第15話 三人、説教される
昼休みに揉めたので、俺達三人が呼び出されたのは午後の授業が終わった放課後だった。
生徒指導室は広い。
プライバシーを守る為のパーテーションで仕切られたいくつかの個室に、テーブルと椅子が揃えてある。
「で? 結局何が原因で揉めたの?
優等生クラスなのに、珍しいわね」
その一つのブースの中で、椅子に腰掛ける生徒指導部の先生が、理玖と俺と六原を前にして困惑気味に聞いて来た。
男子校にしては珍しく、若い女の先生だ。
「「「……」」」
俺達は黙って先生の正面に座っている。
「黙ってちゃ解らないでしょう?
事と次第によっては、三人とも自宅謹慎になっちゃうわよ?」
先生が諭す様に言う。
「……あの」
暫くして六原が口を開いた。
「僕が悪いんです。
僕が白藤君を挑発して、揉めてしまいました」
へ?
コイツ何言って……
俺も理玖もやや驚いた顔で六原を見た。
でも彼は如何にも真実を語るかの様な顔で続ける。
「僕、白藤君が頭も顔も良くて運動も出来るのが羨ましくて、嫉妬しちゃって。
何処か弱みがないか探ろうとしたんです。
それで、武道やってるって聞いたから『どうせ大した事ないんだろ、どんなものか見せてみろ』って言って……僕が先に手を出しました」
違う意味の『手』だけどな。
「そしたら白藤君がびっくりして、避ける為に技を掛けて来たんです……
黒崎君は、白藤君に手を出した僕に怒っただけで……」
流石俳優!
見事な嘘だが演じ切っている。
ナイスだ六原、よし俺達もその弁明に乗ろう。
俺と理玖は途中からいかにもそうだったかの様に相槌を打ち出した。
「本当なの? 白藤君、黒崎君」
「はい」
「まあ、そうです」
先生は軽く息を吐き、テーブルに肘を付いて手を組んだ。
「六原君はもう休学するのよね?
お仕事に復帰する直前なの分かってる?
些細な事で揉めちゃダメじゃない」
「すみません」
「白藤君も武道経験者なんだから……今回は手加減出来たみたいだけれど、無闇に技を使っちゃダメよ?
十分病院送りに出来る強さなんだからね」
「はい」
「えっ? 白藤君ってそんなに強いの?」
思わず六原が聞く。
「ああ。白藤は地域の神社の、古武道奉納の演武に呼ばれた事もあるぐらいなんだ」
俺が説明する。
「そうなんだ……」
彼の顔が一瞬青ざめた。
「黒崎君も。友達想いなのは分かるけど、掴み掛かってはだめよ」
「すみませんでした。ついカッとしてしまって」
俺もひたすら謝る。
六原が思い出したのか、掴まれた自分の胸元を手で触れた。
先生はしかし、ふっと笑って言って来た。
「でも、正直な事言うとね、先生少しホッとしてるの」
「「「?」」」
「白藤君も六原君も、こう言っちゃなんだけど凄く綺麗で可愛いじゃない?
失礼なんだけど、実は心まで乙女なんじゃないかと心配でね。
てっきり二人が黒崎君を取り合ってるんじゃないかとか思っちゃったのよね。
良かった。喧嘩の原因がちゃんと男の子っぽい理由で」
そう言って彼女は爽やかに笑った。
そんな笑顔を俺達に向けないでくれ、心が痛いから。
でも先生の中では、なんで二人が俺を取り合う事になってるの?
ええと。
そうじゃなくて、今回って結局、俺と六原が理玖を取り合ったって事になるのかな。
俺も割とガチじゃなかった?
探している時、理玖が六原に取られるんじゃないかと思って焦った。
別に、二人がお互いに好きならそれでもいい筈なのに。
それに、キスされそうになったと知って、本気で腹が立った。
『俺の理玖になんて事しやがる』って思ってしまったんだ。
よく考えたら、俺だって彼と付き合ってる訳でもないから、普通ならそこまで怒らなくてもいいのかも知れなかった。
確かにキスぐらい、イベントでテンション上がりすぎてノリでやってる奴を見た事もある。
じゃあこれは嫉妬? 独占欲?
あー、俺って……
そうなんだな。
先生ごめんなさい。
ベクトルは違うけど、その妄想多分当たってます。
心が乙女って訳じゃないけど、俺、理玖の事が相当好きです。
自覚したら急に恥ずかしくなって、俺は下を向いてしまった。
先生にはその姿が、猛省している様に見えたらしい。
——俺達は今回は怪我人も出なかった事だし、反省している様子なので口頭注意だけで済んだ。
皮肉にも騒動の原因になった六原の機転で救われた形になったんだ。




