第4話 転校生、グイグイ来る
夜、自室で学校の課題をタブレットで解答して送信した後、オレは今日の事を思い出していた。
妃波に告白された事はどうやら湊にはバレていないらしい。
彼女もショックだったのか、悔しかったのかわざと違う揉め事があった様に伝えていた。
……別に告白されて、断ったわけじゃないんだけど。
あの子が先に、オレが湊の事が好きなんだとか騒ぎ出しただけじゃないか……
そりゃ、動揺して変な事聞いたのも悪かったけど。
なんか、オレってよく女子に勝手に怒られるなあ……
思いがけず中2の時に告って来た子と、少しの間だけ付き合った時の事を思い出してしまった。
あの時はいつも一緒に帰っていた湊に断りを入れて、その女子と2人で帰ったり、休みの日にゲームセンターで写真を撮ったり映画に行ったりしたな。
でも、程なく向こうから別れ話を持ち出された。
結局手も握らない内に。
理由は『私より理玖君の方がいつも可愛いくて綺麗だから』だった。
『可愛いから、なんだか落ち込む。自分が隣にいるのはおかしい気がする』なんて言い出されてあっさり振られた。
なんなんだよそれ。
オレだってデートの時とかちゃんと身綺麗にして行くぐらいの礼儀はある。
普通に整えて行っただけだ。
見た目が可愛くて綺麗?
そんな理由で振る?
……実際にはオレの気遣いが足りていなかったのかも知れない。
もっとその子が楽しめるように、いろいろ調べたり優しくしてあげたりした方が良かったのかな?
でも、中2だぞ?
初めて出来た彼女相手にそんなに気を遣えるものだろうか。
それなりに緊張していたし、無理だった。
女子って分かんないな……
何が好きで、何が気に障るのか。考えだしても答えが見つからない。
姉ちゃん達に聞くのはプライド的に嫌だし。
だから湊といると楽なんだ。なんでも話せるから。
それにアイツはオレの事、可愛いだの綺麗だので態度を変えない。
いつだって同じ付き合い方でいてくれる。良い奴だ。
オレはベッドに寝転がり、仰向けになって天井を見上げた。
明るかったサークラインを消す。
「湊には今日、塩対応だったかも。
明日はもっと話そう……」
誰に言うとなく呟いて、暗闇の中で目を瞑る。
オレはその時、次の日に来るイベントに心を乱されることになるなんて、これっぽっちも考えてはいなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日のSHRの時、それは突然やって来た。
「えー、5月のこんな時期だが、転校生を紹介する。
都合でうちの高校に入ることになったが、男子校は初めてだそうだからみんな良くしてやるように。
六原、入って来なさい」
担任が咳払いをして入室を促した先から、生徒が一人、入って来た。
なんだろう。
途端に空気が変わった気がした。
そっと爽やかな風が吹いたかの様だった。
軽やかな足取りで入ってきた彼は……いや、『彼』ではなく『彼女』と言った方がいいんじゃないか……
とにかく、今まで見たこともないような男子の制服を着た美少女がそこにはいた。
透き通るような白い肌、少し柔らかな癖がある色素の薄い髪、男とは思えないような骨格の顔……
「初めまして。六原伊織と言います。よろしく」
担任が背を向けて黒板に彼の名前を書いている前で、優しく微笑む六原を見て、みんな夢を見ているかの様に静まり返っている。
「……姫だ」
誰かが言った。
「本当だ。白藤に負けないぐらいの姫だ……」
「おお!マジかよ、うちのクラスに姫が二人も?」
途端に騒がしくなった。
あまりの彼の美しさに、至る所から姫だ姫だと声がする。
「静かに。もうすぐ授業が始まるんだ。
六原は……そうだな、白藤の横が空いている。あそこに座ってくれ」
「えっ」
オレは思わず小声を出す。
「はい」
六原は素直にこちらに歩いて来た。
「ええーっ?!姫が並ぶ?」
また騒ぎだすクラスの奴ら。
空いてるんだから仕方がないだろ……
「うるさいぞ!もう静かにしろ。なんだお前達『姫』って……
ここは男子校だぞ?」
担任が呆れて言う。
教室はまた静かになった。
みんなの動揺を知ってか知らずか、彼は
「白藤君だね?よろしく」
とにこやかに言って隣に座って来た。
近くで見るとますます綺麗だ。
「……よろしく」
オレはおずおずと返事をする。
「白藤、六原は教科書は揃ってるが、タブレットがまだ学校のシステムがインストール出来てないらしい。見せてやってくれ」
担任の声が飛んで来た。
「はい」
言われるままに、見やすい様に机の間にタブレットをセッティングする。
その時、彼がオレの顔を覗き込んで言って来た。
「……白藤君って……物凄く美人だね。
僕、美人顔好きなんだよね……」
「え……?」
そう言われて顔を上げたオレの前に、ドキリとさせる妖しく輝く瞳が飛び込んで来た。
「こんな綺麗な子の隣に座れるなんて、僕は初日からツイてるよ」
瞳が緩やかに細くなる。
なんだか目が外せない。
元芸能人って言うのは本当なのかな、オーラが凄い。
彼の天然の薄いアイシャドウが滲む目元が妖艶で、吸い込まれそうだ。
オレは堪らなくなって一瞬目を瞑った。
湊……なんかこの人……怖いかも。
そう思ってちょっとだけ、斜め2つ後ろの湊に視線を流した。




