4.決死の脱出劇!――妹の目指す先は大泥棒(前)
妹ちゃん「泥棒王にあたしはなる!(`・ω・´)キリッ」
このネタを使わせるため、タイトルを『大泥棒』にするか、『泥棒王』にするかで悩んでたのはここだけの話
地下牢の空気は、夜更けとともに一段と冷え込みを強めていた。壁の燭台で揺らめくろうそくの灯りだけが、三人の少女たちの姿をぼんやりと照らし出している。
優華は冷たい石の床へと座り込み、背中に回された手首の感覚に全神経を集中させていた。ギチギチと縄が擦れる小さな音が、静寂を切り裂く。
「お姉ちゃん、ちょっとここの結び目、指で押さえてくれない?」
優華が背中を向けると、真理子は心得たとばかりに、同じく後ろ手に縛られたまま器用に指先を動かした。セミロングの黒髪が肩から滑り落ちる。
「ここでいい?……でも、こんな手助けだけで、本当にこの縄が抜けれるの?」
「うん!この縛り方、一見ガチガチに見えるけど、荷重が一点に集中する構造なんだよね。だからお姉ちゃんがそこを押さえてくれれば、より緩みやすくなるはず!」
優華の声は弾んでいる。絶体絶命の状況だというのに、まるで新しいおもちゃを前にした子供のようだ。真理子は妹の背中に指を這わせながら、心の中で何度目かわからない悪態をついた。
(なんであんたは、こんな時でも生き生きとできるのよ……)
それでも真理子の指は正確だった。物心ついた頃からずっと妹をみてきたのだ。時には母親代わりとして接した事もあってか、優華がふざけてない時に限って意思疎通も容易だ。真理子が結び目の要所を押さえると、優華は自分の手首を器用に捻り、縄のテンションが抜ける方向へと力を込めた。
ギチ……ギチギチ……スルッ。
「やった!取れた!」
優華は自分の手を前に回して掲げた。手首には赤い縄の痕がくっきりと残っていたが、当の本人は満面の笑みを浮かべている。
「あんたね……縄抜けしたぐらいで、なんでそんなに嬉しそうなのよ」
真理子は呆れた声を出したが、その口元はわずかに緩んでいた。彼女自身も、妹のマニアックな知識がなければこの地下牢から出られないことを、嫌というほど理解している。
「だってすごいよ!これ、縄抜け防止策を二重三重にも織り込んでる知恵の環のような縛り方だもん!普通なら簡単に抜けられないけど、お姉ちゃんの補助があればこうやって――」
「解説は後!早く私とセーニャの縄も解きなさい!」
優華は慌てて真理子の後ろに回り込んだ。自由になった手で結び目を解いていく。あっという間に真理子を戒めていた縄が床に落ちた。
真理子は痺れる手首をさすりながら立ち上がる。縄の痕が痛々しいが、動かせないほどではない。縛る際の注意として、長時間は危険っと言われてるけど……ここは異世界。現代日本の常識に当てはめてはいけない事柄なのだろう。
真理子が視線を隣へと向けると、セーニャが薄暗がりの中で小さく震えていた。淡い栗色の三つ編みが解けて、顔にかかっている。薄緑色の大きな瞳は、期待と不安に揺れていた。
「セーニャ。今、解くからね」
優華が優しく声をかけると、セーニャはこくりと頷いた。優華の指が彼女の背中に回され、固く結ばれた縄に触れる。
少し時間がかかった。セーニャの縄は特にきつく、四日間も縛られ続けたせいで手首の皮膚が赤く擦り切れている。優華は慎重に、一本一本の縄目を解きほぐしていった。
「……あ、ありがとう……ございます……」
縄が解けた瞬間、セーニャは自由になった両手を胸の前で握りしめた。その手は小刻みに震え、涙が一筋、頬を伝い落ちる。
「すごい……自由に動く……手が……自分の手が……」
彼女は信じられないというように、指を開いたり閉じたりを繰り返した。手首の擦り傷が痛むはずなのに、それ以上に「自由であること」の歓びが全身を包んでいるようだった。
真理子はその様子を見て胸が熱くなりかけたが、すぐに現実に引き戻される。
「……喜んでるところ悪いけど、まだ問題はあるわよ」
彼女が指さしたのは、鉄格子の扉だった。
「あれをどうにかしないと、結局ここから出られない」
それを聞いた優華はにこっと笑った。大丈夫だ、問題ないっとばかりにその表情は晴れやかだ。
「うん、だからさ、『プランB』の出番ってわけ!」
「『プランB』?『プランA』は?牢番をおびき寄せて扉を開けさせてから不意打ちって話はどうなったのよ」
優華は首を振った。
「あれはリスクが高いよ。あたしたち三人がかりでも、大人の男の人を確実に無力化できる保証はないじゃん。それに、もし騒ぎが大きくなって応援が来たら、せっかくの脱出がパアになっちゃう」
真理子は目を見開いた。いつもは行き当たりばったりで突き進む妹が、冷静にリスクとリターンを分析しているのだ。
「……あんたでも、そうやって頭を使う事ができたのね」
「あたしだってたまには頭使うよ。でね、『プランB』だけど……それは」
それは……
優華が作りだす意図的な間にセーニャはごくりと息をのむ。
一体どんなプランなのかっと緊張する中、真理子はある確信を得ていた。
この空気だったら、絶対にこうする。
優華は姉に自身の魂胆がバレバレである事には気付いてても……それでも、あえて叫んだ。
「あー?ねぇよ、そんなもん!」
愚妹はお約束ネタを放った。
妹ちゃん「(`・ω・´)どやぁ」
お姉ちゃんの怒りが有頂天となった。
お姉ちゃん「(#^ω^)ピキピキ」




