第12話 俺が見たのは幻か
なんだったんだあれは?!
俺は幻を見たのか?
アウトレットモールで高橋と足早に歩きながら、俺は混乱する頭の中を必死で整理させていた。
あれは理玖だった。
すれ違った時に分かってしまった。
なんで分かったんだろう。
完全に別人みたいになっていたのに。
……あれだ、いつも一緒にいるからだ。
背格好とか雰囲気で分かったんだ。
……と、思う。
それにしても凄い格好していたな!
一瞬どこかのモデルかと思ったぞ!
多分お姉さんに仕組まれたんだろうけど……
いや、もしかしたらアイツは積極的に女装するタイプだったとか?
自然な雰囲気で着こなしていたし。
それにしても、俺には見られたくなかったのかな。
あれはあの場から逃げ出した感じだった。
文化祭の件もあったし、元から凄い美人なんだから……
びっくりはしたけれど『うお、可愛いじゃん』程度にしか思わなかった。
お姉さんの、理玖への妹扱いのフォローも完璧だったな。
あの様子だとやっぱり何か言いくるめられて、付き合わされていたんだろう。
考えを巡らせながら歩いている横で、高橋が嬉しそうに言って来た。
「なあ、あの子お前の幼馴染だって?
めっちゃ可愛いじゃん!
どこの高校に行ってるの?
女子校とかかな」
「さあ……詳しくは知らない」
あれはお前の隣のクラスの奴だよ。
しかも男だよ!
……確かにあんなに可愛くて綺麗なら、男はみんな騙される。
文化祭の時も思ったけれど、女装しても全然おかしくない顔と骨格してるんだよな、アイツ。
高橋がまた、惜しそうに言って来た。
「折角だから写真撮ってやれば良かったのに。
服もよく似合ってたし」
「……そういうのはいいんじゃないかな。
偶然出会ったのにいきなり写真撮らせろとか言えないだろ、普通」
「そりゃそうか。
しかし、マジ可愛かった。
彼氏とかいるのかな……」
そう言って残念そうに頭の後ろで手を組んだ。
期待するなよ……
「さ、さあな」
思わず「いねーよ」と返しそうになったけれど、何故俺がそんな事を知ってるんだってなったらややこしい。
そしてもう一度心の中で言おう。
アイツはお前の隣のクラスの『男』だ。
はあ……
俺はこっそりため息を吐いた。
明日、どんな顔でアイツに会えばいいんだろう……
まあ、いつものままの方が良いのか。
でも、俺だってあんな姿を見たら動揺する。
それを悟られるのもなんか悪い気がした。
だからどうしようかと思ったけれど、理玖が遠目に人とぶつかりそうになって止まったから、思わず駆け寄ってしまった。
あの時、ちょっとビビったのもあって、逆に冷静に対応出来て良かった。
カメラや機材を設置したりする時用に、ウェットティッシュを持ち歩いていたのが役に立った。
俺は……アイツの見た目が綺麗な所が好きなのかな。
例えば凄く背が高くてマッチョでいかにも『漢!』みたいな理玖ならどうだったかな。
……それはそれでいいかも。
うーん。
なんだか自分に自信がなくなって来た。
本当に、俺は理玖が好きなのかな。
『親友』としての『好き』だとは思うんだけど。
高橋はもう手が届かない存在だと思ったのかその話題から離れ、次の撮影スポットに行こうと俺を誘って来た。
言われるままに広場に行く。
イギリス風のハーフティンバーが美しい建物を背景に、噴水を撮るんだ。
学校の写真部として、近くのショッピングモールのイベント広場に展示をしないといけない。
美しい庭園風の中の、天使の像が掲げる甕から水が溢れ出ている噴水の前に来た。
ここにあの姿の理玖がいたら、どんなに映える事だろう……
しかし今日は風景を撮りに来たんだ。
一般客も通る場所での展示会だから、個人が写り込まない様に気を付けなくてはいけない。
俺は慎重にカメラを向けてシャッターを切る。
もう今日は、理玖にまた出会いませんように。
……本当は会いたいけれど、これ以上は俺だって高橋を誤魔化せないからな。




