【2017クリスマス】リリウムとユウリの、悪夢が蘇るクリスマス?!〜聖夜の夢の中へ〜(2) 《We wish you a merry christmas,and past nightmare?!》
「……ひっ!!」
聖夜は思わず顔を上げる。彼女はさっきまでよりもはるかに暗い、何も見えない真っ暗闇の中にいた。それに加えて、木枯しのように冷たい空気が流れ、雪のように冷たい地面が気力を奪っていく。
「何……ここ……」
聖夜は、不安と冷たさに震えながら辺りを見渡した。そこにはさっきまでいたはずの、リリウムもユウリもいない。
すると彼女の後ろから、誰かがとんとん、と肩を叩く。
聖夜の肌に伝わる気味の悪い冷たさ。彼女はそれに震えながら、反射的に後ろを振り向く……。
「きゃぁぁぁあああああああああ!!」
そこにいたのはリリウム……ではなく、リリウムに似たあの“悪夢”の少女だった。
「嘘……、嘘っ。嘘……!」
聖夜が顔を真っ青にする反面、少女はにやにやと不気味な笑みを見せている。
『本当なの。彼もいるよ……』
『こんばんは、聖夜』
聖夜が再びを向くと、そこには“悪夢”のサタンクロースがいて、聖夜を見下ろしていた。それは、ユウリそのものと思えるほど似ているものだ。
「ユウリ……じゃなくて“悪夢”…………」
頭の中が混乱し、呆然とする聖夜。
『今日はいつも以上の怯えっぷりじゃないか。聖夜』
サタンクロースは、高らかに笑った。
その一方で聖夜は、完全に言葉を失っている。
『もう言葉が出ないんだな。それはいい話だ』
サタンクロースは、完全に顔をにやけさせている。
『りりの人形にしてあげるの』
少女は、片腕で聖夜の身体を抱え、もう片方の腕で聖夜の首をがっつりと絞める。聖夜は死んだ魚のように目を濁らせ、口を開いたまま大きな反応も見せない。
『リリィ、そう焦るな。後でもたっぷり遊んでやれるんだから。それより聖夜、お前はさっき、救われると思ってたんだろ?』
サタンクロースは聖夜へたずねる。しかし、彼女はずっと固まったまま何の返事もしない。
その態度にサタンクロースは呆れ、そのままこう話し始めた。
『いいか。お前は誰にも救われる事はない。なんと誰に言ったとしても、理解される事はない。増してや、言わなければ一生理解される事はない。言ったとしても、お前自身はこのまま俺らに遊ばれるだけ。だって、お前の様な奴は誰一人とこの世界には帰ってきていない。恐怖を植え付けられた周りの子供たちも、怯えながらも社会で暮らしている。それに比べてお前はなんだ?一回悪夢を見たくらいで学校にも行けず、進学も出来ず、毎日鶏のように、部屋の片隅で震えているだけ。無意味な毎日を無駄に過ごし、身勝手な概念から心を閉ざし、無駄なエネルギーを使い、お前の知らない間にもたくさんの人間に迷惑をかけている。このままでは、ろくな大人になんてなれないと分かっていたとしても。だからお前はクズなんだよ。正真正銘のクズ。どうしようもないクズだ!』
サタンクロースは声を上げた。それにつられて少女も、
『クズだクズだ!』
と連呼した。
それでもなお、意識呆然で反応がない聖夜。
サタンクロースはそんな彼女を、次はさっきの罵声とは一転、人形やお姫様のように大切に抱く。そして、サタンクロース自身の顔を聖夜の顔の真ん前に近づけ、恋人に語りかけるように優しい口調で言う。
『なぁ、聖夜。明日は何の日か知ってるか?───クリスマス・イヴだよ。そして聖夜、お前の名に相応しい日だ。俺らの事を、大切に思ってきたことに感謝してやるよ。だから明日は、
“全てのクリスマスを悪夢に染めてやる”よ。
だからお前も、協力してくれるよな……』
サタンクロースは、そのまま聖夜のくちびるに口づけをする。意識のない彼女に対し、愛玩人形のように、あまりにも身勝手に、そのまま舌を入れてお互いの唾液を絡ませていく……。
『もうー……りりの人形なのにー……』
