第8話 本当の思い
終業になると塾に電話を入れて休みにし、ドラッグストアに寄って解熱剤とパックのお粥やアイス、スポドリなんかを買った。
それを持って湊の家に行く。
躊躇ったけれど、インターホンを押した。
暫くして掠れたような彼の声がした。
オレだと分かると、玄関を開けに来てくれる。
「理玖?」
パジャマのままで荒い息をした湊が、少し驚いた顔をして聞いて来た。
オレはレジ袋を差し出しながら言う。
「湊……家に誰もいないだろうし、熱で寝込んでるかと思って。
あと、これ。お粥とか買って来た」
「ありがと……実は朝から何も食べれてなかっ……」
「! 湊?!」
彼が倒れ込んで来た。
慌てて抱き支える。
「わ……」
……凄い熱だ。
玄関まで来させてしまった事を後悔した。
「ちょ……大丈夫? 部屋まで行けるか?」
「……」
返事が出来ないほど弱っている。
オレは靴を脱いで、そのまま肩を貸して階段を上がらせた。
部屋のベッドに寝かせると、緩くなってしまったアイスノンを交換してやる。
スポドリを少し飲ませて、何か食べたいか聞いたらアイスを欲しがったから、買って来た物を食べさせた。
水を汲んでやり、解熱剤も飲ませる。
暫くすると落ち着いたのか、横になった顔がやや楽そうになった。
「……ありがとう、助かったよ。看病慣れしてるんだな」
「まあ……オレもよく熱出してたから見様見真似で。
病院は?」
「動けなくて行けなかった。
多分風邪引いたんだと思う……」
湊がやっと汗をかきだした。
タオルで額の汗を拭ってやる。
「その手、まだ痕が残ってるな」
例の傷痕を見て彼が言った。
「ああ、これ?」
「……ごめんな」
「いや、全然そんなの。気にしてないから」
「あの時、急に吠えかかった犬から俺は妹守るの必死でさ。
理玖が枝持って立ち塞がってくれたから俺達は無傷だったのに、お前だけ噛まれて……」
「あれはリード離しちゃったお姉さんが悪かったんだから……」
ちょうど六原にも話していた、小さい頃に公園で犬に襲われた件だ。
湊と妃波を守ろうとして、オレは噛み付かれた。
でも、すぐに追い付いて来た飼い主の女性が物凄く謝ってくれて、家まで来て治療費も出してくれた……
「理玖ってさ、強くてかっこいいんだよなぁ……」
熱が下がって来たのか、眠そうになった湊が天井を見上げたまま言った。
「俺の憧れなんだ……」
憧れ? オレの何処が?
確かめようにも、今にも寝落ちしそうだから聞けない。
戸惑っていたら、またゆっくりと唇が動いた。
「ずっと……側にいて……理……玖」
その言葉を合図にした様に、瞼がトロリと閉じていった。
「湊?」
返事がない。
「側にいてって、どう言う意味だよ」
今、具合が悪いから?
それとも……
聞いてみたけれど、眠りに着いたその瞼は動かない。
布団の上に乗っている手を、そっと握ってみる。
熱はもう、だいぶ下がって来たようだ。
「オレは……ちゃんとそう言う意味でお前の事が好きみたいなんだ」
オレがいっその事、本当の女の子なら良かったのに。
女の子なら堂々と好きだと言えたかも知れないのに。
「……はあ」
オレはため息を吐き、出たままだった手を布団の中に入れてやった。
「まあ、寝たのなら帰るか」
そう言って、はたと気が付いた。
湊が寝てたら、オレが帰った後この家の鍵は誰が閉めるんだ?
焦っていたら、玄関から音がした。
妃波が帰って来た様だ。
ちょうどいいと思って階段を降りる。
「ひなちゃん」
「わ、理玖君? 来てくれてたの?」
彼女が驚いて声を上げる。
「うん。湊が心配で来ちゃった。
でも鍵がなくて……良かった、ひなちゃんが帰って来てくれて」
「ありがとう。お兄ちゃんは?」
「今眠ったよ。
それから、この間はごめん」
「ああ……その事はもういいの」
「え」
「私、お兄ちゃんと理玖君を応援することにしたから」
「ええ?」
「不束な兄ですがよろしくお願いします。
……なんてね。
六原伊織になんか取られないでね?」
……六原に? なんで?
そもそもどっちが?
年下のこの子に、全てを見透かされているかの様な気がする。
恥ずかしくなったので、オレは曖昧な返事をしてその場から去って行くしかなくなった。




