第7話 湊、学校を休む
湊が学校を休む事は、今朝オレに送ってくれたメッセージアプリで知った。
「おはよう、白藤君」
「……あ、おはよう」
隣の席に来た六原が挨拶をして来る。
「どうしたの?」
スマホを見ていたオレに聞く。
「いや、今日湊……黒崎が休みらしくて、メッセが入ってた」
「そうなんだ。風邪かな」
「さあ……」
少し上の空で答えてしまった。
さっき返信したけれど既読が付かないから……
高熱で寝込んでいるのかな。
そんな事を考えていたら、頭の上から声がした。
「黒崎君には悪いけど、それなら今日は君とは沢山話せそう」
「え」
画面から目を離して彼を見る。
……またあの妖艶な目をしていた。
不覚にも少し身動いでしまう。
俳優ってどうしてこんなにコロコロ表情が変わるんだろう。
改めて見ても、男とは違う色気がある気がした。
その時、
「姫、織姫も。おはよう」
と、太田が例の如く寄って来て声を掛けてくれた。
「「おはよう」」
思いがけずオレ達の声が揃う。
「わ、ステレオで聴けた。めっちゃいい」
「今日も可愛いなぁ」
「可愛さ2倍とか、眼福」
いつの間にか寄って来ていたその他諸々が言いだす。
ワイワイ騒がれて少しホッとした。
誰かが聞いて来る。
「あれ? 今日は王子様休み?」
「……黒崎なら休みだよ」
「へぇ、珍しい。今頃熱出してぶっ倒れてるのかな」
「姫~心配だよね」
「う、うん……」
確かに。
親も高校生にもなった息子が体調悪くても放っておいて仕事に行くだろうし、妹は学校だろうし……
きっと一人で寝込んでるんだ。
そう思ったら落ち着かない。
今日は学校終わったら塾があるけれど、休みにして湊の家に行ってみるか……
オレはそわそわしながら午前中の授業を終えた。
昼休みは自然に六原と食べることになった。
少し雑談はしたけれど、頭に入らない。
「あれ、その腕……」
飲み物を取ろうと腕を伸ばした時、不意に彼が聞いて来た。
オレの右手首の傷痕が気になったようだ。
「ああ……これは昔、黒崎と遊んでる時に犬に噛まれた傷なんだ」
湊と妹の妃波と三人で公園で遊んでいた時に、リードが外れてしまった犬に噛まれた痕だった。
3針ほど縫ってある。
「そうなんだ。ごめん」
「ううん。ただちょっとリスカと間違われたら困るかなって」
「そんなことないよ、ほとんど目立たない。
僕が君の事、つい細かく見すぎただけで」
「細かく?」
オレが聞き返すと、六原はちょっと聞き辛そうに言って来た。
「ね、白藤君は……黒崎君のどこが好きなの?」
「え? ……好きって……いうか、親友のつもりなんだけどまあ、そうだな」
落ち着け……変な意味じゃない。
「オレには結構歳の離れた姉が二人いるんだけど、姉達が小さい頃からオレを完全に妹扱いしてたんだよね。
親も面白がって姉のお下がり着せたりしてて……
チビだから疑問にも思わなかったし、物心着く頃にはだいぶ女子っぽくなっててさ」
「分かる。僕にも姉がいるんだよね」
「本当?じゃあ、素がそんなに綺麗ならもうほぼ人形扱いじゃない?」
「そうそう」
意外だ。
六原も家族に女の子扱いされてたのか。
「で、黒崎とは割と小さい頃から一緒に遊んでたんだけど、オレがこんなだから小学校ぐらいになったら『男女』とか『女みたい』って揶揄われる時があって」
「うん」
「でもそういう時、オレよりも黒崎の方が怒ってさ。
『見た目なんか関係ないだろ! 俺の友達を悪く言うな』って言ってくれる事が多かったんだ」
「ふふ。かっこいいね」
「だよね」
湊はオレをオレとして見てくれる。
だから好きなんだ、きっと。
自覚するとますます彼が心配になった。




