第3話 幼馴染、微妙に俺と距離を取る
妹の妃波と一悶着あった土曜日から日曜を経て月曜日。
いつものように学校に行ったら、先に来ている理玖が朝からまた囲まれていた。
アイツとは家が近いけど、俺がギリギリまで寝ていたいタイプだから、朝は一緒には行かない。
いつも何時に来てるんだろう。
早く着いて文庫本とか参考書とか読んでる。
朝活? タイパ最高じゃね?
頭良いのも分かるよな。
そんな事を考えながら見ていたら、俺に気付いて近寄って来た。
「おはよう、湊」
「おう、おはよう」
いつもの笑顔だ。
可愛い……
周りの奴らも理玖の顔を嬉しそうに見ている。
「あの、さ……ひなちゃん、もう怒ってないかな?」
彼が控えめに聞いて来た。
「何なに、女子?」
「ええ? 俺らの姫が?」
途端に囲んでいた奴らが言い出した。
「姫〜気になる子でも? 俺達がいるのにそりゃないぜ〜」
「わっ」
悪ノリした中村って奴が後ろから理玖に抱き付いて来た。
「あ! てめえ……俺が話してんだよ、離れろ」
俺が思わず睨むとそいつは、
「おっと、王子様が妬いてる。怖い怖い」
と言って離れた。
妬いてなんか……
ほら、理玖がちょっと赤くなってるじゃないか。
きっと嫌だったんだ。
アイツら親しき仲にもなんとやら、とか言うだろ?
もうちょっと距離感考えろよな。
その時、ちょうど始業のチャイムが鳴った。
「……ったく。まあその話はまた昼にな」
「うん……」
理玖は少し項垂れると、自分の席に帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼休みには一緒にいつもの中庭で飯を食った。
心なしか、やっぱり元気がないみたいに見える。
「それで……ひなちゃんはなんて?」
「お前と妃波、なんか、勉強のやり方の食い違いとかで揉めたんだって?
英文の訳し方がどうとかでさ」
俺が言うと、理玖は少し意外そうな顔をしてから言った。
「……あ、ああ……
ええと、まあそんなこんなで怒らせちゃったみたいで……」
「もう別にいいとか言ってた。
アイツも独りよがりなとこあるから、ごめんな」
「ううん、そんなことない。
オレの方こそごめん」
そう返すと少しホッとした顔になる。
良かった。
理玖の困ったような、元気のないような顔は見たくない。
「それにしても」
俺は続けて言う。
「妃波が俺の事を『恋のライバル』って口走ってたのは意味分かんねえ。
一体誰と誰の事言ってるんだろ、なあ?」
「うわっ」
何故か理玖が慌てて、食べていたおにぎりを落としそうになった。
「どうした?」
「な、なんでもない。手が滑った」
そう言って焦った態度でちょっと横を向く。
「……み、湊は……その、『恋』とか言われる事に心当たりでもあるの?」
ん? 変な事を聞いて来るな……
好きな奴が出来たらお前に言わない訳ないと思うけど。
「俺は別に恋愛とかしてねーよ。残念ながらフリーだ」
「そうなんだ……」
「まあ、妃波の勘違いだと思うけどな」
「……ふうん……」
あれ。
今日はなんか、理玖がよそよそしくない?
いつもこんなだっけ?
もっと俺の方向いてニコニコしながら話すのに。
もっと近くに寄って来るのに、今日はベンチに人二人分程空けて座ってる。
妃波との事、そんなに気にしていたのかな。
それならもういいのに……
たかだか中学生の我儘だったんだろうし。
「理玖……」
俺が話し掛けた時、近くを二人組の生徒が歩きながら話している声が聞こえて来た。
「明日さ、2年1組に転校生来るんだって」
「マジで?こんな時期に?」
「それがさ、元芸能人らしいんだ。女子に騒がれるから男子校に編入したんだと」
「元芸能人? スゲーじゃん。誰よ」
「『六原伊織』。ジェンダーレス男子って言われるぐらいのめっちゃ美少女!」
「へえ!」
そいつらは通りすがりに俺達を見てクスリと笑った。
「こりゃ、うちの学校の『姫』はこれからそいつになるかも知れないな。
残念だったな、お二人さん」
なんだって?
理玖が『姫』じゃなくなる日が来るって言うのか?