少女は激しく嫉妬を覚えた。そしてサタンクロースに負けまいと聖夜の首を更に絞め、彼女を抱いていたもう片方の腕をそっと身体を沿わせながら下へ下へとやる。
聖夜に伝わる快楽と苦痛。そんな中、彼女は“悪夢”のような瞳をして再び目覚めた。
『はい……』
冷たい空気の中、顔や身体を火照らせながらする返事。聖夜は自然に、もう“悪夢”に全て委ねてしまおうかと考えていた。
その時だった。
「いたの!」
リリウムの声だ。
『何っ』
サタンクロースは声のする方を向く。するとそこにはリリウムとユウリが、微かな光で闇を照らしながらその場にいたのだ。
『貴様ら……何をしに来た……』
サタンクロースが、どこからともなく現れたリリウムとユウリを威嚇する。
「おい俺によく似た奴!今すぐ聖夜を離しなさい!!」
ユウリは、自分によく似たサタンクロースを指差して言った。
一方のサタンクロースは、それを見て不気味に笑い始める。
『なんだ、俺の偽物でも現れたというのか?傲慢な神の創り出した幻か?』
「偽物はそっちなの!りりの事もパクリやがって!!」
リリウムも見当違いかと呆れ、サタンクロースと少女を指差しながら言い返した。
それに対し、少女は黙っていない。
『りりは偽物じゃないもん!たまたま似てるだけのどこが悪い!』
少女はリリウムに指を差し返した。
リリウムはそれに対して不快な感情を覚え、軽く怒りをあらわにする。
「はぁ?りり“が”本物なの。悪夢の作った真似っこと同じにされたくないもん。」
『さて、それはどうかな』
サタンクロースは、話の間を割るように不気味な笑みを浮かべていた。まるでリリウムを馬鹿にするかのように。
それに対して、リリウムは反発する。
「何がおかしいって言うの」
『彼女はどう思っているのかなぁ……』
そんなリリウムに対してサタンクロースは、人形のように固まっている聖夜の顔を向けた。彼女にほんの少しあった血の気も全く無くなり、生きた感じが全くといってない。まるで“悪夢”の人形だ。
それに対して、リリウムとユウリは動揺する。
聖夜は血の気もない顔で、ゆっくりと口を開き始めた。
『私ニとっテ、本当の二人ハ……“悪夢”ナノでス』
ただ淡々と、片言で話す彼女。
「そんなの嘘だっ!目を覚ませ!」
ユウリは瞬間移動で聖夜に近づき、そのまま“悪夢”から取り返そうとする。
しかしサタンクロースは、そんなユウリの腕を強く掴んだ。
「……うっ!」
瞬時にしてユウリの体内に強く、禍々しい闇の電流が流れる。サタンクロースが手を離すと、彼はそのまま倒れてしまう。
それは
ユウリ自身も認識できなかったほど、一瞬のことであった。
「ユウリ!!」
リリウムはそう言うと同時に、こちらも聖夜を掴もうとした。
しかしこちらも、少女に首を絞められて脅される。
『同じ目に逢いたいのー?』
「偽物の癖に生意気な……」
リリウムは歯を食いしばった。
リリウムの首を更に強く絞める少女の手。こちらもまた、闇の電流がリリウムに流れこむ。
少女が手を離すと、リリウムもぱたりとその場に倒れた。
『……なの』
それを見たサタンクロースは、恍惚の表情を浮かべる。
『これで計画は順調……後はこの調子でいけば……』
そうして、リリウムとユウリの知らない間に、
全世界のクリスマスは闇に染まりつつあった。
もちろん、彼らの住むところでも……
***
とある世界の、とあるお屋敷の中。三人の少女たちは、クリスマスツリーに飾り付けをしていた。
「クリスマス、楽しみだね。おねーちゃん」
「そうだね……」
「そういえば、ゆーりん帰ってこないね……」
「本当。心配……」
「急にいなくなった……みーにも分からない……」
「レナ!みーちゃん!ツリーが……」
少女たちはツリーを見ると驚いた。先ほどの緑が生い茂っていたものとは一転、黒く枯れて腐臭を発していたのだ。
「どーいう……ことだろ……」
一人の少女は、自分だけでは対処のしようがない不安を感じていた。
