第9話 俺は何を言ったのか
俺がやっと登校出来たのはそれから2日後だった。
病院に行って診断書を書いて貰って、学校に提出しなければならなかったからだ。
結局、風邪と疲労が重なって熱が出たのだろう、という事だった。
インフルエンザや流行病じゃなくて良かった。
休んだ初日、理玖が家まで来て、なんだかんだと看病して貰った事は覚えている。
でも……
熱が引いて来て眠くなった時、俺……
何か変な事言わなかった?
理玖に誤解されるような事……言ってない?
自信がない。
メッセージアプリで礼は言えたけど、くっそ恥ずかしくて詳しい事は聞けなかった。
「何言ったっけなあ……俺」
今、俺は体育館のバスケットコートの外で、他の奴らと一緒に座り込んでプレイ待ちをしている。
クラスでいくつかに分かれて、今は理玖がいるチームがプレイをしている。
「姫ー! そこだ! 行け!」
「うおっ。ドリブルめっちゃうめえ!」
パスを受けた理玖が低い姿勢でドリブルし、相手の隙を付いて素早く潜り抜けて行く。
あまり背が高くないけれど運動神経は抜群だ。
周りをよく見て細かいパス回しで攻め込んで行く。
「そこだ!」
「シュート!」
最終的にボールが渡った彼がフェイントを掛けながら飛び上がり、シュートを決めた。
体育館内におおぉ! とどよめきが響く。
「カッケー!」
「さっすが姫!」
俺も立ち上がって拍手をした。
かっこいい。
勉強も運動も出来るし、気遣いも出来て優しいし、なんと言ってもあんなに顔がいい。
憧れるよなあ……
あれ? 俺、理玖が憧れだって本人に言った気がする……
うう……べ、別に良いよな?
今の理玖のシュートでちょうどチーム交代になった。
彼がそこらの奴とハイタッチをしながら側に来て、俺や六原ともタッチした。
「相変わらず上手いな。
部活に入ってないのが勿体無いぐらいだ」
「白藤君、凄いんだね。
背中に羽が生えたみたいなジャンプ力だね!」
俺の隣で六原も目を輝かせて言った。
「はは。サンキュ」
理玖が笑いながら言い、置いていた自分のタオルを拾って汗を拭いた。
俺と彼は小学校の放課後クラブでバスケ部に入っていた。
それから中学まではやっていたけれど、理玖は高校からは個人でしていた習い事に本腰を入れ出し、部活には入らなかった。
上手いけれど、ずっと続ける程の情熱はなかったんだろう。
そういう俺も今はバスケは辞めて写真部に入っている。
部活は週2ぐらいだ。
俺がプレイする番になった。
「湊、身体はもういいの?」
理玖が聞いて来た。
「まあ、なんとか。
ちょっと行って来る」
俺はそう返して、コートの中へと走って行った。
昼休みには、理玖を珍しく学食に誘った。
この前いろいろ買い出しまでしてくれたので、今日はなんでも好きな物を俺が奢ろうと思ったんだ。
六原は『織姫親衛隊』みたいな奴らに囲まれていたから、放っておいた。
俺はヒレカツ定食、理玖はオムライス定食を頼んで席に着く。
……オムライス、子供の頃から相変わらず好きなんだな。
「一昨日は来てくれてありがとな。
世話になったよ」
「うん。思ってたより早く元気になって良かった。
家まで押し掛けるの、どうかなって思ったけれど……
心配になっちゃってさ」
「いや、マジで動けなかったし助かった。
熱よりもまず熱中症とか餓死とかするんじゃね? って思ってたから」
「はは。それでよくインターホンに反応出来たね。
玄関で倒れ掛けた時はびっくりしたよ」
「うう。あんま記憶ねーわ。
恥ず……」
そういや俺、こいつに抱き支えて貰ったんだ。
細いのに力あるんだな……
理玖は気にせずご機嫌でトロトロの卵にスプーンを入れる。
チーズがたっぷりかかったデミグラスソースも美味そうだ。
久しぶりの学食は、大勢の生徒でガヤガヤと煩い。
いろんな料理の匂いも鼻をくすぐって来る。
俺達はお互いしばらく食べていたけれど、思い切って聞いてみる事にした。
「で、さあ……
ええと、俺、あの時お前になんか変な事言わなかった?
熱出てて朦朧としちゃってて……」
理玖のスプーンを動かしていた手が一瞬止まった。
意味ありげな瞳を向けて来る。
「あの時ね……自分が何言ったか覚えてないの? 湊」
「え。……あ、うん」
「へえ……あんなに甘えた事言ったくせに」
俺は箸を落とし掛けた。
「……マジで? 俺、何言った?」
彼がスプーンを置いて肘を付き、手に顎をゆったり乗せて返して来る。
「まあ、人前では言わないでおくよ」
顔に余裕の笑みが浮かんでいる。
「えええ?」
そんな恥ずい事言ったのか、俺。
どうしよう。今日は金曜日で、放課後は俺が部活で一緒に帰れない。
「え、え……じゃあ今度! 今度の休み、明後日一緒に出掛けよう!
その時教えて」
「あ、ごめん。
その日は用事があってダメなんだ……」
理玖が何故か頬を染めてそっぽを向いた。
なんだ?
用事って何があるんだ?
「また、改めて誘ってくれるかな……」
そう控えめに言った顔が、本当に可愛らしくて、俺は思わず見惚れてしまった。
お前がそう言ってくれるなら、俺はいつでも一緒に出掛けるぜ!
ああ。これって姫姫言ってる奴らと何にも変わんねーな。
アイツらの事、あんまり言えないや……
その時、俺達の近くに陣取っていた同じクラスの奴がたまらず立ち上がって言って来た。
「もうお前ら付き合っちゃえよ!!」
「モヤモヤするんだよっ!」
な、なんでそうなるんだー!
それに人の会話、こっそり聞いてんじゃねーぞ!




