第6話 二人の『姫』
昼飯を食い終わったら、見計らった様に周りに人が来た。
「織姫〜、これ俺からの貢物。姫もどうぞ。
今日は俺の奢りね」
太田がそう言って、自販機で買ってきたイチゴミルクティーの紙パックを理玖と六原に差し出して来た。
「いいの?」
「いいのいいの。転校記念。お返しはまたいつかミロルチョコでもちょーだい」
「ありがとう」
「サンキュ」
二人は礼を言って受け取った。
「あのさ、学校見て回るんだったら俺達が案内するよ。杉本も来るよな?」
「おう。行こうぜ」
太田と、寄って来ていた杉本が六原を誘う。
「ありがとう……でも……」
六原は理玖にも着いて来て貰いたそうに振り返った。
「ああ、オレも行く。湊も来て」
「……うん」
理玖が答えて立ち上がると、六原は嬉しそうな顔をした。
五人でいろんな場所に行く。
図書室に音楽室、校内サッカー場なんかを見て回る。
「凄い、校内にグラウンドとは別にサッカー場があるんだね」
「ああ、うちはサッカー部が強いからな」
そんな話をしながら歩いて行った。
幸い、六原はほぼ太田と杉本に捕まった形だ。
少し離れて後ろを着いて行く俺に、理玖がぽそりと呟いた。
「六原って、感じ良いよね?」
「うん、良い奴じゃね?」
俺が返すと、彼がますます小さな声で言って来る。
「……でもさ、朝隣に座った時、顔覗き込んで来てオレの事、『凄く美人だ、美人顔好きなんだ』って言った……」
「え。いきなり?」
「うん……」
俺は思わず止まった。
それって……お前を……
「白藤君、黒崎君、ここは何?」
「なんだっけここ」
その時、先を歩く六原ら三人が声を掛けて来た。
「あ、えーと、ここは視聴覚室かな」
理玖が答えた。
「そうなんだ。広くて階段もややこしい校舎で迷いそうだね」
六原が屈託のない笑顔で返して来る。
さっきの話を聞いたから、まるで理玖にだけは特別な表情を向けて来ているように思ってしまう。
「ちょっと気を付けた方がいいかも」
俺はつい、理玖に囁いた。
「え、気を付ける? 何に?」
「何って……」
そこまで言って俺も、んん? と思った。
別に理玖が転校生と仲良くなっても良くない?
見た目が女の子同士みたいな2人が笑い合ってても。
目にも癒しだ。
転校生に友達が出来るのは良い事だし……
でも……なんだろう、なんだかモヤモヤする。
そこまで考えて、何か足元がフワリとした気がした。
「あ……」
「湊?」
目元もぼんやりする。
「……なんでもない」
俺は理玖に心配させたくなくて強がりを言った。
実は……朝から微熱があった。
だけど、昨日の昼休みの話を聞いていて、気になったから学校に来たんだ。
転校生がよりによって理玖の隣になるとはなあ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
終業になった。
六原は学校で預かっているタブレットの件で教務課に呼び出されていたので、今日は特に用のない理玖と帰った。
……なんとか家まで持って良かった。
帰ったらそのままリビングのソファーに身を預ける。
これは……多分熱が上がってる。
その内妹の妃波が帰って来た。
「お帰り、妃波。
……急だけどさ、お前、『六原伊織』って知ってる?」
「ただいま。
『六原伊織』? ……ああ、『いおりん』って言われてた女の子みたいに綺麗な男子でしょ?
エトフリとかのドラマに出てて、去年の撮影を最後にしばらく休業宣言した人」
「そうそう。そいつがうちのクラスに転校して来てさ……」
「え! 嘘!」
「ホント。それで、理玖の隣の席になった」
「マジで? お兄ちゃんヤバいじゃん!」
妃波が鞄を投げ出して近くに寄って来る。
「いおりん綺麗な子大好きだし、今まで何人か彼氏の噂になった人いるんだよ?
理玖君取られちゃうよ?」
「はあ? お前何言って……そんなの噂だろ?」
俺は呆れて妹の顔を見たけれど、結構真剣な表情をしていた。
理玖が取られる?
別に俺、アイツと付き合ってないけどな。
第一、めっちゃ綺麗だけど2人とも男じゃん。
「……待て、今『彼氏』って言ったよな?」
「うん。いおりん性別なんか気にしないタイプらしいよ?
本当に付き合ってたかどうかは知らないけど……」
ええ?
それってもしかしたら理玖が六原と付き合う事になるとか……
いやいや、有り得ないだろ。
ダメだ、熱のせいで頭がもう、ガンガンして来た……