***
一方、別の世界では。
青年は薄暗い部屋の中で、勉強をしながら一人でつぶやいていた。
「はぁ……。リリィは急にいなくなるし、毎年恒例の『ルナリア・クリスマスウィーク』は盛り上がらないし、どうしたんだろ。まるで、世界がクリスマスを拒否しているかのよう……クリスマスって……そもそも何のお祭りだっけ?」
彼はさっきまで何を考えていたのだろうと、ただ、ぼーっと天井を見上げていた。
***
───本当に、このままでいいんじゃろか。勇者達よ
澄んだ冷たい空気。厚く雲に覆われた夜空の中、ひらひらと地面に降り積もっている雪。ひんやりと冷たい雪が、倒れているリリウムとユウリを起こすように、二人の肌にそっと触れていく。
それに気づくように、二人はゆっくりと目覚めた。
「やっと起きたかのう」
二人に語りかけるおじいさんの声。それはとっても寛大そうで、彼らの幼い頃の記憶を呼び起こす声だ。
「あの声は……サンタ・クロース?」
リリウムは、その声の主が誰か自然に思い浮かんだ。
「……サンタさんって本当にいるの?」
ユウリにとって、その存在は半信半疑だった。しかし彼は、聞き慣れたその声に確かに親しみを感じていた。
そんな二人の目の前に、赤い服を着たおじいさんが現れた。
「ほっほっほ。この私こそが、サンタクロースだ。お主たちは……リリウムちゃんとユウリくんでよかったのかね?」
そのおじいさんは微笑んでいる。彼は小太りの身体に、サンタクロースの赤い服と帽子を身につけ、白くもじゃもじゃとした髪、同じような長いひげをあごから垂らしている。足元には黒いブーツ。片手に持ち、肩にかけているのは白い袋。それは正真正銘、あの存在を示すかのようである。
それを見たリリウムとユウリは確信し、自然と笑顔がこぼれる。
「はい、サンタさん」
二人の小さい子さながらの純粋な返事に、サンタクロースも笑っていた。そして彼は、そのままこう続ける。
「ほっほっほ。よい返事じゃ。二人は、数年前に現れた“悪夢”から、クリスマスを取り返そうとしておるんじゃな?」
「はい」
「でも、悪夢が強すぎて負けたの……」
ユウリが返事をする一方で、リリウムは憂いを見せていた。
サンタクロースは、リリウムの頭を撫でる。
「それは大変だったのぅ。“悪夢”は、その“夢主”の元々の心の強さや、持ちように左右されるからの……。もちろん、それを責めることは誰にも出来まい。その“夢主”はどんな感じだったのかの?」
「最初はりり達が“悪夢”に似てるからなのか、りり達を見ると怯えてたの。けれど、ユウリと一緒に無理矢理にでも落ち着かせたら、少しは心を開いてくれたんだけど……」
リリウムはサンタクロースに話すも、聖夜のことを考えると途中で言葉が詰まってしまう。
そこへすぐに、ユウリがフォローを入れる。
「やっぱり彼女は“悪夢”に囚われているせいなのか、黒い霧に包まれて消えてしまった。次に俺たちが探して見つけた時には、まるで“悪夢”に操られてしまっていたようだな」
サンタクロースはそれを聞くと、眉間にしわを寄せた。
「ほう……それはまずいことになったのぅ……」
「サンタさん、何か方法は無いか?」
ユウリがそうたずねると、サンタクロースは頭を抱えて考え始めた。しばらくすると、サンタクロースは何か思う節があったのか、一回うなづくと話し始めた。
「ほぅ。思い出したぞ。その子の心に、“希望”を届ければいいのじゃ」
「希望?」
リリウムとユウリは、声を合わせて聞き返す。
「そう、“希望”。それはツリーの星の輝きのように、暗い夜空を照らすもの。それが強く輝いていれば人は、どんな状況でも夢や信念を持ち、歩いていけるのじゃ。ただ、一つ問題があっての……」
サンタクロースは、憂うような表情を見せた。それは自らの掲げる“希望”とは逆を連想させる。
ユウリはすぐに、その理由を聞き返す。
「問題とは何?」
