中で描いては消して行く。
それを何度か繰り返した後、唐突にピコーンと頭上に電球が……本当に出現した電球が効果音付きで輝かせた。
「よし、決めた。もう尺の余裕がないことだし、次は原作を完全無視なご都合主義満載の超展開で行こうかな」
方針を決めたら即実行とばかりに、少女は虚空からキーボードを取り出し、カタカタとたたきはじめる。
その瞬間、世界が唸りをあげた。
世界の根本ともいうべく“理”そのものが、少女の意思一つで改変させられていく。
神のごとき“世界改変”を、少女は小説を書くかのような感覚で行いはじめた。
藍の瞳に宿す“深淵”で世界そのものを覗き込み、その口元を三日月のように歪ませながら……
いつのまにか、少女の背から先ほどまでなかった要素。
闇夜のような、深い深い、一対の漆黒の翼が出現していた。
ついに黒幕さん登場。
果たして、この少女はどこの薩摩芋なのだろうか……?_(:3 」∠)_チナミニ『マイモ』トイウオトウトクンモイタリスル




