3.ピンチはチャンスの始まり!?――拷問の後は絶好の好機(後)
乗るしかない、このビッグウェーブに(゜∀゜)o彡゜
バルドの足音が完全に消え、完全な静寂が訪れる。
しばらくは大人しくしていた優華も、鉄格子越しで本当にバルドが去ったかを確認。
自分達三人以外の気配がない事を確信した、その瞬間――
優華の口元が、にぃっ、と吊り上がった。
「……聞いた?お姉ちゃん。丸一日、いなくなるんだって!」
「え、ええ、聞いたわ。警備の大半も連れて行くって。つまり、ここはガラ空きになる。これは大きなチャンスよ。でも……」
楽観的な優華と違って真理子には、この如何にも今夜脱出してくださいっと言わんばかりな都合よすぎる展開に疑問を抱いていた。
それは、原作と正反対だったギルベールから感じ取った危機感や、バルドに脅された際に感じた恐怖すらも上回る。何者かの手のひらで踊らされているかのような感覚だ。
(果たして、このまま動いていいのか……)
疑問に思いつつ、ちらりと優華をみる。
優華は体中から喜びを溢れさせながら、その場でドドーンと胸を張っての仁王立ちでセーニャに宣言していた。
「セーニャ、今日は護衛がごそっと居なくなるんだよ!縄抜けも昨日の夜に目途は付いたし、仕掛けるのは今夜!皆が寝静まる頃合いを見計らって、こっそりとここから抜け出すよ!」
「本当に……本当に、ここから出られるんですか……?」
優華だけでは確証が得られず、真理子にも確認を取るセーニャ。
期待を込められた目で見られたら、答えなんて一つしかない。
一度目を瞑り、覚悟を決めた真理子は胸を張って宣言した。
「えぇ、私達に任せなさい!今夜には必ずセーニャを無事に外へ出してあげるわ」
優華だけでなく真理子からの宣言に、ようやく確信が得られたのだろう。
セーニャの瞳が、セーニャの薄緑色の瞳が、涙で潤んでいる。それはもはや絶望の涙ではなく、微かな希望に震える涙だった。
そんなセーニャに優華はにっこり笑って、どんっと体当たりするように寄り添った。
「そういうこと、全てあたし達に任せなさい!
セーニャはあたし達が責任もってハッピーエンドにつながる最短コースへと連れてってあげ……てもいいんだけど、ただ……ちょっと思うんだよね」
優華は一瞬間を置き、むず痒そうに体をくねらせた。
「こうやって捕まったんだから、一回ぐらい本格的な拷問を体験してもいいんじゃないかなって思うんだよね。
こう、鞭でバシッ!とか、水攻めとか……縄で縛られたら、やっぱり流れでそういう展開あるのがお約束じゃない?
でも、このまま平穏無事に脱出なんかしちゃったら、そのお約束がなくなりそうなのがちょっと残念なんだけど」
地下牢の空気が、一瞬で氷点下まで冷え込んだ。
真理子のこめかみに、青筋がピシッと浮かぶ。今まさに決死の脱出を決意したこのタイミングで……
世界を自由自在に動かす“神”のような存在が監視してるかもしれない中で、よりにもよって、よりにもよって、妹の口から飛び出したのはフラグを回収してくださいっとばかりなもの。
本来ならこれはまずいっと思うところだが、真理子はそれに気づくことなく……切れた。
今までの空気を台無しにするかのような、自分の性癖を優先する妹の発言に対して姉の頭の何かがプツンと切れた。……いや、切れさせられた。
「…………あんたねぇ」
真理子は縛られてる中学生とは思えない程の鮮やかな……なんらかな補正が入ってるとしか思えない動きで優華の背後に回り込むと同時に足払い。
そして……
「そんなに拷問を!受けたいっていうなら!この優しいお姉ちゃんが!可愛い愚妹のために!今ここで!その望みを!叶えてやろうじゃない!!!」
ゲシッ!ゲシゲシゲシッ!
転倒してもがいてる優華に向かって、容赦なく何度も蹴りつけては踏みつける。
フラグが立ったなら即回収、実姉のとにかく拷問タイムである。
「いやぁぁぁん!痛い!そこダメ!あーでも、これこれ!こういう理不尽な暴力!待ってましたぁ!」
「うるさい!このドMの変態が!なんでそんなに嬉しそうなのよ!なんでこう、せっかくの『イイハナシダナー』を『イイハナシダッタノニナー』に変えるのよ!」
「ま、真理子さん!おやめください!こんな時に暴力なんてダメです!」
セーニャが慌てて真理子の背中に縛られた不自由な身体ながらも体当たりをかまし、なんとか優華への蹴りを止めさせた。優華は床に這いつくばったまま、なぜか恍惚とした笑みを浮かべている。
真理子は大きく息を切らせて、その場にヘナヘナと座り込んだ。怒りと、呆れと、そして、ほんの少しの情けなさで、また涙が出そうになる。
「……あんたさえいなければ、私、もっと普通に生きられたのかな……」
その呟きを聞いて、優華はむくりと起き上がり、擦り寄るように姉の肩に頭をコツンとぶつけた。
「えへへ。でも、お姉ちゃん、あたしがいるおかげで、今もこうやっていつも通りの調子が出せるでしょ。一人だと、早々に心折れてるんじゃない?」
「そ、それは……折れてる……かも」
「だよね。だからさ、この先も頼りにしてるよ」
どこまで計算通りかはわからない。だが、これだけはわかる。
優華は自分が道化を演じてでも他者を励まそうとする、本心で他者を気遣う事もあるということだ。
セーニャはそんな優華を、泣き笑いのような顔で見守っていた。
おかしい……拷問ってもっと凄惨な描写がなされるはずなのに…… ( ゜д゜)
なんでこう、どこぞの姫様の“拷問”のお時間みたいな、笑いがこみあげてくるような描写になるのだろうか……( ゜д゜ )チラッ