サンタクロースは、深々と語り始める。
「それはのう……、いくら人が“希望”を渡しても、それを本人が受け取らなければ意味がないのじゃ。確かに“希望”は、人がいくらでも示すことはできる。しかしそれを受け入れ、自分の糧にしていくのは、受け取る本人なんじゃよ。わしは今からこの手でお主らに、子供達が悪夢によってかき消された、“希望”を託す。しかし、絶望で満たされた心にもう一度希望を灯すのは難しいことだ。閉ざした心に突き返される事もたくさんあるからの。それに、先ほどリリウムちゃんが言った通りその子にとってお主らは“悪夢”の生き写し。お主らが“希望”になれるかは、お主らと、その子次第じゃの。お主らはやれるかね?」
サンタクロースからの問いかけに対し、リリウムとユウリは戸惑いを感じた。しかしお互いに、このままでいるわけにもいかない。二人はそう感じたので覚悟を決め、お互いの瞳を見つめ合った後、サンタクロースに向かって返事をする。
「はい」
それを聞いたサンタクロースは、再びにこやかな笑顔を見せた。
「二人ともいい子だ。頼んだよ」
サンタクロースは背負っていた袋を下ろす。袋の中をガサゴソとあさり、“希望”を手にとると、袋の外に出す。そして綺麗にラッピングされた手のひらサイズのそれを、リリウムとユウリに差し出した。
リリウムとユウリは二人で一緒に、それを受け取った。触ると硬く、ほんのりと暖かい。まるでランタンが中に入っているようだ。二人はそれがなんとなく気になっり、じっと見つめていた。
その様子を見て、再びサンタクロースは笑う。
「ほっほっほ。やっぱり気になるかのう。お主らも、無意識に求めている事だからのう。それと、わしも少し手伝ってやろう」
サンタクロースは人差し指を夜空に向かって立て、前腕ごとくるりと一回転させた。
するとどうだろう。ユウリの服装が、白いファーがついた真っ赤な帽子と真っ赤な服が特徴のサンタクロースに変わったではないか。
リリウムの服装もまた、袖先や裾、襟に白いファーがあしらわれた膝上丈の赤いコートに変わった。頭にはヒイラギがついた黒いリボン、服の前身頃にもまた、黒いリボンが3つあしらわれている。
「可愛いの……」
リリウムは服を見ると、その場でくるくると回り始めた。
一方でユウリは、自分の姿を服装を見るや驚く。
「俺がサンタ?!」
「とっても似合ってるの」
リリウムはクスクスと笑っている。
「笑うなぁ!!」
ユウリは赤面になった。
それに乗じて、サンタクロースも自慢げに笑う。
「ほっほっほ。よく似合っておるぞ」
ユウリは何も言い返せずに、“希望”を手に持ったままその場から逃げようとする。
次の瞬間、彼の視界一面にリリウムの顔面が入ってきた。
「逃げちゃダメなの」
にこにこと笑いながらユウリの瞳を見つめ、威圧をかけるリリウム。その光景を背後から、微笑んで見ているサンタクロース。ユウリには逃げる余地が無かった。
ユウリは、ためいきをついた。
「分かったからやめろ……」
「それでいいの。二人で届けに行くの」
リリウムはユウリから、適切な距離を取った。
「ほっほっほ、やっぱりわしが選んだ子じゃ。……ん?」
サンタクロースは空を見上げた。雪はやみ、厚い雲に覆われた空はゴロゴロと雷音を鳴らし、ところどころから黒い稲妻が走っている。
「これはまずいのう……。二人とも、あのドアの先が“悪夢”に繋がっておる!早く行くのじゃ!」
サンタクロースは慌てた様子だった。
彼の指差す先には黒い階段が現れ、その先には黒い星のついた黒紫色のドアが見える。
「行くぞ!」
「行くの!」
リリウムとユウリは階段を駆け上がり、ドアの先へと向かっていった。二人がドアに入ると、その場から階段もドアも消え、雷が鳴る空の下でサンタクロースをただ一人残した。
「リリウム……ユウリ……頼んだぞ…………」
サンタクロースは、彼らがいなくなってからも、その背中をただ見つめていた。




